人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ザ・ミュージック・マシーン The Music Machine - トーク・トーク Turn On (Original Sound, 1966)

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ザ・ミュージック・マシーン The Music Machine - トークトーク Turn On (Original Sound, 1966) Full Album : http://youtu.be/UulFcFGAcSY
Recorded at RCA Studios, Los Angeles, California, November 1966
Released by Original Sound Records SR LPM 5015, December 31, 1966
All songs written by Sean Bonniwell except where noted.
(Side One)
A1. Talk Talk - 1:56 *US#15(Billboard)
A2. Trouble - 2:11
A3. Cherry, Cherry (Neil Diamond) - 3:12
A4. Taxman (George Harrison) - 2:33
A5. Some Other Drum - 2:29
A6. Masculine Intuition - 2:08
(Side Two)
B1. The People in Me - 2:53
B2. See See Rider (Ma Rainey, Lena Arant) - 2:29
B3. Wrong - 2:16
B4. 96 Tears (Rudy Martinez) - 2:17
B5. Come on In - 2:54
B6. Hey Joe (Billy Roberts) - 4:12
[ The Music Machine ]
Sean Bonniwell - lead vocals, rhythm guitar, horn
Mark Landon - lead guitar
Ron Edgar - drums
Doug Rhodes - keyboards, tambourine, backing vocals
Keith Olsen - bass guitar, backing vocals

先行シングル「Talk Talk」(1966年秋・全米15位)以外は1966年11月録音、リリース年月日は1966年12月31日とされていますが当時のアメリカのインディー・レーベル盤は発売奥付の半月~1か月早く店頭に並んでいたそうですから、録音完了から発売までの速さまでには驚かされます。プロモーション期間をかけて情報が行き渡った頃に発売する、という販売戦略が一般的になったのはミリオン・セラー・アルバムが相次ぐようになった60年代末以降のことでした。60年代中期にはシングルがヒットする兆しがあるとすかさずアルバム制作が決定し、完成即発売されていたのです。ザ・ミュージック・マシーンもアメリカのガレージ・バンド・ブームに乗ってデビューしたロサンゼルスのローカル・バンドで、カウント・ファイヴやエレクトリック・プリューンズ、ザ・リッターなどと同じような立ち位置でした。
ミュージック・マシーンのオリジナル・メンバーでのアルバムはこの1作だけで、リーダーでヴォーカルのショーン・ボニウェル以外のメンバーは事実上セッション・ミュージシャンでセカンド・アルバムをショーン・ボニウェル&ザ・ミュージック・マシーン名義でリリースしましたが、ボニウェルはその後実業家になったそうです。ちなみに本作のベーシストを勤めたオリジナル・メンバーのキース・オルセンはエンジニアに転向し、やがて西海岸ポップ/ロック界の大プロデューサーになりました。オリジナル・メンバーのベーシストがエンジニアに転向して大出世というとキリング・ジョークを連想しますし、このアルバムでもベースとドラムスの芯が太く切れがいいためサウンドにメジャー・レーベル作品でも通用する安定感があります。先に上げたローカル・ガレージ・バンドと較べても古びた所がなく頭一つ抜けた印象のある、高い完成度のアルバムです。
(Original Original Sound "Turn On" LP Liner Cover & Side One Label)

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 しかし本作で光るのはリーダーのショーン・ボニウェルの才能でしょう。ラヴのアーサー・リーを思わせるヴォーカル・スタイルもサマになっていますし、アルバム全12曲中7曲がボニウェル単独のオリジナル曲で、「Talk Talk」や第2弾シングルB1もボニウェルの自作曲です。カヴァー曲が半数なのもこのアルバムでは好ましく、夏にリリースされたビートルズの『Revolver』からシングル曲ではないジョージ・ハリスン作の「Taxman」を選び、ニール・ダイヤモンドのポップ曲をロックに演奏し、?(Question Mark)&ミステリアンズの全米No.1ヒット「96粒の涙」を選び、ガレージ・バンドの定番曲「See See Rider」とロサンゼルスのトップ・グループのザ・バーズが広めた「Hey Joe」をザ・バーズとも、ミュージック・マシーンと同月にイギリスでデビュー曲に選んだジミ・ヘンドリックスとも違うアレンジで演奏し、カヴァー曲のアレンジがオリジナル曲のアレンジと違和感がないので統一感がある上に、ボニウェルのオリジナル曲がカヴァー曲と遜色のない出来の佳曲揃いなのです。
このソリッドなアレンジと演奏力は粗っぽいのが当然なローカル・ガレージ勢には珍しく、サイケという視点ではフリーク度に欠けますがモダンなロックンロール・バンドとしては時代を超えた普遍性があり、1980年代のイギリスのニュー・ウェイヴ・バンドと言っても通じるエコノミーでタイトなサウンドです。現代でもロック・バンドを組もうという中高校生はミュージック・マシーンから始めるのが筋が良いのではないでしょうか。そのくらい素質とセンスの良さが素直に結実したアルバムであり、名盤アンケートなどにはまず上がらないマイナーなアルバムですが裏名盤のトップ・クラスに位置する逸品で、この1作だけ残せたならば以て瞑すべし、と寿ぐべきでしょうか。