人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2019年4月22日~24日/一気観!『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ!(8)

 ボックスセット『映画クレヨンしんちゃんDVD-BOX』2017は第25作『襲来!!宇宙人シリリ』2017の公開にあわせ前年度までの第24作までを収録した24枚組セットですが、前回ご紹介した第21作『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』2013は監督が橋本昌和('75年生まれ)に交代し、ひさびさにしんちゃん映画で快作が出たと評判になり往年のヒット水準を取り戻した作品でした。次いで高橋渉('75年生まれ)監督が担当した第22作『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』2014は原恵一監督担当の第9作『モーレツ!オトナ帝国の逆襲』2001(興行収入15億円)、ムトウユージ監督の第15作『歌うケツだけ爆弾!』2007(15億5,000万円)をしのいで歴代3位を更新する興行収入18億3,000万円を達成、以降交替制で橋本監督担当の第23作『オラの引越し物語~サボテン大襲撃~』2015は約23億円と第1作('93年、22億2,000万円)、第2作('94年、20億6,000円)をしのぐシリーズ歴代1位の特大ヒットを記録し、高橋監督担当の第24作『爆睡!ユメミーワールド大突撃』2016も21億1,000万円で歴代トップ3を更新しています(なので『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』はすぐに歴代5位に塗り替えられました)。その後、ひろし役が藤原啓治氏から森川智之氏に交代後の橋本監督の第25作『襲来!!宇宙人シリリ』2017が16億2,000万円、昨年の高橋監督の第26作『爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』2018が18億3,000万円と好調は続き、第26作公開後テレビ版当初からしんちゃんを演じてきた矢島晶子さんが降板し小林由美子さんに交代したので、2019年4月19日封切りの橋本監督による最新作で第27作『新婚旅行ハリケーン~失われたひろし~』はしんのすけ役が小林由美子さんに交代した初めてのしんちゃん映画でもあり、この感想文は第24作までを収めた『映画クレヨンしんちゃんDVD-BOX 1993-2016』収録作で区切ったので今回と次回で一旦終わりますが、しんちゃん映画はなお新作も注目されるところです。なお各作品内容の紹介文はDVDボックスの作品紹介を引用させていただきました。

●4月22日(月)
『映画クレヨンしんちゃん  ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(監督=高橋渉シンエイ動画=双葉社=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2014.4.19)*97min, Color Animation
◎ある日、ギックリ腰を治しにマッサージに行ったひろし。なんと、ロボットになって帰ってきた!?戸惑うみさえと、大喜びのしんのすけだったが、それは家庭での立場がすっかり弱くなってしまった日本の父親たちの復権をもくろむ"父ゆれ同盟"による巨大な陰謀だった!どうなる、ロボとーちゃん!!

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 劇場版『映画クレヨンしんちゃん』は公開時のテレビ版主題歌がそのままオープニング主題歌(エンドクレジット主題歌は毎回新曲)に使われているのですが(第12作『夕陽のカスカベボーイズ』2004のみ初代主題歌「オラはにんきもの」が例外的に再使用されました)、2年以上続いた主題歌は劇場版第1作~第3作('93~'95年)の「オラはにんきもの」、第6作~第8作('98~2000年)の「とべとべおねいさん」、第9作~第10作(2001~2002年)の「ダメダメのうた」、第13作~第17作(2005~2009年)の「ユルユルでDE-O!」、そして最長期となったのが第21作~第28作(2013~2018年)の「キミに100パーセント」(きゃりーぱみゅぱみゅ)で、「オラはにんきもの」はテレビ版でもスタート時からの主題歌でしんちゃん主題歌の代名詞的楽曲ですし、テレビ版の視聴率の落ち着きに伴って'96年、'97年や2003年、2004年、また2010~2012年は年代わりで主題歌が変わりましたが、上記5曲は2年~8年に渡ってテレビ版主題歌に使われた曲です。劇場版立ち上げ時の「オラはにんきもの」はテレビ版が大評判になっていた時期でもあり劇場版も特大ヒットを記録しましたが、「とべとべおねいさん」の時期は話題性は落ち着きながらも人気番組として定着していた時期で劇場版はそこそこの成績を上下し、原恵一監督の2大傑作『オトナ帝国の逆襲』2001、『戦国大合戦』2002の2作は映画は大評判を呼んだヒット作になったのにしんちゃん主題歌史上もっともけたたましい「ダメダメのうた」が主題歌、という不調和がありました。ムトウユージ監督~しぎのあきら監督時代の「ユルユルでDE-O!」は劇場版が再び好調を維持していた時期で主題歌も「オラはにんきもの」の21世紀ヴァージョンのような楽しさがあり、劇場版不調が囁かれた2010~2012年には主題歌が毎年変わりましたが、ひさびさの大好評のヒット作となった前作の第21作『B級グルメサバイバル!!』2013からはテレビ版主題歌は「キミに100パーセント」に代わり、同曲は連続8作(足かけ9年)テレビ版・劇場版主題歌に使われてこの時期の劇場版映画シリーズはすべて好評・大好評のヒット・特大ヒット作となっています。歴代テレビ版・劇場版主題歌でも「キミに100パーセント」はホームドラマ・コメディらしいしんちゃんアニメにしっくりなじんで愛された楽曲と言ってよく、しんちゃん映画は毎回異なる趣向を凝らして刺激的な内容であっても後味の良い着地を迎えるのでほんわかした曲調の「キミに100パーセント」は観客にこれから始まる映画について安心感を与えてくれるので、しんちゃんアニメ最長使用主題歌になったと言えそうです。さて、前作の好調の波に乗って大評判を呼んで興行収入18億3,000万円の特大ヒットとなり、第18回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞作品を受賞した本作は、シンエイ動画所属監督で長年テレビ版・劇場版しんちゃんに携わってきた高橋渉(1975年生まれ)が監督を担当し、かつて故・臼井儀人氏の担当編集者を勤め劇場版しんちゃん映画のプロデュースの担当経験(2007~2010年)もあり、劇団☆新感線の座付劇作家でありテレビ番組では「天元突破グレンラガン」2007や「仮面ライダーフォーゼ」2012、「キルラキル」2013の脚本を手がけた実績のある中島かずき(1959年生まれ)がオリジナル脚本を担当しました。本作は叙述トリックが仕組まれている作品なのであらすじが書きづらいのですが、カンタムロボの新作アニメがまずアヴァンで描かれ、映画館でアニメを観終えて興奮したしんのすけ(矢島晶子)はひろし(藤原啓治)に合体ロボごっこをせがみ、上機嫌でしんのすけを肩車したひろしはギックリ腰で腰を痛めてしまいます。休日のうちに治しておこうとひろしはしんのすけと町に出て治療院を探しますがどこも日曜なので休診で、一休みした公園では家族に邪魔扱いされているというくたびれた中年男たちがぐったりしていますが、ひろしと会話を交わしていたサル親父(田口昂)やジャージ親父(星野充昭)らポーチ親父(隈本吉成)、生ビール親父(小田敏充)たち中年男たちは公園に乗りこんできたバギーの主婦(神代知衣)、犬の散歩主婦(茂呂田かおる)、子連れ主婦(沢海陽子)らに公園から追い出されてしまいます。裏通りを歩いていたひろしとしんのすけは、突然現れた謎の美女・小女鹿蘭々(一木美名子)に連れられ、マッサージも兼ねてエステの無料体験を受けることになり、しんのすけは先に帰ります。エステを終えてすっかり快調になり家に着いたひろしでしたが、そこでみさえ(ならはしみき)に怖がられてようやく自分の体がロボットになっていることに気づいて驚きます。ロボットになったひろしに警戒心むき出しのみさえに対してしんのすけは大喜びです。みさえの警戒はなかなか解けませんが、ある日幼稚園の社会見学で建築現場の手違いに巻きこまれ危機一髪になったしんのすけ、風間くん(真柴摩利)、ネネちゃん(林玉緒)、マサオくん(一龍斎貞友)、ボーちゃん(佐藤智恵)を超人的な活躍で救ったことでみさえはロボットになったひろしを受け入れます。ひろしは変装して出勤に復帰し、会社の仕事も家の家事も抜群にこなすひろしの株は上がります。そんな中ひろしは、自分の体がロボットになった原因はあのエステサロンだったと気づきます。警察署長の黒岩仁太郎(遊佐浩二)は野原一家の訴えを一笑に伏しますがペット探索課の婦人警官・段々原照代(武井咲)を野原一家に担当させます。やがてひろしに届いたひげパーツをつけたロボットのひろしは突然過激な亭主関白に豹変し、春日部じゅうの父親たちを扇動して亭主関白の実力行使デモを行うようになりますが、それはロボひろしや社会見学の事故も含めて、邪険に扱われている日本の弱い父親達の復権を企てる『父ゆれ同盟(「父よ、勇気で立ち上がれ」の略称)』の恐るべき陰謀でした。「家族は、オレが守る!」パニック状態の春日部で、ひげパーツが外れて正気を取り戻したひろし=ロボとーちゃんが、ひろしに代わって姿を現した父ゆれ同盟総帥・鉄拳寺堂勝(大和田伸也)の野望をくじくためにしんのすけと共に立ち上がりますが、実はロボット工学者頑馬博士(コロッケ)を使って陰謀を企む鉄拳寺にはさらに黒幕がおり、さらにロボひろしにはロボひろし自身も気づかない隠された秘密がありました……。
 本作はクライマックスに正体を現した黒幕が頑馬博士(コロッケ)に作らせた巨大ロボット・五木ひろしロボ(コロッケ)が超音波演歌ビーム(「契り」を歌います)で攻撃してくるのを巨大ロボットで迎え討つ巨大ロボット対決のサービスもあり、みさえと段々腹婦警と逮捕された父ゆれ同盟の手下の蘭々が「男って何でロボット大好きなのかしら」と馬鹿馬鹿しさに呆れる、というギャグにもなっていますが、実はロボひろしの正体は……というのが最大の意外性で叙述トリックが仕掛けられていたのがわかり、そこで野原一家がもとの一家に戻るにはつらい犠牲者が出なければならない、というシビアな展開になります。最後は春日部の町には平和が戻り主婦たちと父親たちがいたわりあうように変化するハッピーエンドがあるので後味全体はさわやかに終わるようになっているのですが、野原一家がつらい選択と対決を迫られるのが本当のクライマックスになので、大人の観客には苦い後味も混じる作品になっています。「キミに100パーセント」が主題歌なのが苦みを柔らげているのが救われます。本作の仕組みを書くと未見の方は意外性を削がれることになってしまうので詳しく書けず残念ですが、『オトナ帝国~』や『戦国大合戦』『夕陽のカスカベボーイズ』なども単純にハッピーエンドとは割り切れない作品だったのと同様か、それ以上にしんちゃん映画史上空前絶後のバッドエンドという声もあるくらいで、高橋監督は次々作『ユメミーワールド~』でも真正面から「肉親の死」をしんちゃん映画で描いて作品も好評なら興行収入も本作を大きく上回る大成功を収めますが、それも本作の成果を踏まえてのことでしょう。しんちゃん映画は毎回新作公開とともに次年度作品の製作発表がありますが、次に前作『B級グルメサバイバル!!』の橋本昌和監督による新作と発表されたことからも橋本昌和監督(フリー監督)と高橋渉監督(シンエイ動画所属監督)の交替制は本作の成功で決まったと思われ、本作は中島かずき脚本の功績の大きい内容ですがフリー監督の橋本監督の方がプログラム・ピクチャー的な作風で、シンエイ動画所属監督の高橋監督の方が作家性の強さを感じさせる(シリーズ歴代監督の本郷みつる原恵一水島努ムトウユージ監督らも社内監督でしたが)のは面白い対照をなしています。ともあれ、本作はしんちゃん映画中の異色作でもありシリーズ最上位にランクされる傑作の1本です。

●4月23日(火)
『映画クレヨンしんちゃん  オラの引越し物語~サボテン大襲撃~』(監督=橋本昌和シンエイ動画=双葉社=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2015.4.18)*104min, Color Animation
◎野原一家がメキシコへお引っ越し!?辿り着いた町の名前は"マダクエルヨバカ"。個性いっぱいのお隣さんたちに囲まれて、楽しい毎日がスタートするはずが……待ち受けていたのは人喰いキラーサボテンだった!しんのすけとメキシコのご近所さんたちは、この絶体絶命の大ピンチを乗り越えられるのか!?

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 テレビ版レギュラー・スタッフの脚本家うえのきみこさんは前々作『B級グルメサバイバル!!』ではヴェテラン脚本家・浦沢義雄氏と共作でしたが本作はうえのさんの単独脚本で、監督は再び『B級グルメサバイバル!!』の橋本昌和(1975年生まれ)が当たり、演出はシンエイ動画スタッフの佐藤まさふみ氏と前作の監督の高橋渉氏が担当する万全の体制で初の野原一家の海外転居の話になり、パニック・ホラー映画仕立てが大いに受けてしんちゃん映画シリーズでこれまで不動の1位・2位の興行収入だった初代の本郷みつる監督の第1作『アクション仮面VSハイグレ魔王』'93(22億2,000万円)、第2作『ブリブリ王国の秘宝』'94(20億6,000万円)をしのぐ22億9,000万円の興行収入を記録し、シリーズ歴代1位の特大ヒット作品になりました。前回のご紹介で『B級グルメサバイバル!!』を絶賛した表現は本作でもそのままくり返してもいいので、流れるように巧みな構成、見事な監督手腕による演出は『B級グルメ~』よりはやや強引な展開ながら一気に観せてくれる迫力があり、興行収入シリーズ歴代1位は必ずしも本作がしんちゃん映画の最高傑作ということにはなりませんが、ホームドラマ・コメディの長編アニメーション映画で本格的な異常生物もののパニック・ホラー映画をやってのけたというのは国内外のアニメーション映画でもあまり類例がないでしょう。映画は、ひろし(藤原啓治)が双葉商事の部長(大友龍三郎)からメキシコの町に生息する極上の蜜を含んだサボテンの果実を集めるために異動と同時に部長昇進を命じられる場面から始まります。単身赴任を考えていたひろしですが、みさえ(ならはしみき)の「家族はいつも一緒!」の決意から野原一家はメキシコへ引っ越しすることになります。親しい春日部の住人たちの園長先生(納谷六朗)、よしなが先生(七緒はるひ)、まつざか先生(富沢美智恵)、あげお先生(三石琴乃)、風間くんのママ(玉川砂記子)、隣のおばさん(鈴木れい子)、おケイ(高山みなみ)、留守を預かるみさえの妹むさえ(根谷美智子)、ななこおねいさん(伊藤静)、ヨシりんとミッチー(阪口大助大本眞基子)と野原一家は涙の別れを告げて記念写真を撮りますが、ネネちゃん(林玉緒)、マサオくん(一龍斎貞友)、ボーちゃん(佐藤智恵)は来たのに新しいかすかべ防衛隊バッジを作ってみんなに渡したばかりの風間くん(真柴摩利)は意地を張って来ず、メキシコのお姉さんはみんなスタイル抜群と聞いたしんのすけ(矢島晶子)は喜んで旅立ちます。電車が川沿いを走っている最中に土手を走ってくる風間くん(真柴摩利)を見かけたしんのすけは、走る電車の窓から風間くんに別れを告げて胸のバッジに手を置きます。引っ越し先の町・マダクエルヨバカでは双葉商事唯一の現地社員ホセ・メンドクセー(うえだゆうじ)が出迎え、野原一家の家はホセがのんびり建築中でまだ完成していない有様ですが、しんのすけはカロリーナ先生(坂本真綾)の幼稚園に通い始め、保安官 (勝杏里)やパブのオーナー(宮澤正)、肉屋の店長(木村雅史)や臆病なレスラーのレインボー仮面(堀内賢雄)、ツンツンの少女スマホちゃん(指原莉乃)、流しの歌手マリアッチ(浪川大輔)などなど個性的なご近所さんと知りあい不安だらけの新生活にも次第に馴れていきますが、マダクエルヨバカ町長のドゥヤッガオ・エラインデス(平田広明)はイケガミーノ博士(田村健亮)が発見した新種のサボテンでようやく町が豊かになったとひろしからの商談を断り続けます。エラインデス町長はサボテンのテーマパークを建設してさらに町の発展を計画していました。しかしテーマパーク中央にそびえる新種の巨大女王サボテンが開花した時、女王サボテンから次々と歩くサボテン・人喰いキラーサボテンが枝分かれして人間を捕食し始めます。野原一家は襲ってくるサボテンを撃退し、隣町に通じる一本橋を渡って町を脱出しようとメキシコのご近所さんたちと奮闘しますが、サボテンの群体はテーマパーク開会式を取材しに飛んできたヘリコプターすらも集合合体して飲みこんでしまいます。町中を駆け回り脱出と生存を目指す野原一家とご近所さんたちですが、ご近所さんたちも次々とサボテンの餌食になり、なぜか町にいた日本エレキテル連合の細貝さん(中野聡子)と朱美ちゃん(橋本小雪)も一瞬で食べられてしまいます。なおも襲いかかってくる不死身のサボテンの群れからひまわり(こおろぎさとみ)連れの野原一家と逃げのびたご近所さんたち、置き去りにされたシロはどうしたらこのピンチを乗り越えられるでしょうか?
 本作は野原一家の出発までも長すぎず短すぎず、風間くんとしんのすけの別れも感動的ながらよくある盛り上げ方に見えて実はここにクライマックスの伏線がしのばせてある巧みさで、この小道具や伏線のさりげない提示や意外性に富んだ生かし方は『B級グルメ~』でもあったものですが、こうして書いても実際に映画そのもの、その伏線と小道具の生かし方をご覧になるまで予想がつく方はいないでしょう。また不死身のキラーサボテンの群れから逃れる一堂が次々と計画を思いつき実行するもどの計画も成功しないもどかしいサスペンスが意外性と説得力のどちらも備えて展開していくのも迫真の異常生物襲撃もののパニック・ホラー映画として上乗に描かれており、実写映画とは違ったアニメーション映画ならではの描写を堪能できるのが本作の点を稼いでいるので、ロケハンは行われたでしょうが実際にメキシコを舞台にした日本製パニック・ホラー映画を実写で作ろうとすればオープン・セット撮影とCGを駆使しても数十億円の製作費がかかるばかりかチャチなものになりかねない。アニメーションだから軽々と(とはいえ力量は大いに問われますが)工夫次第でクリアでき、しかもアニメーション映画のリアリティの次元なので不自然にならない得があるので、到着後キラーサボテン発生の頃には野原一家は日常会話ならスペイン語を話せるようになっている設定で、双葉商事メキシコ支社のホセくんは別にしてマダクエルヨバカ市民たちはみんな本来はスペイン語で会話しているのですが、本作はファミリー向けアニメーション映画なのでいわば日本語吹き替えの状態なのが前提になっています。実写映画ではこれは当然すんなりとそうはいきませんし、アニメならではのデフォルメで統一されているので日本人一家とメキシコ人たちが自然に画面の中で同居している。これは実写映画でやったら肉体的な存在感が質感自体まるで違うので仕草ひとつ取っても設定の作為性が浮いてしまいわざとらしく見えて、パニック・ホラー映画であるより前に国際キャスト映画のわざとらしさがサスペンス・ドラマへの没入の邪魔になってしまうと考えられます。本作はあくまで観光資源としてのサボテン保全にこだわるエラインデス町長が被害を広げることになり、不死身のキラーサボテンの弱点がようやく判明し、ついに決意した町長が手段を示唆するも実行困難なその計画を幼稚園の先生のカロリーナとようやく心を開いたスマホちゃんことフランシスカしんのすけと3人で他の大人たちがサボテンの群れの注意を引きつけている間に実行するのですが、カロリーナ役の坂本真綾さん、スマホちゃん役の指原莉乃さんとも好演で本作はヒロインが二人いるのも華を添えています。決死のキラーサボテン退治計画、しかも成功の確率が高いとは言えない困難な作戦でこれをしくじったら後がない、しかも失敗に終わってしまいそうになるのを実現するのがしんのすけの機転で、ここで伏線と小道具が生きてくるのも心憎い仕組みです。またキラーサボテンに食われてしまった人々の運命はというと、これもちゃっかりと、しかも納得のいく具合に判明する。本作は特大ヒット作なので前作『~ロボとーちゃん』がシリーズ空前絶後のバッドエンドではないかとも意見が出た(これは出るべくして出た、製作側も承知の上そう作ったでしょうが)のと同様、突然変異巨大食虫植物キラーサボテンの発生原因・正体が問われない(究明・推定もされない)のに不満の声も上がりましたが、確かに蟻の群れや蜂の群れ、蚊の群れやミミズの群れと較べても動き回り分裂・結合も自由自在な巨大食人サボテンの群れというのは突拍子もなく、これが結末につながるのですが巨大女王サボテンと分裂したキラーサボテン群は働き蟻・働き蜂と女王蟻・女王蜂の関係にあり、その辺は少し疑似空想生物学(植物学)的な説明はあってもよかったかと思えますが、もともとこんな突然変異はあり得ない思い切った空想植物なので説明は切り捨てる(一応ちゃんとドラマ上必要なキラーサボテンの行動原理や生態は説明する)のも見識であり、本作の場合はそれでいいとも思えます。ただし本作はしんちゃん映画でありながらしんちゃん映画でなくてもいい要素で生物襲撃ものパニック・ホラー映画に成り立っている面が大きく、橋本監督のしんちゃん映画としてはどちらかといえば『B級グルメサバイバル!!』に軍配を上げたいような気もしてきます。

●4月21日(日)
『映画クレヨンしんちゃん  爆睡!ユメミーワールド大突撃』(監督=高橋渉シンエイ動画=双葉社=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2016.4.16)*97min, Color Animation
◎ある夜をきっかけに、春日部じゅうの人たちが、見たい夢を見られる世界"ユメミーワールド"に行けるようになる。楽しい夢に夢中になる人々だったが、次第に悪夢しか見られない恐怖の世界へと変わっていく。そんな中、引越してきた謎の少女サキ。なかなか打ち解けないサキにはある秘密があった……。

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 本作は劇団ひとり高橋渉監督の共同脚本で、監督自身が脚本に関与したしんちゃん映画は本郷みつる監督による第16作『金矛の勇者』2006以来になるそうですから第2作(本郷みつる監督作品)以来原恵一水島努ムトウユージ監督まで監督自作脚本が続いており、また再び監督以外に脚本家が呼ばれるようになったのもムトウユージ監督時代なので、ワンポイント復帰だった本郷監督が以前の流儀で自作脚本だったのが例外でムトウユージ監督の3作を分岐点に監督自身の自作脚本だったしんちゃん映画から脚本家を立てるようになった変化があり、ムトウ監督の3作がしんちゃん映画のシリーズの分水嶺になってその後のシリーズの下地になったと見られる根拠でもあります。本作はまずある夜の夢の中の場面から始まります。ひろし(藤原啓治)は取引先で失態を責められる部下の川口(中村大樹)を救うスーパーCEOマンひろしに変身するご機嫌な夢を見ます。同じ頃みさえ(ならはしみき)は元カリスマホストの城咲仁(城咲仁)に求愛される夢を見てうっとりしますが、ひろしとみさえは夢の真っ最中に夢が悪夢に転じ、謎の巨大な魚に呑み込まれる夢を見てうなされます。翌朝ひろしは近隣の町の集団同時悪夢事件の報道を新聞で読み、自分たちに起こったのもそれだろうかとみさえと話しますが、この頃から野原一家を始めとする春日部市民たちは夢の中で巨大魚の体内にある不思議な世界「ユメミーワールド」に迷いこむようになります。その世界では自在に望む夢が見られるのがわかって明くる晩、市民たちは自分の夢に浸りますが、大人たちの夢は小さく不完全な夢なので謎の生き物たちによって奪われて魚の体外に放り出されてしまいます。魚の体外は地獄のような世界で、次々と現れる恐ろしい悪夢にうなされた大人たちは次第に元気を無くし、日が経つにつれて夢の大きい子供までもが夢を奪いつくされて悪夢ばかり見るようになってしまいます。それに気づいたしんのすけ(矢島晶子)たちかすかべ防衛隊は原因を探るため、ユメミーワールドのせいでマンガ家になる夢が悪夢に転じてしまい元気をなくしたマサオくん(一龍斎貞友)の補欠に、ネネちゃん(林玉緒)の提案で最近春日部に引っ越してきてふたば幼稚園に短期登園している少女・貫庭玉サキ(川田妙子)を仲間に誘って夢の中に入りますが、風間くん(真柴摩利)がサキちゃんが春日部に来た頃から事件が起きたこと、夢の中ではサキちゃんの姿を見かけないことで疑いを持ち、サキちゃんの家を訪ねたかすかべ防衛隊はユメミーワールドを操っているのがサキちゃんのパパの科学者・貫庭玉夢彦(安田顕)なのをつきとめます。夢彦は悪夢しか見られないサキちゃんのために人々の夢を操っては楽しい夢を奪い取り、そのパワーで睡眠中のサキちゃんの悪夢を中和していたのです。風間くんやネネちゃん、ボーちゃん(佐藤智恵)も悪夢しか見られないようになり、みんなと友だちになっていたサキちゃんとサキちゃんだけを守ろうとするお父さんの夢彦にもわだかまりが生まれる中、しんのすけはひろしとみさえに真相を打ち明けて相談します。しんのすけはサキちゃんが悪夢を食べてくれるという獏のぬいぐるみをいつもポケットに大事に入れているのを思い出し、悪夢を獏に食べさせてなくすことでサキちゃんを救い、悪夢に囚われた春日部の人々や子どもたちを救う作戦を考えた野原一家は、獏探しのために決死の覚悟で夢の中へ入っていきます。そこでひろしとみさえはサキちゃんのパパ・夢彦と対決し、サキちゃんがなぜ心に治せない傷を負い悪夢に精神が食いつくされそうになってしまったかを知らされて衝撃を受けますが、「警察も医者も役に立たない!この子を救えるのは私だけだ!」と苦しむパパの夢彦をもまだサキちゃんの悪夢からの救出によって救える手段はあるはずだ、とひろしとみさえは再びしんのすけとともに夢の世界に飛びこんでいきます。
 さて、シリーズ歴代初期の本郷、原、水島監督はいずれも名手でしたしムトウ監督も負けず劣らない手腕の監督ですがプログラム・ピクチャー的な性格を明確に打ち出したのがムトウ監督の路線だったと思え、それが実は作家性が強かったしんちゃん映画をもっと融通の利くものに開放したのがムトウ監督の3作こそ成功しましたがしばらくシリーズの出来不出来を不安定にしたとも言えますし、橋本監督と高橋監督という異なる指向の監督の交替制によってようやく安定したとも言えそうで、外部のフリー監督の橋本監督がプログラム・ピクチャー指向ならシンエイ動画所属監督の高橋監督の方はシンエイ動画出身の先輩監督の本郷、原、水島監督の系譜を継いで社内監督だけに作家性の強い作品が作れる面白いバランスが取れてきたと言えます。本作は公開2週目くらいの週末に満員の映画館で堪能しましたが、DVDで97分、というのがおや、と思うくらい後半1/3はそろそろクライマックスだろうと思うと解決にはいたらず、今度こそクライマックスだと思ってもまだ根が深いと、観客の一喜一憂とハラハラし通しが劇場内の空気を張りつめさせていました。これは明かしても構わないと思うので書いてしまうと、サキちゃんが心に追った傷はパパの夢彦と共同研究していたママのサユリ(吉瀬美智子)が実験中に機材の爆発で事故死し、その直前に実験室に入ろうとしたママのサユリがサキちゃんをかばって突き飛ばしたため幼かったサキちゃんにはママの死は自分のせいだと思いこんだ(突き飛ばされた)、しかしサキちゃんを室外に突き飛ばしたママはサキちゃんに笑いかけて(幼かったサキちゃんはこれで娘は安全、というママの笑顔にこめられた愛の意味がわからなかった)、その時爆発の炎がママのサユリを包んだのでサキちゃんの精神状態は事態が理解できないまま眠ると必ず怨霊となったママのサユリに追いかけられるようになり、夢彦の開発した悪夢中和装置ユメミーワールドで他人の幸福な夢で中和させつづけなければサキちゃんは「悪夢に食いつくされてしまう」ような孤独な子どもになった、というのがひろしとみさえが対決した夢彦から聞いた真相で、文章にしてしまうと平坦で説明的ですが、アニメーションだとサキちゃんがお母さんを失い悪夢にうなされて憔悴するようになったプロセスが痛々しいほど伝わってきます。獏のぬいぐるみも生前のお母さんが眠る時のお守りに縫ってくれたものでした。映画冒頭からすぐに、サキちゃんのふたば幼稚園の入園の日の職員室で「短期ですがよろしくお願いします」「すぐにお友だちができるといいですね」「できんでしょうな。あの子には」と夢彦が先生たちと憮然と会話していた場面、焦げついた目玉焼きと焦げたパンの朝食を支度して「おいしいか」「おいしいよ、パパ」とわびしい父子家庭の様子が描かれた場面が生きてきます。ひろしたちと夢彦の対決に先立ってサキちゃんは「パパは悪夢は見ないようにしてくれたけど、これまで私と友だちになってくれる子はひとりもいなかった!この町で初めて友だちができたの!」と、かすかべ防衛隊のみんなが夢を奪われそうになって自分から眠る時に頭にかぶる悪夢中和装置のヘルメットを外して寝て、一夜で紫の髪が半分あまり褪色してしまいます。悪夢の世界で「とにかく明るい安村」(とにかく明るい安村)の集団やボーちゃんがファンだという大和田獏(大和田獏)に追いかけられたり出会ったりしながら、駆けつけたみさえと必死で獏を呼び出すしんのすけの願いが届き、みさえに抱きしめられてサキちゃんは最後に見たママの笑顔の意味、ママの自分への愛を理解し、しんのすけが呼び出した獏がサキちゃんの悪夢に現れる巨大な女の怨霊を食べつくします。エピローグではふたば幼稚園でネネちゃんがサキちゃんから来た手紙をかすかべ防衛隊のみんなに読み、もう悪夢は見ないこと、外国の研究所に招かれたパパと仲良く暮らしていること、こちらの幼稚園でも友だちができたこと、いつかみんなと会いたいことが外国で暮らすサキちゃんとパパの夢彦の様子とともに描かれます。先輩しんちゃん映画監督の原恵一監督も情感豊かな作風と描写の名手でしたが、高橋監督も原監督とは違った角度でアニメーションならではの手法によって鋭いキャラクター造型と重いテーマの処理に優れた手腕を見せ、映画館では怖くて泣いてしまう子どもも多かったという本作ですが高橋監督は「それも大切なことなんですよ。サキが体験したことを劇場の子どもたちに一緒に体験してもらい、一緒に克服してもらいたかったんです」と語っており、この作品がシリーズ歴代3位(21億1,000万円)を塗り替える興行成績を記録する特大ヒットになったのは日本の長編アニメーション映画の水準と観客の見識を誇れるものだと思います。