人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - A Fireside Chat with Lucifer (Saturn, 1983)

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Sun Ra and his Outer Space Arkestra - A Fireside Chat with Lucifer (Saturn, 1983) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PLVvEj3NrPkil8h825uF_oYTwa5wlYTRlu
Recorded at Variety Recording Studios, New York, September 1982.
Released by El Saturn Records Saturn Gemini 19841; A/B 1984SG -9, 1983
All composed and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Nuclear War - 7:44
A2. Retrospect - 5:42
A3. Makeup - 4:56
(Side B)
B1. A Fireside Chat with Lucifer - 20:53
[ Sun Ra and his Outer Space Arkestra ]
Sun Ra - piano, keyboard, vocal on Nuclear War
Walter Miller - trumpet
Tyrone Hill - trombone, vocal on Nuclear War
Vincent Chancey - french horn
Marshall Allen - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone
Danny Ray Thompson - baritone saxophone
James Jacson - basoon, percussion
Hayes Burnett or John Ore - bass (possib.)
Eric Walker - drums (prob.)
Atakatune (Stanley Morgan) - conga
June Tyson - backing voc on Nuclear War.

 '80年代に入ったサン・ラは1980年だけでもほとんどが新曲のライヴ・アルバムを6作作ってしまったので、1981年はライヴこそ続けながら新録音は一旦休んで'80年録音のライヴ盤を徐々に発表します。この時期(1981年)のライヴはサン・ラ歿後の発掘アルバムで聴けますがサン・ラ自身の発表の意図はなかったものであり、発掘ライヴで補わなければならないほど重要な空白期ではないのでご紹介は見送ります。そして1979年秋以来ひさびさとなるスタジオ録音が行われたのは1982年9月のことでした。それが同時録音となる本作『A Fireside Chat with Lucifer』、『Celestial Love』、『Nuclear War』の1983年~1984年発表の三部作なのですが、ここでもサン・ラ・アーケストラ(今回は「Sun Ra and his Outer Space Arkestra」名義)ならではのややこしい事態が起こります。『A Fireside~』と『Celestial~』は言わずと知れたアーケストラ自身のサターン・レーベルからのみのリリースでしたが、『Nuclear War』はサターン盤と同時にギリシャのMusic Box社、イタリアのYレコーズ社からもリリースされました。ところが『Nuclear War』の内容は『A Fireside~』と『Celestial~』からのベスト盤であって、サターン盤とギリシャ盤・イタリア盤は収録曲が異なるのです。
 しかも『A Fireside~』と『Celestial~』の2作はレコード番号をそれぞれ19841; A/B、19842; C/Dとしながらも1983年には発売されており、1984年発売の『Nuclear War』はギリシャ盤・イタリア盤のタイトルはは単に『Nuclear War』でしたがサターン盤の正式タイトルは『Nuclear War/Celestial Love』と題され、そのレコード番号は1984-A/1984-Cでした。つまりサターン盤『Nuclear War/Celestial Love』はA面が『A Fireside~』のA面全3曲(つまり19841; A)、B面が『Celestial~』のA面全4曲(つまり19842; C)からなる編集アルバムでした。ギリシャ盤・イタリア盤の『Nuclear War』も収録曲は『A Fireside~』(全4曲)と『Celestial~』(全8曲)からのベスト選曲ですが、単に両作のA面同士をAB面に合わせたものではなく『A Fireside~』から2曲と『Celestial~』から6曲を編んだ独自の編集になっています。三部作とはいえ実質的にはLP2枚分、全12曲なのですが、この1982年9月セッションの目玉曲はそれぞれアルバム・タイトルにもなった「Nuclear War」と「Celestial Love」、そしてアルバム『A Fireside Chat with Lucifer』のB面全面を占める21分のタイトル曲なので、『A Fireside Chat with Lucifer』『Celestial Love』そして『Nuclear War』がそれぞれアルバム・タイトル曲である三部作でなければならない理由もそこにあります。

(Original Saturn Research "A Fireside Chat with Lucifer" LP Liner Cover & Side A/B Label)

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 書誌的なご紹介だけでずいぶん紙幅を割いてしまいましたが、ひさしぶりのスタジオ録音アルバムのリリースだけあって毎回ボロボロの手作りジャケットだった1980年度録音の一連のサターン盤ライヴ・アルバムから一転して、ジャケットも1974年以前の、インディー・レーベル盤としてはまずまずのサターン盤の水準に戻りました。A1は新たなアーケストラのヴォーカル・ナンバーの代表曲といえる出来で、メッセージ色の強いものですが、サン・ラ自身も自信作だったでしょう。すぐ後にアルバム・タイトル曲として再リリースする「Nuclear War」ですが、本作においてはA1の「Nuclear War」から始まりB面全面のアルバム・タイトル曲で占める構成には必然性がありました。「A Fireside Chat with Lucifer」というテーマ自体がA1のタイトル通り「核戦争」だからです。この曲はサン・ラのフリー・ジャズ路線の中でも異色の静謐さが印象的で、タイトルから攻撃的な演奏を予想するとむしろ核戦争後の荒廃した静粛をイメージした内容にメッセージの深みを見るようです。演奏は点描的で消え入りそうなやるせなさすら感じさせます。
 A1「Nuclear War」は「Space is the Place」の流れを汲むヴォーカル・ファンク・ナンバーですが翌年アルバム・タイトル曲に昇格するだけあってこの1曲だけでも十分にアルバム・コンセプトを提示する強力なメッセージ曲です。'80年代最初のスタジオ・アルバムでこの曲を収穫し得たのはサン・ラの創作意欲を物語るものでしょう。A2、A3はサン・ラのエレクトリック・ピアノをフィーチャーし、特にA3は前半エレクトリック・ピアノとベース、ドラムスだけのトリオが続いた後テナーサックスのソロが始まりますが、これまでのサン・ラの演奏では聴けなかった音色のエレクトリック・ピアノが聴かれます。ミュージシャンが楽器の音色を変える時は楽想、演奏性はもとより心境の変化が伴うことも多く、A2, A3はオーソドックスなジャズでも通るストラクチャーを備えた曲ですが、このエレクトリック・ピアノはB面の沈鬱な点描的フリー・ジャズの布石となっているのがわかります。B面の葬送曲的ムードはA1の積極的なメッセージ性と対をなしているので、このアルバムの構成は非常に完成度の高い統一感を持つものです。しかし後に「Nuclear War」をタイトル曲に昇格させたアルバムを組んだサン・ラの気持もわかるので、会心の1曲「Nuclear War」はこのアルバムのオープニング曲にはとどまらないポテンシャルを匿めていた、ということにもなるでしょう。