人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - ミディ湖畔の家 Miditerranean Pads (Brain, 1990)

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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - ミディ湖畔の家 Miditerranean Pads (Brain, 1990) Full Album : https://youtu.be/eMJ1VcuWImM
Recorded at Klaus' studio in Hambuhren, until August 1989
Released by Brain Records / Metronome Musik GmbH Brain 841 864-1, February 28, 1990
Produced and All Composed by Klaus Schulze
(Tracklist)
1. Decent Changes - 32:45
2. Miditerranean Pads - 14:12
3. Percussion Planante - 25:01
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
Georg Stettner - Fairlight (on 2)
"Elfi Schulze" - voice (on 2)

(Original Brain "Miditerranean Pads" CD Incert Liner Cover, Incert Notes & CD Label)

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 シュルツェ完全復活、'90年代を迎えて『The Dresden Performance (live)』'90、『Beyond Recall』'91、『Royal Festival Hall Vol. 1 (live)』'92、『Royal Festival Hall Vol. 2 (live)』'92、『The Dome Event (live)』'93と続く、第二の黄金時代の幕開けを告げたアルバム。もっとも本作で聴かれる音楽性は前作のLP2枚組大作『En=Trance』'88で確立していたものであり、シュルツェは本作の制作と平行してひさびさに本国で大規模なコンサートを開き、'89年8月5日のドレスデンでのコンサートでは6.800人の観客動員数を記録、そのコンサートからのライヴ録音にスタジオ録音の新曲を組み合わせたのが次作『The Dresden Performance』になります。'80年代半ばからは新作も話題にならず力作『En=Trance』も注目されたとは言えなかったものの、ライヴに定評のあったシュルツェのコンサートというとアルバムとは違った期待が集まったようで、ライヴの評判がフィードバックして本作も十分な話題作となり、シュルツェ自身も新曲をライヴ録音でアルバム化することで'90年代初頭は音楽の活性化を図ったのが成功したと言えそうです。シュルツェが活発なライヴ活動を行っていた'70年代後半には、シュルツェ自身の嗜好や時代性もあってかライヴのダイナミズムがそのままアルバムのロック感覚の強さに現れていました。当時のロック感覚の現れが8ビートの強化だったのに対して、この、シュルツェ自身が「21世紀スタイル」と呼ぶビートはもっと細分化されて16ビート、32ビートのアフロ・ビートに近いものになり、しかもニュアンスの表現が難しい、表面的には静謐で冷たい触感を持ったものです。本質的にはシュルツェの人間性が感じられる暖かみのあるもので、無機的・機械的な冷たさではなく落ち着いた冷徹さと言う方が正しく、その点ではかつてデジタル化の過渡期で生じた'80年代初頭のシュルツェ作品の冷たさとは違います。
 本作はLPフォームによらず完全にCDリリースを前提に制作・構成されたアルバムであることもシュルツェのアルバムでは初めてで、『Dreams』'86もCDエディションのリリースではボーナス・トラックを含めた楽曲配置でLPエディションとの効果の違いを意図していましたが、本作は大曲2曲を1、3曲目に置き、2曲目に比較的短いアダージョ的楽曲を置く、という3部構成になっています。これもLPフォームならば変則的な2枚組3面構成になるところで、定則的な16ビートにフラッシュ・バック的なサウンド・コラージュが絡む1はサイケデリック感覚のハウス・ミュージックとしてドイツのサイケデリック・ロックのパイオニアでもあったシュルツェの面目躍如という感がありますし、ゲオルグ・ステットナーをフェアライト専任奏者に迎えてサンプリングされたピアノに、ゲスト参加のエルフィ・シュルツェ(夫人またはシュルツェ令嬢?)のヴォイスが彩る2も素晴らしく、さらに3ではシュルツェが従来ゲスト参加作品で試みてきたポリリズムをぐっとアフロ・ビートに近づけ、しかも単独録音でそれに成功した画期的な成果を上げた楽曲です。各曲のカラーがはっきりしており、しかもどの曲も明快な聴きどころがあるので本作はヴォリューム感があるのに非常に聴きやすく、聴きやすいのに聴き流すだけでは終わらない聴き応えがあります。本作が『En=Trance』ではまだリスナーに浸透しなかったシュルツェの新境地を印象づける会心作になったのは時代の節目とともにアルバムの出来からすれば当然で、再びシュルツェは往年の巨匠でかたづけられない大物現役ミュージシャンとして第一線に帰り咲き、ここから先、数作は再び'70年代の全盛期シュルツェを思わせる壮大な創造力の大爆発が起こるのです。