人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・改(38)

 このカバ!と花嫁のフローレンまたはノンノンこと現在のムーミンママは罵りました。カバ?それが何だというのだ、とムーミンこと現在のムーミンパパ。まあそうだよな、と親友ロッドユールは思いました。こういう話を知っているかな?と平然とムーミンパパ、昔むかしあるカバが神を呼び止めて願い事をしました、神さま、私たちは河に住みたいのです。どうか河に住む許可をいただけませんか。
 駄目だ、と神さまは言うと、カバをしげしげと観察しました。首らしき頭と胴体の区別もないずんぐりした体に短かすぎる四肢、滑稽な尻尾、あらゆる意味で醜い存在ですがそれがカバの美の基準なのです。駄目だ、と神さまは言いました。
 そんな、何故ですかと問うカバ。お前たちが河に住んだらきっと魚を喰い尽くすに決まっている、と神さま。では私たちは糞をする度に尻尾で一列に並べます、とカバ、そうしたら糞に魚の骨が混ざっていないか神さまもご覧になれるでしょう。
 ならば良かろう、と神さまは言いました。それでカバは河に住むようになったのです。……実際カバは基本的には草食で、ところが近年草食動物のほとんどが積極的な捕食ではないが、手近な死骸を食することは普通に行うとわかってきた。カバが水中に住むのはクジラに次ぐ大きな体躯の哺乳類で陸棲には不向きな巨体でもあり、皮膚組織が水棲に順応して直射日光に耐えられないからでもある。
 意外だがカバには水泳能力はまったくない。陸上では最高時速40kmの意外な駿足が観測されるが長時間の陸上活動はきびしい。さて、これでも私はこのカバ呼ばわりされなければならないのかな?
 カバは川棲であることから淡水水源を起点とした古代文明圏で文明発祥時から観察されてきた最古の哺乳動物でもあるが、それほど身近でありながら飼育化され家畜化されなかった最古の哺乳動物でもある。緩慢そうな外観に反して性質は極めて獰猛で縄張りに厳しく、縄張り内では常に虐殺を伴うボス争いがあり、群れのボスは縄張りに侵入する外敵があれば直ちに虐殺する。つまりカバとは棲息圏の棲み分けをする以外に共存はできないのだ。これはカバが異種生物との共存を考える文化を持たない種族であることを意味する。
 さてさて、これでも私はカバ呼ばわりされなければならないのかな?神さまとカバの寓話はあくまで寓話だが、現実のカバは神の存在を必要としない実在するツァラトゥストラでもあるのだ。