映画日記2019年4月22日~24日/一気観!『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ!(8)
ボックスセット『映画クレヨンしんちゃんDVD-BOX』2017は第25作『襲来!!宇宙人シリリ』2017の公開にあわせ前年度までの第24作までを収録した24枚組セットですが、前回ご紹介した第21作『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』2013は監督が橋本昌和('75年生まれ)に交代し、ひさびさにしんちゃん映画で快作が出たと評判になり往年のヒット水準を取り戻した作品でした。次いで高橋渉('75年生まれ)監督が担当した第22作『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』2014は原恵一監督担当の第9作『モーレツ!オトナ帝国の逆襲』2001(興行収入15億円)、ムトウユージ監督の第15作『歌うケツだけ爆弾!』2007(15億5,000万円)をしのいで歴代3位を更新する興行収入18億3,000万円を達成、以降交替制で橋本監督担当の第23作『オラの引越し物語~サボテン大襲撃~』2015は約23億円と第1作('93年、22億2,000万円)、第2作('94年、20億6,000円)をしのぐシリーズ歴代1位の特大ヒットを記録し、高橋監督担当の第24作『爆睡!ユメミーワールド大突撃』2016も21億1,000万円で歴代トップ3を更新しています(なので『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』はすぐに歴代5位に塗り替えられました)。その後、ひろし役が藤原啓治氏から森川智之氏に交代後の橋本監督の第25作『襲来!!宇宙人シリリ』2017が16億2,000万円、昨年の高橋監督の第26作『爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』2018が18億3,000万円と好調は続き、第26作公開後テレビ版当初からしんちゃんを演じてきた矢島晶子さんが降板し小林由美子さんに交代したので、2019年4月19日封切りの橋本監督による最新作で第27作『新婚旅行ハリケーン~失われたひろし~』はしんのすけ役が小林由美子さんに交代した初めてのしんちゃん映画でもあり、この感想文は第24作までを収めた『映画クレヨンしんちゃんDVD-BOX 1993-2016』収録作で区切ったので今回と次回で一旦終わりますが、しんちゃん映画はなお新作も注目されるところです。なお各作品内容の紹介文はDVDボックスの作品紹介を引用させていただきました。
●4月22日(月)
『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(監督=高橋渉、シンエイ動画=双葉社=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2014.4.19)*97min, Color Animation
◎ある日、ギックリ腰を治しにマッサージに行ったひろし。なんと、ロボットになって帰ってきた!?戸惑うみさえと、大喜びのしんのすけだったが、それは家庭での立場がすっかり弱くなってしまった日本の父親たちの復権をもくろむ"父ゆれ同盟"による巨大な陰謀だった!どうなる、ロボとーちゃん!!
本作はクライマックスに正体を現した黒幕が頑馬博士(コロッケ)に作らせた巨大ロボット・五木ひろしロボ(コロッケ)が超音波演歌ビーム(「契り」を歌います)で攻撃してくるのを巨大ロボットで迎え討つ巨大ロボット対決のサービスもあり、みさえと段々腹婦警と逮捕された父ゆれ同盟の手下の蘭々が「男って何でロボット大好きなのかしら」と馬鹿馬鹿しさに呆れる、というギャグにもなっていますが、実はロボひろしの正体は……というのが最大の意外性で叙述トリックが仕掛けられていたのがわかり、そこで野原一家がもとの一家に戻るにはつらい犠牲者が出なければならない、というシビアな展開になります。最後は春日部の町には平和が戻り主婦たちと父親たちがいたわりあうように変化するハッピーエンドがあるので後味全体はさわやかに終わるようになっているのですが、野原一家がつらい選択と対決を迫られるのが本当のクライマックスになので、大人の観客には苦い後味も混じる作品になっています。「キミに100パーセント」が主題歌なのが苦みを柔らげているのが救われます。本作の仕組みを書くと未見の方は意外性を削がれることになってしまうので詳しく書けず残念ですが、『オトナ帝国~』や『戦国大合戦』『夕陽のカスカベボーイズ』なども単純にハッピーエンドとは割り切れない作品だったのと同様か、それ以上にしんちゃん映画史上空前絶後のバッドエンドという声もあるくらいで、高橋監督は次々作『ユメミーワールド~』でも真正面から「肉親の死」をしんちゃん映画で描いて作品も好評なら興行収入も本作を大きく上回る大成功を収めますが、それも本作の成果を踏まえてのことでしょう。しんちゃん映画は毎回新作公開とともに次年度作品の製作発表がありますが、次に前作『B級グルメサバイバル!!』の橋本昌和監督による新作と発表されたことからも橋本昌和監督(フリー監督)と高橋渉監督(シンエイ動画所属監督)の交替制は本作の成功で決まったと思われ、本作は中島かずき脚本の功績の大きい内容ですがフリー監督の橋本監督の方がプログラム・ピクチャー的な作風で、シンエイ動画所属監督の高橋監督の方が作家性の強さを感じさせる(シリーズ歴代監督の本郷みつる、原恵一、水島努、ムトウユージ監督らも社内監督でしたが)のは面白い対照をなしています。ともあれ、本作はしんちゃん映画中の異色作でもありシリーズ最上位にランクされる傑作の1本です。
●4月23日(火)
『映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語~サボテン大襲撃~』(監督=橋本昌和、シンエイ動画=双葉社=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2015.4.18)*104min, Color Animation
◎野原一家がメキシコへお引っ越し!?辿り着いた町の名前は"マダクエルヨバカ"。個性いっぱいのお隣さんたちに囲まれて、楽しい毎日がスタートするはずが……待ち受けていたのは人喰いキラーサボテンだった!しんのすけとメキシコのご近所さんたちは、この絶体絶命の大ピンチを乗り越えられるのか!?
本作は野原一家の出発までも長すぎず短すぎず、風間くんとしんのすけの別れも感動的ながらよくある盛り上げ方に見えて実はここにクライマックスの伏線がしのばせてある巧みさで、この小道具や伏線のさりげない提示や意外性に富んだ生かし方は『B級グルメ~』でもあったものですが、こうして書いても実際に映画そのもの、その伏線と小道具の生かし方をご覧になるまで予想がつく方はいないでしょう。また不死身のキラーサボテンの群れから逃れる一堂が次々と計画を思いつき実行するもどの計画も成功しないもどかしいサスペンスが意外性と説得力のどちらも備えて展開していくのも迫真の異常生物襲撃もののパニック・ホラー映画として上乗に描かれており、実写映画とは違ったアニメーション映画ならではの描写を堪能できるのが本作の点を稼いでいるので、ロケハンは行われたでしょうが実際にメキシコを舞台にした日本製パニック・ホラー映画を実写で作ろうとすればオープン・セット撮影とCGを駆使しても数十億円の製作費がかかるばかりかチャチなものになりかねない。アニメーションだから軽々と(とはいえ力量は大いに問われますが)工夫次第でクリアでき、しかもアニメーション映画のリアリティの次元なので不自然にならない得があるので、到着後キラーサボテン発生の頃には野原一家は日常会話ならスペイン語を話せるようになっている設定で、双葉商事メキシコ支社のホセくんは別にしてマダクエルヨバカ市民たちはみんな本来はスペイン語で会話しているのですが、本作はファミリー向けアニメーション映画なのでいわば日本語吹き替えの状態なのが前提になっています。実写映画ではこれは当然すんなりとそうはいきませんし、アニメならではのデフォルメで統一されているので日本人一家とメキシコ人たちが自然に画面の中で同居している。これは実写映画でやったら肉体的な存在感が質感自体まるで違うので仕草ひとつ取っても設定の作為性が浮いてしまいわざとらしく見えて、パニック・ホラー映画であるより前に国際キャスト映画のわざとらしさがサスペンス・ドラマへの没入の邪魔になってしまうと考えられます。本作はあくまで観光資源としてのサボテン保全にこだわるエラインデス町長が被害を広げることになり、不死身のキラーサボテンの弱点がようやく判明し、ついに決意した町長が手段を示唆するも実行困難なその計画を幼稚園の先生のカロリーナとようやく心を開いたスマホちゃんことフランシスカがしんのすけと3人で他の大人たちがサボテンの群れの注意を引きつけている間に実行するのですが、カロリーナ役の坂本真綾さん、スマホちゃん役の指原莉乃さんとも好演で本作はヒロインが二人いるのも華を添えています。決死のキラーサボテン退治計画、しかも成功の確率が高いとは言えない困難な作戦でこれをしくじったら後がない、しかも失敗に終わってしまいそうになるのを実現するのがしんのすけの機転で、ここで伏線と小道具が生きてくるのも心憎い仕組みです。またキラーサボテンに食われてしまった人々の運命はというと、これもちゃっかりと、しかも納得のいく具合に判明する。本作は特大ヒット作なので前作『~ロボとーちゃん』がシリーズ空前絶後のバッドエンドではないかとも意見が出た(これは出るべくして出た、製作側も承知の上そう作ったでしょうが)のと同様、突然変異巨大食虫植物キラーサボテンの発生原因・正体が問われない(究明・推定もされない)のに不満の声も上がりましたが、確かに蟻の群れや蜂の群れ、蚊の群れやミミズの群れと較べても動き回り分裂・結合も自由自在な巨大食人サボテンの群れというのは突拍子もなく、これが結末につながるのですが巨大女王サボテンと分裂したキラーサボテン群は働き蟻・働き蜂と女王蟻・女王蜂の関係にあり、その辺は少し疑似空想生物学(植物学)的な説明はあってもよかったかと思えますが、もともとこんな突然変異はあり得ない思い切った空想植物なので説明は切り捨てる(一応ちゃんとドラマ上必要なキラーサボテンの行動原理や生態は説明する)のも見識であり、本作の場合はそれでいいとも思えます。ただし本作はしんちゃん映画でありながらしんちゃん映画でなくてもいい要素で生物襲撃ものパニック・ホラー映画に成り立っている面が大きく、橋本監督のしんちゃん映画としてはどちらかといえば『B級グルメサバイバル!!』に軍配を上げたいような気もしてきます。
●4月21日(日)
『映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』(監督=高橋渉、シンエイ動画=双葉社=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2016.4.16)*97min, Color Animation
◎ある夜をきっかけに、春日部じゅうの人たちが、見たい夢を見られる世界"ユメミーワールド"に行けるようになる。楽しい夢に夢中になる人々だったが、次第に悪夢しか見られない恐怖の世界へと変わっていく。そんな中、引越してきた謎の少女サキ。なかなか打ち解けないサキにはある秘密があった……。
さて、シリーズ歴代初期の本郷、原、水島監督はいずれも名手でしたしムトウ監督も負けず劣らない手腕の監督ですがプログラム・ピクチャー的な性格を明確に打ち出したのがムトウ監督の路線だったと思え、それが実は作家性が強かったしんちゃん映画をもっと融通の利くものに開放したのがムトウ監督の3作こそ成功しましたがしばらくシリーズの出来不出来を不安定にしたとも言えますし、橋本監督と高橋監督という異なる指向の監督の交替制によってようやく安定したとも言えそうで、外部のフリー監督の橋本監督がプログラム・ピクチャー指向ならシンエイ動画所属監督の高橋監督の方はシンエイ動画出身の先輩監督の本郷、原、水島監督の系譜を継いで社内監督だけに作家性の強い作品が作れる面白いバランスが取れてきたと言えます。本作は公開2週目くらいの週末に満員の映画館で堪能しましたが、DVDで97分、というのがおや、と思うくらい後半1/3はそろそろクライマックスだろうと思うと解決にはいたらず、今度こそクライマックスだと思ってもまだ根が深いと、観客の一喜一憂とハラハラし通しが劇場内の空気を張りつめさせていました。これは明かしても構わないと思うので書いてしまうと、サキちゃんが心に追った傷はパパの夢彦と共同研究していたママのサユリ(吉瀬美智子)が実験中に機材の爆発で事故死し、その直前に実験室に入ろうとしたママのサユリがサキちゃんをかばって突き飛ばしたため幼かったサキちゃんにはママの死は自分のせいだと思いこんだ(突き飛ばされた)、しかしサキちゃんを室外に突き飛ばしたママはサキちゃんに笑いかけて(幼かったサキちゃんはこれで娘は安全、というママの笑顔にこめられた愛の意味がわからなかった)、その時爆発の炎がママのサユリを包んだのでサキちゃんの精神状態は事態が理解できないまま眠ると必ず怨霊となったママのサユリに追いかけられるようになり、夢彦の開発した悪夢中和装置ユメミーワールドで他人の幸福な夢で中和させつづけなければサキちゃんは「悪夢に食いつくされてしまう」ような孤独な子どもになった、というのがひろしとみさえが対決した夢彦から聞いた真相で、文章にしてしまうと平坦で説明的ですが、アニメーションだとサキちゃんがお母さんを失い悪夢にうなされて憔悴するようになったプロセスが痛々しいほど伝わってきます。獏のぬいぐるみも生前のお母さんが眠る時のお守りに縫ってくれたものでした。映画冒頭からすぐに、サキちゃんのふたば幼稚園の入園の日の職員室で「短期ですがよろしくお願いします」「すぐにお友だちができるといいですね」「できんでしょうな。あの子には」と夢彦が先生たちと憮然と会話していた場面、焦げついた目玉焼きと焦げたパンの朝食を支度して「おいしいか」「おいしいよ、パパ」とわびしい父子家庭の様子が描かれた場面が生きてきます。ひろしたちと夢彦の対決に先立ってサキちゃんは「パパは悪夢は見ないようにしてくれたけど、これまで私と友だちになってくれる子はひとりもいなかった!この町で初めて友だちができたの!」と、かすかべ防衛隊のみんなが夢を奪われそうになって自分から眠る時に頭にかぶる悪夢中和装置のヘルメットを外して寝て、一夜で紫の髪が半分あまり褪色してしまいます。悪夢の世界で「とにかく明るい安村」(とにかく明るい安村)の集団やボーちゃんがファンだという大和田獏(大和田獏)に追いかけられたり出会ったりしながら、駆けつけたみさえと必死で獏を呼び出すしんのすけの願いが届き、みさえに抱きしめられてサキちゃんは最後に見たママの笑顔の意味、ママの自分への愛を理解し、しんのすけが呼び出した獏がサキちゃんの悪夢に現れる巨大な女の怨霊を食べつくします。エピローグではふたば幼稚園でネネちゃんがサキちゃんから来た手紙をかすかべ防衛隊のみんなに読み、もう悪夢は見ないこと、外国の研究所に招かれたパパと仲良く暮らしていること、こちらの幼稚園でも友だちができたこと、いつかみんなと会いたいことが外国で暮らすサキちゃんとパパの夢彦の様子とともに描かれます。先輩しんちゃん映画監督の原恵一監督も情感豊かな作風と描写の名手でしたが、高橋監督も原監督とは違った角度でアニメーションならではの手法によって鋭いキャラクター造型と重いテーマの処理に優れた手腕を見せ、映画館では怖くて泣いてしまう子どもも多かったという本作ですが高橋監督は「それも大切なことなんですよ。サキが体験したことを劇場の子どもたちに一緒に体験してもらい、一緒に克服してもらいたかったんです」と語っており、この作品がシリーズ歴代3位(21億1,000万円)を塗り替える興行成績を記録する特大ヒットになったのは日本の長編アニメーション映画の水準と観客の見識を誇れるものだと思います。
●4月22日(月)
『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(監督=高橋渉、シンエイ動画=双葉社=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2014.4.19)*97min, Color Animation
◎ある日、ギックリ腰を治しにマッサージに行ったひろし。なんと、ロボットになって帰ってきた!?戸惑うみさえと、大喜びのしんのすけだったが、それは家庭での立場がすっかり弱くなってしまった日本の父親たちの復権をもくろむ"父ゆれ同盟"による巨大な陰謀だった!どうなる、ロボとーちゃん!!

本作はクライマックスに正体を現した黒幕が頑馬博士(コロッケ)に作らせた巨大ロボット・五木ひろしロボ(コロッケ)が超音波演歌ビーム(「契り」を歌います)で攻撃してくるのを巨大ロボットで迎え討つ巨大ロボット対決のサービスもあり、みさえと段々腹婦警と逮捕された父ゆれ同盟の手下の蘭々が「男って何でロボット大好きなのかしら」と馬鹿馬鹿しさに呆れる、というギャグにもなっていますが、実はロボひろしの正体は……というのが最大の意外性で叙述トリックが仕掛けられていたのがわかり、そこで野原一家がもとの一家に戻るにはつらい犠牲者が出なければならない、というシビアな展開になります。最後は春日部の町には平和が戻り主婦たちと父親たちがいたわりあうように変化するハッピーエンドがあるので後味全体はさわやかに終わるようになっているのですが、野原一家がつらい選択と対決を迫られるのが本当のクライマックスになので、大人の観客には苦い後味も混じる作品になっています。「キミに100パーセント」が主題歌なのが苦みを柔らげているのが救われます。本作の仕組みを書くと未見の方は意外性を削がれることになってしまうので詳しく書けず残念ですが、『オトナ帝国~』や『戦国大合戦』『夕陽のカスカベボーイズ』なども単純にハッピーエンドとは割り切れない作品だったのと同様か、それ以上にしんちゃん映画史上空前絶後のバッドエンドという声もあるくらいで、高橋監督は次々作『ユメミーワールド~』でも真正面から「肉親の死」をしんちゃん映画で描いて作品も好評なら興行収入も本作を大きく上回る大成功を収めますが、それも本作の成果を踏まえてのことでしょう。しんちゃん映画は毎回新作公開とともに次年度作品の製作発表がありますが、次に前作『B級グルメサバイバル!!』の橋本昌和監督による新作と発表されたことからも橋本昌和監督(フリー監督)と高橋渉監督(シンエイ動画所属監督)の交替制は本作の成功で決まったと思われ、本作は中島かずき脚本の功績の大きい内容ですがフリー監督の橋本監督の方がプログラム・ピクチャー的な作風で、シンエイ動画所属監督の高橋監督の方が作家性の強さを感じさせる(シリーズ歴代監督の本郷みつる、原恵一、水島努、ムトウユージ監督らも社内監督でしたが)のは面白い対照をなしています。ともあれ、本作はしんちゃん映画中の異色作でもありシリーズ最上位にランクされる傑作の1本です。
●4月23日(火)
『映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語~サボテン大襲撃~』(監督=橋本昌和、シンエイ動画=双葉社=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2015.4.18)*104min, Color Animation
◎野原一家がメキシコへお引っ越し!?辿り着いた町の名前は"マダクエルヨバカ"。個性いっぱいのお隣さんたちに囲まれて、楽しい毎日がスタートするはずが……待ち受けていたのは人喰いキラーサボテンだった!しんのすけとメキシコのご近所さんたちは、この絶体絶命の大ピンチを乗り越えられるのか!?

本作は野原一家の出発までも長すぎず短すぎず、風間くんとしんのすけの別れも感動的ながらよくある盛り上げ方に見えて実はここにクライマックスの伏線がしのばせてある巧みさで、この小道具や伏線のさりげない提示や意外性に富んだ生かし方は『B級グルメ~』でもあったものですが、こうして書いても実際に映画そのもの、その伏線と小道具の生かし方をご覧になるまで予想がつく方はいないでしょう。また不死身のキラーサボテンの群れから逃れる一堂が次々と計画を思いつき実行するもどの計画も成功しないもどかしいサスペンスが意外性と説得力のどちらも備えて展開していくのも迫真の異常生物襲撃もののパニック・ホラー映画として上乗に描かれており、実写映画とは違ったアニメーション映画ならではの描写を堪能できるのが本作の点を稼いでいるので、ロケハンは行われたでしょうが実際にメキシコを舞台にした日本製パニック・ホラー映画を実写で作ろうとすればオープン・セット撮影とCGを駆使しても数十億円の製作費がかかるばかりかチャチなものになりかねない。アニメーションだから軽々と(とはいえ力量は大いに問われますが)工夫次第でクリアでき、しかもアニメーション映画のリアリティの次元なので不自然にならない得があるので、到着後キラーサボテン発生の頃には野原一家は日常会話ならスペイン語を話せるようになっている設定で、双葉商事メキシコ支社のホセくんは別にしてマダクエルヨバカ市民たちはみんな本来はスペイン語で会話しているのですが、本作はファミリー向けアニメーション映画なのでいわば日本語吹き替えの状態なのが前提になっています。実写映画ではこれは当然すんなりとそうはいきませんし、アニメならではのデフォルメで統一されているので日本人一家とメキシコ人たちが自然に画面の中で同居している。これは実写映画でやったら肉体的な存在感が質感自体まるで違うので仕草ひとつ取っても設定の作為性が浮いてしまいわざとらしく見えて、パニック・ホラー映画であるより前に国際キャスト映画のわざとらしさがサスペンス・ドラマへの没入の邪魔になってしまうと考えられます。本作はあくまで観光資源としてのサボテン保全にこだわるエラインデス町長が被害を広げることになり、不死身のキラーサボテンの弱点がようやく判明し、ついに決意した町長が手段を示唆するも実行困難なその計画を幼稚園の先生のカロリーナとようやく心を開いたスマホちゃんことフランシスカがしんのすけと3人で他の大人たちがサボテンの群れの注意を引きつけている間に実行するのですが、カロリーナ役の坂本真綾さん、スマホちゃん役の指原莉乃さんとも好演で本作はヒロインが二人いるのも華を添えています。決死のキラーサボテン退治計画、しかも成功の確率が高いとは言えない困難な作戦でこれをしくじったら後がない、しかも失敗に終わってしまいそうになるのを実現するのがしんのすけの機転で、ここで伏線と小道具が生きてくるのも心憎い仕組みです。またキラーサボテンに食われてしまった人々の運命はというと、これもちゃっかりと、しかも納得のいく具合に判明する。本作は特大ヒット作なので前作『~ロボとーちゃん』がシリーズ空前絶後のバッドエンドではないかとも意見が出た(これは出るべくして出た、製作側も承知の上そう作ったでしょうが)のと同様、突然変異巨大食虫植物キラーサボテンの発生原因・正体が問われない(究明・推定もされない)のに不満の声も上がりましたが、確かに蟻の群れや蜂の群れ、蚊の群れやミミズの群れと較べても動き回り分裂・結合も自由自在な巨大食人サボテンの群れというのは突拍子もなく、これが結末につながるのですが巨大女王サボテンと分裂したキラーサボテン群は働き蟻・働き蜂と女王蟻・女王蜂の関係にあり、その辺は少し疑似空想生物学(植物学)的な説明はあってもよかったかと思えますが、もともとこんな突然変異はあり得ない思い切った空想植物なので説明は切り捨てる(一応ちゃんとドラマ上必要なキラーサボテンの行動原理や生態は説明する)のも見識であり、本作の場合はそれでいいとも思えます。ただし本作はしんちゃん映画でありながらしんちゃん映画でなくてもいい要素で生物襲撃ものパニック・ホラー映画に成り立っている面が大きく、橋本監督のしんちゃん映画としてはどちらかといえば『B級グルメサバイバル!!』に軍配を上げたいような気もしてきます。
●4月21日(日)
『映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』(監督=高橋渉、シンエイ動画=双葉社=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2016.4.16)*97min, Color Animation
◎ある夜をきっかけに、春日部じゅうの人たちが、見たい夢を見られる世界"ユメミーワールド"に行けるようになる。楽しい夢に夢中になる人々だったが、次第に悪夢しか見られない恐怖の世界へと変わっていく。そんな中、引越してきた謎の少女サキ。なかなか打ち解けないサキにはある秘密があった……。

さて、シリーズ歴代初期の本郷、原、水島監督はいずれも名手でしたしムトウ監督も負けず劣らない手腕の監督ですがプログラム・ピクチャー的な性格を明確に打ち出したのがムトウ監督の路線だったと思え、それが実は作家性が強かったしんちゃん映画をもっと融通の利くものに開放したのがムトウ監督の3作こそ成功しましたがしばらくシリーズの出来不出来を不安定にしたとも言えますし、橋本監督と高橋監督という異なる指向の監督の交替制によってようやく安定したとも言えそうで、外部のフリー監督の橋本監督がプログラム・ピクチャー指向ならシンエイ動画所属監督の高橋監督の方はシンエイ動画出身の先輩監督の本郷、原、水島監督の系譜を継いで社内監督だけに作家性の強い作品が作れる面白いバランスが取れてきたと言えます。本作は公開2週目くらいの週末に満員の映画館で堪能しましたが、DVDで97分、というのがおや、と思うくらい後半1/3はそろそろクライマックスだろうと思うと解決にはいたらず、今度こそクライマックスだと思ってもまだ根が深いと、観客の一喜一憂とハラハラし通しが劇場内の空気を張りつめさせていました。これは明かしても構わないと思うので書いてしまうと、サキちゃんが心に追った傷はパパの夢彦と共同研究していたママのサユリ(吉瀬美智子)が実験中に機材の爆発で事故死し、その直前に実験室に入ろうとしたママのサユリがサキちゃんをかばって突き飛ばしたため幼かったサキちゃんにはママの死は自分のせいだと思いこんだ(突き飛ばされた)、しかしサキちゃんを室外に突き飛ばしたママはサキちゃんに笑いかけて(幼かったサキちゃんはこれで娘は安全、というママの笑顔にこめられた愛の意味がわからなかった)、その時爆発の炎がママのサユリを包んだのでサキちゃんの精神状態は事態が理解できないまま眠ると必ず怨霊となったママのサユリに追いかけられるようになり、夢彦の開発した悪夢中和装置ユメミーワールドで他人の幸福な夢で中和させつづけなければサキちゃんは「悪夢に食いつくされてしまう」ような孤独な子どもになった、というのがひろしとみさえが対決した夢彦から聞いた真相で、文章にしてしまうと平坦で説明的ですが、アニメーションだとサキちゃんがお母さんを失い悪夢にうなされて憔悴するようになったプロセスが痛々しいほど伝わってきます。獏のぬいぐるみも生前のお母さんが眠る時のお守りに縫ってくれたものでした。映画冒頭からすぐに、サキちゃんのふたば幼稚園の入園の日の職員室で「短期ですがよろしくお願いします」「すぐにお友だちができるといいですね」「できんでしょうな。あの子には」と夢彦が先生たちと憮然と会話していた場面、焦げついた目玉焼きと焦げたパンの朝食を支度して「おいしいか」「おいしいよ、パパ」とわびしい父子家庭の様子が描かれた場面が生きてきます。ひろしたちと夢彦の対決に先立ってサキちゃんは「パパは悪夢は見ないようにしてくれたけど、これまで私と友だちになってくれる子はひとりもいなかった!この町で初めて友だちができたの!」と、かすかべ防衛隊のみんなが夢を奪われそうになって自分から眠る時に頭にかぶる悪夢中和装置のヘルメットを外して寝て、一夜で紫の髪が半分あまり褪色してしまいます。悪夢の世界で「とにかく明るい安村」(とにかく明るい安村)の集団やボーちゃんがファンだという大和田獏(大和田獏)に追いかけられたり出会ったりしながら、駆けつけたみさえと必死で獏を呼び出すしんのすけの願いが届き、みさえに抱きしめられてサキちゃんは最後に見たママの笑顔の意味、ママの自分への愛を理解し、しんのすけが呼び出した獏がサキちゃんの悪夢に現れる巨大な女の怨霊を食べつくします。エピローグではふたば幼稚園でネネちゃんがサキちゃんから来た手紙をかすかべ防衛隊のみんなに読み、もう悪夢は見ないこと、外国の研究所に招かれたパパと仲良く暮らしていること、こちらの幼稚園でも友だちができたこと、いつかみんなと会いたいことが外国で暮らすサキちゃんとパパの夢彦の様子とともに描かれます。先輩しんちゃん映画監督の原恵一監督も情感豊かな作風と描写の名手でしたが、高橋監督も原監督とは違った角度でアニメーションならではの手法によって鋭いキャラクター造型と重いテーマの処理に優れた手腕を見せ、映画館では怖くて泣いてしまう子どもも多かったという本作ですが高橋監督は「それも大切なことなんですよ。サキが体験したことを劇場の子どもたちに一緒に体験してもらい、一緒に克服してもらいたかったんです」と語っており、この作品がシリーズ歴代3位(21億1,000万円)を塗り替える興行成績を記録する特大ヒットになったのは日本の長編アニメーション映画の水準と観客の見識を誇れるものだと思います。