人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・改(40)

 お話中たいへん失礼いたしますが、とウェイターがいつの間にかムーミンパパたちの背後に現れていました。そろそろご注文はお決まりでしょうか?
 今確かに失礼と言ったな、とムーミンパパが鬼の首をとったかのように詰問しました、ああ失礼だ。実に大変失礼だぞ。
 まああなた、とムーミンママがバッグにしのばせたムーンライトステッキをいつでも取り出せるように握りながらなだめました。セーラームーンならばムーンプリズムシャワーで浄化させるだけですがムーミンママの場合は延髄を一撃して神経麻痺の実力行使で黙らせるのがステッキの使用法です。こんなに周りに大勢集まっている場でそんな荒技に出れば本当ならば大騒ぎなのですが、ムーミン谷の住民は一部の例外的存在を除いて都合の悪いことは目に入らない美徳を備えておりましたから、ムーミンママがムーンステッキをムーミンパパの延髄に打ち込んだとしてもその間は時間は一時停止しているようなものでした。だいたいムーミンママがそうするからには谷の正義はムーミンママの方にあるのですから、見て見ぬふりにも正当な理由があるというものです。
 一部の例外というのは他ならぬ偽ムーミンでした。それを思うと偽ムーミンはいつでも背筋が凍る思いがしました。ムーミンママが偽ムーミンの入れ替わりを排除しようとすればおそらく谷の住民全員の記憶から偽ムーミンを消去できるのです。こんにちは、ムーミンいますか(とムーミンのガールフレンドのフローレン、または友だちのスニフが訪ねてきたとして)?うちにはそんな子はいませんよ、とフローレンやスニフの記憶を消し、それから偽ムーミン自身の記憶も消してしまい、ムーミン本人が戻ってきてからムーミンについての記憶を回復させれば、後は偽ムーミンの残骸が一切の記憶を失くして、またムーミンママ以外の誰の記憶からも消えておさびし山の藪の中を行き倒れるまでさ迷うしかありません。
 はらはら偽ムーミンが見守っていると、まあまあまあ、と谷の良識、ヘムレンさんとジャコウネズミ博士とヘムル署長がムーミンパパをなだめました。ここはウェイターの顔を立ててそろそろ注文しようじゃないか。
 やでい!とムーミンパパは三船敏郎みたいにゴネました。だいたい何で今になって急に注文を急かされなきゃならないんだよお。ヘムレンさんたちは顔を見合わせました。それはさ、ここまででもう全8章の半分だからさ。
 第4章完。