Recorded live at Keystone Korner, San Francisco, California, June 8 & 9, 1973
[ Rahsaan Roland Kirk & The Vibration Society ]
Rahsaan Roland Kirk - tenor saxophone, manzello, stritch, clarinet, flute, nose flute, miscellaneous instruments
Ron Burton (aka Rahn Burton) - piano
Todd Barkan - synthesizer, tambourine
Henry Mattathias Pearson - bass
Robert Shy - drums
Joe Habao Texidor - percussion
'70年代に入ってイスラム名のラサーン・ローランド・カークと改名したローランド・カーク(1935or1936-1977)はレギュラー・バンドのヴァイブレーション・ソサエティを従えてますますパワフルな活動をくり広げます。'60年代初頭にはテテ・モントリュー・トリオとのライヴ盤がありましたが、カーク'70年代の傑作ライヴと言えるものが2枚組アルバム『Bright Moments』です。数曲ごとに入っている盲人ネタのジョークが英語のわからない外国人リスナーには少し邪魔なのですが、エリントンの古典ナンバーからフリーぎりぎりの猪突猛進のオリジナル曲まであらゆるジャズのスタイルを改造サックス3本同時吹奏、フルート、クラリネットの鼻吹きなど超人的な変則奏法で吹きまくっており、もちろんカーク定番のポップス曲のジャズ・カヴァーも今回はバカラックの「You'll Never Get To Heaven (If You Break My Heart)」を取り上げてサックス3本(テナーサックス、アルトサックスの自家製改造楽器ストリッチ、ソプラノサックスの自家製改造楽器マンゼロ)の同時吹奏で見事に鳴らしまくっています。アドリブ・ソロもテナー、ストリッチ、マンゼロを自在に持ち換えて多彩な音色とフレーズで飽きさせず、カークの欠点には盲目であるためメンバーへの合図まで演奏で表現シてしまう余計な吹きすぎの癖があるのですが、この曲の場合はカーク以外のメンバーのソロはなくカーク一人が全編を吹き切っているためにそうした欠点もありません。超人的な演奏技術はさておくとしても(技術自体は演奏の表現力とは別です)素晴らしい構成力とイマジネーションによる喜びに溢れた演奏です。この5年後の急激な体調悪化による早逝が惜しまれます。
曲はバカラックがディオンヌ・ワーウィックに書き下ろした'64年の中ヒット曲でバカラック曲としては地味なのですが(チャートも最高位34位でした)、'73年にスタイリスティックスがディオンヌのヴァージョンよりもキャッチーなアレンジでカヴァー・ヒット(最高位23位)させており、聴き較べると明らかですがカークのヴァージョンはディオンヌではなくスタイリスティックスのヴァージョンを下敷きにしたジャズ・カヴァーです。'74年にはアレサ・フランクリンがカヴァーしていますが、ニュー・ソウル的なAORアレンジでディオンヌのヴァージョンよりもさらにバラード色の強いものになっています。カークのヴァージョンを聴いてスタイリスティックスのヴァージョンを聴くと、あまり個性的でもないソウル系女性ヴォーカル・グループのスタイリスティックスがけっこう良いセンスをしているのに関心します。ディオンヌのオリジナル・ヴァージョンだけでスタイリスティックスのヴァージョン経由でなければバカラック曲と言えどもカークもカヴァーしなかったかもしれないと思われ、カークのヴァージョンはカークのキャリアでも名演中の名演のひとつと思うとスタイリスティックスの存在を感謝したいような気がしてきます。
Dionne Warwick - You'll Never Get To Heaven (If You Break My Heart) (Original Single Scepter Records Scepter 1282, August 1964, Billboard#34) : https://youtu.be/s91DltUQvC4 - 2:58
The Stylistics - You'll Never Get To Heaven (If You Break My Heart) (Original Single Avon Records Avon 4618, May 1973, Billboard#23) : https://youtu.be/T7pgAAW9pEU - 3:34
