人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ボブ・ディラン「怒りの涙」

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The Band - Tears of Rage (Bob Dylan, Richard Manuel) (from the album "Music From Big Pink", Capitol, 1968) : https://youtu.be/f6eTsONUYgo - 5:23


  怒 り の 涙

独立記念の日のお祭りにおれは幼いお前を
肩車して歩いたね
だけど今お前はおれたちを捨てて
どこへでも行ってしまえという
ああ、太陽の下、どんな娘が
父親にそんなあつかいをしただろう
手取り足取りもてあそぶように
いつも父親に「いや」と言うのか?
怒りの涙、悲しみの涙
おれはいつまでもけちな罪人なのか?
おいで、さあ、判っているだろう
誰もがとても孤独で、そして
人生は短い

おれたちは目指す先を示して
お前の名前を砂に書き印した
だけれどそれはお前の立つ余地がある場所を
示しただけのことだったのだ
知ってほしい、おれはずっと見ていたが
お前は真実が本当は何かを知らない
ほとんどの者がそんなことは
子供じゃあるまいしと思っているからだ
怒りの涙、悲しみの涙
おれはいつまでもけちな罪人なのか?
おいで、さあ、判っているだろう
誰もがとても孤独で、そして
人生は短い



 ボブ・ディランが自分のバックバンドを勤めていたザ・ホークスがザ・バンドと改名し独立デビューしたアルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』'68に、ザ・バンドのヴォーカリスト・ピアノ奏者のリチャード・マニュエルに歌詞を提供した曲。ヒッピー文化、サイケデリック・ムーヴメントで賑わっていた当時、若者の視点でなく取り残された父親世代の心情を渋いバラード曲で、しかもこの曲を巻頭に配したザ・バンドのデビュー・アルバムは大反響を呼び、即座にロックの古典的アルバムの地位を占めます。それに先立ってボブ・ディラン自身がホークスをバックに歌った'67年録音のデモ・テープ集の2枚組LP『Great White Wonder』'69はのちの'75年に2枚組LP『The Basement Tapes』、2014年に6枚組CD『The Bootleg Series Vol. 11: The Basement Tapes Complete』でようやく一般発売されましたが、ロック初の海賊盤としてローリング・ストーンズの'69年ツアーの海賊盤ライヴ『Live'r Than You'll Ever Be』'69と並んで知られるものです。

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Bob Dylan - Great White Wonder (Bootleg, '69) Full Album : https://youtu.be/c8lVPCG9yrA

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The Rolling Stones - Live'r Than You'll Ever Be (Bootleg, '69) Full Album : https://youtu.be/lKnDck-9KsE

 '76年に解散したザ・バンドはメンバーのソロ活動も軌道に乗らず、'80年代には再結成しレコード契約もないまま細々と小さいクラブ規模のツアーで生計を立てましたが、ツアー中にリチャード・マニュエルはモーテルで縊死自殺(享年42歳)し、その後脱落していくメンバーを補填しながら'99年まで活動しますが、リード・ヴォーカリストのマニュエルを欠いたザ・バンドはレコード契約を再び獲得するも全盛期ほどの生彩は取り戻せませんでした。リチャード・マニュエルは自殺する半年前にソロでのクラブ出演で残したライヴ・テープから2002年に発売された唯一の没後発表ソロ・アルバムでもこの曲を歌っています。ピアノが生ピアノではなく電子キーボードなのが惜しまれますが、こちらも感動的な名唱です。

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Richard Manuel - Tears of Rage (rec.live'85, as the album "Whispering Pines", rel.Dreamsville, 2002) : https://youtu.be/2ImQd35HJUs - 4:18