人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新・NAGISAの国のアリス(44)

 不吉な予感がするわ、とアリスは思いました。ふだんのアリスなら縁起などかつぐことはめったにありませんが、こんなに変なような、予想通りによくあるようなことの連続ではついついよけいに用心深くなってしまうのです。だっていつの間にか(44)になっているんだもの。カッコの中がどれだけ続けば先の見透しがつくのかしら。4が3つ続いて444になる日まで?とアリスは思い、444を日にちとすれば約15か月だわ、と暗算しました。では4444日だったら?約12年、と計算したのはアリスではなく、アリスの本の著者の、数学教師のドジソン先生でした。4444の日と夜、それは干支が一周し、戦火で焼け野原になった国が復興するのに要するだけの歳月です。
 もう離してよ、とアリスは身動きしようとしましたが、四肢と髪はまだがっしりと押さえられていました。さっきライターをかざした小人が髪を押さえているのだとしたら、両手両足と合わせて少なくとも5人の小人に捕まっていることになります。そうよね、とアリスは思いました、7人じゃ白雪姫の小人だし6人じゃおそ松さんだわ、それに小人って奇数じゃないとそれっぽくないじゃない?アリスは自分の明察にうっとりするところでしたが、それどころじゃないと腹が立ってきました。怒れば怒るだけ無駄なのですが、暗くて深いあなぐらの中で小人に押さえつけられているのはさすがに楽しいどころではありません。
 あんたたちの中でリーダーは誰よ、とアリスは誰何しました。さっきのライターの小人だろうか。ですが文化人類学の常識では、対象となるコミュニティと接触する際、最初に近づいてくるのはコミュニティの中では除け者扱いされている場合が多いからサンプルとしては不適格とされています。5人きりの集団をコミュニティと言えれば、まあブライアンの例もあるし、とアリスは有名ロックバンドを連想しましたが、そもそも小人に文化人類学の常識が通用するかが疑問ですし、しかまただの小人ならまだしも地底人の小人です。
 お前は差別主義者だな、と小人のひとりが言いました、この穴が続いている国の奴らはみんなそうなんだ、文明は自分たちの国にしかないと思ってやがる。
 はっはー笑わせるわね、とアリスは状況も忘れてせせら笑いました、私は小人に説教されに来たんじゃないわよ。
 それじゃ一体何しに来たんだ、と小人。アリスは返答に窮しました。
 あざ笑う小人たち。