人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - Ra to the Rescue (Saturn, 1983)

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Sun Ra - Ra to the Rescue (Saturn, 1983) Full Album (Reissued CD Version) : http://www.youtube.com/watch?v=YygLyM1WkwQ&list=PLt9RVASt7iBE6s7K66U6lIHhNcKR20Nm6
Recorded live at Squat Theater, NYC, 1982.
Originally Released by El Saturn Records Saturn IX/1983-220, 1983. Also Reissued as "When Spaceships Appear", "Cosmo-Party Blues" and "Children of the Sun", 1985.
All composed and arranged by Sun Ra
(Reissued CD Tracklist)
1. Mystery, Mr. Ra (Previously Unreleased) - 3:07
2. When Spaceships Appear (Ra to the Rescue, Ch. 1) - 5:21
3. Back Alley Blues (a.k.a. Fragile Emotion Blues) - 3:49
4. Drummerlistics - 2:49
5. Children of the Sun - 4:29
6. Cosmo-Party Blues - 4:39
7. Space Shuttle (Ra to the Rescue, Ch. 2) - 4:18
8. Fate in a Pleasant Mood - 8:43
9. They Plan to Leave - 6:08
10. When Lights are Dark (a.k.a. Back Alley Blues) - 4:37
[ Original El Saturn LP Tracklist ]
(Side A)
A1. Ra to the Rescue (Chapter 1) - 5:21
A2. Ra to the Rescue (Chapter 2) - 4:18
A3. Fate in a Pleasant Mood - 8:43
(Side B)
B1. When Lights are Dark - 4:37
B2. They Plan to Leave - 6:08
B3. Back Alley Blues - 3:49
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - piano, synthesizer, vocal
Marshall Allen - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, vocal
Danny Ray Thompson (prob.) - baritone saxophone, flute
June Tyson - vocal
Hayes Burnett (prob.) - bass
Eric "Samurai Celestial" Walker (posib.) - drums
unknown - percussion

(Original El Saturn "Ra To the Rescue" LP Side A Label & alternate Side B Label)

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 前3回に渡ってご紹介した1982年9月セッションによる『A Fireside Chat with Lucifer』『Celestial Love』『Nuclear War』はサン・ラ・アーケストラ自身の自主制作レーベル、エル・サターン・レコーズからの最後のスタジオ録音アルバムなのですが、まだライヴ音源のリリースは続きます。本作は1980年にも『Voice of the Eternal Tomorrow (The Rose Hue Mansions of the Sun)』『Dance of Innocent Passion』のライヴ盤2作の会場になったニューヨークのスクワッド・シアターでのライヴ収録ですが、『Voice of~』が22人編成、『Dance of~』が18人編成だったのに較べるとヴォーカル、パーカッションの2名を含めて8人編成、実質6人のスモール・コンボ(3サックス、鍵盤、ベース、ドラムス)によるコアな編成になっています。1983年発売のオリジナルLPに収められたのはA面3曲・B面3曲の計6曲。これがCDでは10曲に増補されているのは、1985年に『When Spaceships Appear』『Cosmo-Party Blues』『Children of the Sun』と3枚新作として出されたアルバムがいずれも本作『Ra To the Rescue』から数曲オミットして未発表テイクを足した改題再編集再発売盤であり、『Ra To The Rescue』未収録のそれらの曲(と追加1曲)を合わせるとCDの全10曲になるのです。
 だったら『Ra To The Rescue』に未収録だったTk.1, 4, 5, 6(1のみCDで初発表)に別会場のテイクでもいいからライヴ録音を足してすっきり別のもう1枚にまとめれば済む話ではないか、何もアルバム4枚に重複分散させなくても、と思いますがそこがいつものサターン商法で、アルバムを変えると曲名まで変更して別内容に見せかけており、マニアの収集欲を突いた編集盤にしているのがあっぱれです。オリジナルLPフォームのソングオーダーは併記した通りですが、『Ra To the Rescue』は選曲、配曲ともに優れたアルバムであり、『Voice of~』『Dance of~』の大作感に較べると小粒なアルバムとはいえこのこぢんまりしたアンサンブルが親しみやすい好ライヴ盤として肩の力の抜けた良いアルバムになっています。その点では全10曲の再発CDの網羅的選曲よりもオリジナル『Ra To the Rescue』6曲の構成の方に分があるかもしれません。また本作はスタジオ盤『A Fireside~』『Celestial Love』『Nuclear War』三部作より後の録音と推定されますが、発売はスタジオ盤三部作より先になったものです。

(Reissued El Saturn "When Spaceships Appear" & "Children of the Sun" LP Front Cover)

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 そこでご紹介するのもオリジナルLP『Ra To the Rescue』の選曲・曲順に沿って見ていきたいと思います。A1「Ra to the Rescue (Chapter 1)」とA2「Ra to the Rescue (Chapter 2)」はマーシャル・アレンのアルトサックスとサン・ラのシンセサイザーが炸裂するフリー・ジャズで、アレンはテナーのギルモア、バリトンのパット・パトリックとともにアーケストラ創立以来の不動のレギュラー・メンバーですが、アーケストラのソロイスト順位はサン・ラとギルモア、次いで第2アルトのダニー・デイヴィスやパトリックの後任トンプソンで、アレンとパトリックはアンサンブルの要だった分ソロイストに抜擢されり機会が少なかったのです。本作の爆発的なアレンの無伴奏ソロを聴くと実力のほどがわかり、アレンに応えてサン・ラのシンセサイザーも過激を極めます。アーケストラの真価は60年代からの代表曲A3「Fate in a Pleasant Mood」によく表れており、3サックスだけのホーン・セクションで5トランペット、4トロンボーン、4サックスの標準ビッグバンドのホーン・セクションに匹敵するサウンドは3サックスだけでなく鍵盤、ベース、ドラムスとの一体感によるものです。
 B面に移るとスタンダード「When Lights are Low」をもじったB1「When Lights are Dark」は快調なブルースで、B3「Back Alley Blues」もブルースですがピアノ・トリオによるものです。本作はフリーに始まりビッグバンドに終わるA面、ブルース2曲にバラッドが挟まれたB面という構成で、特にこのアルバムの価値を高めているのは6/8拍子のミディアム・テンポのヴォーカル・コーラス・バラッドB2「They Plan to Leave」です。この曲は発掘ライヴ盤によってこの時期からコンサートの定番曲になっていたことが判明しますが、サン・ラ生前のアーケストラのアルバムではスタジオ・ヴァージョンはおろか本作に収められたこのライヴ・ヴァージョンが同曲の聴ける唯一のレコーディングでした。「Space Is the Place」と唱えるサン・ラが「Nuclear War」に直面すれば「They Plan to Leave」(aka "We plan to leave from here")となるのもごもっともで、曲調にもその悲哀がにじみ出ているようです。