人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

モンクス Monks - ブラック・モンク・タイム Black Monk Time (International Polydor Production, 1966)

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モンクス Monks - ブラック・モンク・タイム Black Monk Time (International Polydor Production, 1966) Full Album + 4 Bonus Tracks : https://www.youtube.com/playlist?list=PL8F5DB6F54A8ACB74

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Recorded in Cologne, Germany, November 1965
Originally Released by International Polydor Production 249 900, Germany, March 1966
Tracks 13-14 : single Polydor International 52957/1966.
Tracks 15-16 : single Polydor International 52958/1967.
All tracks written by Burger/Clark/Day/Johnston/Shaw
(Side A)
A1. Monk Time - 2:45
A2. Shut Up - 3:10
A3. Boys Are Boys And Girls Are Choice - 1:25
A4. Higgle-Dy - Piggle-Dy - 2:30
A5. I Hate You - 3:25
A6. Oh, How To Do Now - 3:15
(Side B)
B1. Complication - 2:33
B2. We Do Wie Du - 2:12
B3. Drunken Maria - 1:45
B4. Love Came Tumblin' Down - 2:30
B5. Blast Off ! - 2:15
B6. That's My Girl - 2:25
(1994 Repetoire Records CD Bonus Tracks)
Tr.13. I Can't Get Over You - 2:42
Tr.14. Cuckoo - 2:41
Tr.15. Love Can Tame The Wild - 2:38
Tr.16. He Went Down To The Sea - 3:03

[ Monks ]

Gary Burger - vocals, guitar
Larry Clark - vocals, philicorda organ
Roger Johnston - vocals, drums
Eddie Shaw - vocals, bass guitar
Dave Day - vocals, electric banjo

(Original International Polydor Production "Black Monk Time" LP Liner Cover & Side A Label)

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 モンクスは全員が当時西ドイツ在中だったアメリカ軍GIが始めたバンドで、モンクス(またはザ・モンクス)と改名する前の1964年秋にトークェーズ(The Torquays)名義でシングル1枚(There She Walks c/w Boys Are Boys)を自主制作で発表しています。ビートルズの国際的大ブレイク以後はもちろんロックはイギリス、ヨーロッパ諸国、南米諸国で人気があり、特にアメリカに次ぐポピュラー文化産出国のドイツ、フランス、イタリアは世界三大映画祭国(ベルリン、カンヌ、ヴェネツィア)でもあるくらいですからジャズ、ロックなどのアメリカ由来の音楽がさかんでした。北欧、東欧諸国の文化水準も高いものでしたが国内市場が小さく輸出力が弱かったので独仏伊の三国にはかないません。かえって輸出力には欠けても国内市場が大きかった日本(映画ではインド、中国)の方が産出力は高かったほどです。西ドイツはセミプロ時代のビートルズが巡業していたことでも知られるくらいロック需要が高かった国ですから、ビートルズの大ブレイク以後はたちまち国産ビート・グループが乱立した。1964年から5年間にアメリカ合衆国で何らかの活動実績が確認できるロック・バンドは18万組以上に上るという調査があるほどですが、そうしたアメリカの群小バンドや西ドイツの60年代バンドばかりを集めたコンピレーションCDなどを聴くと、プリティ・シングス(The Pretty Things、'64年5月デビュー・シングル「Rosalyn」、'65年3月ファースト・アルバム)やシャドウズ・オブ・ナイト(The Shadows of Knight、'66年1月デビュー・シングル「Gloria」、'66年4月ファースト・アルバム)の影響力が非常に大きかったのがわかります。この2バンドは英米'60年代のフリークビート、ガレージ・ロック、プロト・パンク・スタイルの創始者兼代表的バンドですが、ビートルズストーンズ、アニマルズ、キンクスヤードバーズ、ゼム、ザ・フーら有力バンドのように作曲、歌手、演奏力に突出した才能を持っていなかった。そこで大半のレパートリーがカヴァー曲ですがメンバー個人(ヴォーカリストやギタリスト)の才能に依らないバンド一丸になった荒々しい演奏に勝負を賭けて成果を上げたので、大半がまだ10代で音楽知識も楽器演奏経験も浅い学生のアマチュア・ロックバンドにはもっとも手本にしやすかった。「Gloria」はヴァン・モリソン率いるゼムの名曲ですが歌詞の一部が検閲に引っかかりラジオ放送できず、アメリカではシャドウズ・オブ・ナイトの一部歌詞を変えたヴァージョンによってガレージロック・スタンダードになったのです。後にパティ・スミスがパンクヴァージョン・カヴァーしたのも'60年代のガレージ・ロックをパンクの起点とする考えからでしょう。
 1966年はアメリカのロック界が大きく転換した年で、サイモン&ガーファンクルの『サウンド・オブ・サイレンス』が1月(『パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム』が10月)、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』とボブ・ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』が5月、ザ・バーズの『霧の五次元』が6月、またストーンズの『アフターマス』のアメリカ盤発売が6月、ビートルズの『リヴォルヴァー』のアメリカ盤発売が8月ですが、アメリカの新人バンドとしてはファッグス、ザ・ポール・バタフィールド・ブルース・バンド('65年10月アルバム・デビュー)を先駆的存在にラヴ、ザ・ブルース・プロジェクト(3月)、ザ・シャドウズ・オブ・ナイト、ザ・シーズ(4月)、フランク・ザッパマザーズ・オブ・インヴェンジョン、ザ・スタンデルズ(6月)、ジェファーソン・エアプレイン(8月)、ブルース・マグース、ザ・13thフロア・エレヴェーターズ(10月)、バッファロー・スプリングフィールド(12月)がアルバム・デビューしています。翌'67年にはザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(3月)、ザ・ドアーズ、グレイトフル・デッド、ジ・エレクトリック・プリューンズ(4月)、ザ・リッター、カントリー・ジョー&ザ・フィッシュ、モビー・グレイプ(5月)、キャプテン・ビーフハート&ヒズ・マジック・バンド(6月)、ヴァニラ・ファッジ(7月)、ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス(8月・アメリカ盤)、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー(ジャニス・ジョプリン、9月)、ストロベリー・アラーム・クロック(11月)がアルバム・デビューし、さらに'68年上半期にはスピリット、アイアン・バタフライ、ステッペンウルフ、ブルー・チアー、ドクター・ジョン&ナイトトリッパー(1月)、ジ・エレクトリック・フラッグ(3月)、クイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(5月)がアルバム・デビューしており、CCRザ・バンド('68年7月)のデビューでガレージ・ロック~ブルース・ロック~サイケデリック・ロックの新人バンド時代は区切りがついたとも言えるでしょう。しかしアメリカのロック界の活況にあったこの時期にもモンクスの活動は西ドイツ(とごく短期のフランス巡業)に限られていたので、当時は国際的注目を集めなかったのです。

 モンクスは1枚きりのアルバムが西ドイツで発売された後1967年まで2枚のシングルを発表し、シングルの作風からは、もしアルバム規模の新作が制作されたら、アメリカの当時の多くのバンドがそうだったようにサイケデリック・ロックに向かっただろうと推測されます。しかしトゥークェーズからザ・モンクスに改名した時、バンドはカトリックの僧侶の衣装に頭頂剃髪(トンスラ)とロックバンドとしてはもっとも異形で冒涜・挑発的なキャラクターを打ち出し、僧侶の姿をしたアメリカ軍人のロックバンドがヴェトナム戦争を題材とした曲を堂々と歌う、政治的にも思想的にも人を食った存在でした。音楽的には基本的なロックンロールをとことん単純化した結果ダダイズム的な実験音楽の域に踏みこんでおり、けたたましいヴォーカルとともにノイジーなオルガンやファズをかけたエレクトリック・バンジョー(!)がひたすら突進するだけのベースとドラムスと一丸となり、モダン・ラヴァーズやペル・ユビュ、DEVOを10年先取りしたようなプロト・パンクになっています。ただし'70年代のアメリカン・パンクは'60年代ロックにあって異端だったファッグスやフランク・ザッパヴェルヴェット・アンダーグラウンド、レッド・クレイオラ、キャプテン・ビーフハートドクター・ジョンらの実験的成果を踏まえていたので、詩人のパフォーマンス集団ファッグスや奇人ビーフハート、テキサス・サイケのクレイオラはともかくこうした実験的ロックのアーティストには豊かな音楽的素養がありました。モンクスのメンバーは他のバンドでは通用しないような力量しかなかったでしょうが、モンクスというバンド・コンセプトの中では爆発的な化学反応を起こしたのです。当時の西ドイツではプリティ・シングスのシングルB面曲「L.S.D.」を多くのバンドがカヴァーしていましたが、それらのバンドと同様モンクスの音楽的素養は'60年代半ばまでのR&Bやロック以外の広がりはほとんどなかったと思われます。『ブラック・モンク・タイム』の録音された'65年11月にはビートルズストーンズの最新作は『ヘルプ!』('65年8月)と『アウト・オブ・アワー・ヘッズ』('65年7月)で、アメリカ本国のガレージ・ロックを代表するラヴ、シャドウズ・オブ・ナイト、ザ・シーズもまだデビューしていません。スタンデルズの初のチャートインヒット(全米11位)になったシングル「Dirty Water」が'65年11月アメリカ発売でモンクスのアルバム録音と同時期ですが、スタンデルズは前年'64年からブリティッシュ・ビートに倣った作風でデビューしシングル5枚ノン・チャートの末にようやく「Dirty Water」をヒットさせたので、この「Dirty Water」と3か月後のシャドウズ・オブ・ナイトの「Gloria」のヒット(全米10位)でアメリカのフリークビート~ガレージ・ロックは軌道に乗ったとも言えますが、ガレージ・ロックの系譜は通常実験的ロックとは見做されていません。その点でもモンクスの尖鋭性は異質です。
 '65年11月録音の時点から『ブラック・モンク・タイム』を見てみると、'65年もまたアメリカのロックでは激動期だったのが痛感されます。ビーチ・ボーイズが初期作風の洗練の極致に到達した『トゥデイ』が'65年3月なら同月にはボブ・ディランが初のロック・アルバム『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』を発表し、6月には早くもビーチ・ボーイズの『サマー・デイズ』が発売されましたがザ・バーズのデビュー・アルバム『ミスター・タンブリン・マン』も同月です。8月にはディランの大傑作『追憶のハイウェイ61』、11月にはビーチ・ボーイズの『ビーチ・ボーイズ・パーティー』が大ヒットしましたが、12月にはザ・バーズが『ターン!ターン!ターン!』を発表し、この年のビートルズのNo.1ヒット曲は「エイト・デイズ・ア・ウィーク」(2月)、「涙の乗車券」(4月)、「ヘルプ!」(8月)、「イエスタデイ」(9月)、「デイ・トリッパー c/w 恋を抱きしめよう」(両面ヒット・12月)と6曲、ストーンズのNo.1ヒット曲は「ザ・ラスト・タイム」(2月)、「サティスファクション」(8月)、「一人ぼっちの世界」(10月)と3曲あり、ビーチ・ボーイズの「ヘルプ・ミー・ロンダ」「カリフォルニア・ガールズ」「バーバラ・アン」、ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」、ザ・バーズの「ミスター・タンブリン・マン」「ターン!ターン!ターン!」(さらにサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」)などの1965年の最先端のロックの代表的ヒット曲からも、『ブラック・モンク・タイム』は断絶しています。アメリカ人のバンド、しかも際物的な売りがあるとは言えヨーロッパのレコード会社の最大手ポリドールから堂々と発売されたのも驚くべきことで、『ブラック・モンク・タイム』は長らく廃盤が続いたあと1979年に再発売されたのち徐々に注目を集め、デッド・ケネディーズやフォール、ビースティ・ボーイズホワイト・ストライプスらによって賞賛され、ジュリアン・コープのドイツのロック研究書『Krautrock Sampler』'95では「隠れた秘宝」「クラウトロックの開祖」と評価されました。アナログ・ブートやブートCDの流通を経て1994年にドイツの復刻レーベルRepetoire Recordsから正規CD化されてからはCDがロングセラーを続け、元祖プロト・パンク、元祖実験的ロック、元祖ヒップホップとの評価も定着しました。前身バンドのトークェーズ時代から3年ほどの活動でモンクスのメンバーは兵役に戻り、アメリカ帰国後は散り散りになって音楽活動も辞めていました。

 その後モンクスは再評価の定着にともない、各種レーベルから未発表曲・未発表テイクを含む編集盤も発売され(『Five Upstart Americans』1999、『Demo Tapes 1965』2007、『The Early Years 1964–1965』2009)、『Five Upstart~』リリース時にはチョコレート・ウォッチバンド、スタンデルズとともに32年ぶりの復活コンサートを行いました。この'99年11月の復活コンサートはライヴ盤『Let's Start a Beat – Live from Cavestomp』2000として発売され、バンドはオリジナル・メンバーのまま解散宣言をする2007年まで散発的にライヴ活動します。2008年1月にエレクトリック・バンジョーのデイヴ・デイが心臓発作で亡くなりましたが(享年66歳)、ヴォーカリストのゲイリー・バージャーはミネソタ州タートル・リヴァーの市長職(2006年就任)のかたわらソロでモンクスのレパートリーのライヴ活動を2009年まで続け、現職市長のまま2014年3月に膵臓癌で亡くなりました(享年71歳)。ゲイリーさんの強力な素人ヴォーカルはモンクスの核だったので、田舎町とはいえ市長を勤めていたほどのカリスマはあったのでしょう。2006年にはモンクスへのトリビュート・アルバム『Silver Monk Time』もリリースされており、『ブラック・モンク・タイム』はサンデー・ヘラルド紙の「The 103 Best Albums Ever, Honest」(2001年)、イギリスの音楽誌「Word」の「Hidden Treasure : Great Underrated Albums of Our Time」(2005年)、全米ベストセラーになったCDガイドブック『1001 Albums You Must Hear Before You Die』(2006年)に選出され、アメリカの最大手音楽サイト「Allmusic.com」では★★★★★、オンライン・マガジン「Pitchfork」では「Greatest album of the 1960s」の127位(2017年)の評価を受けています。
 ここまで極端な再評価をされた'60年代のロック・バンドは1枚の自主制作盤『Philosophy of The World』'69を残しただけのザ・シャッグス(The Shaggs)くらいしかいないので、ニューハンプシャーの田舎町で両親の勧めで一家の四姉妹が結成したシャッグスは割合早く'70年代半ばから注目され、90年代にはメジャーのRCAからの再発CDがロングセラーとなり、2011年(2019年再演)にはシャッグス四姉妹物語がミュージカル化されたり、同年にはBBCでドキュメンタリー番組が制作されており、やはり全米ベストセラー『1001 Albums You Must Hear Before You Die』(2006年)に選出されているアルバムです。シャッグスの場合は姉妹ロックバンド、しかもまったくの素人による無自覚なアウトサイド・アートという観点から唯一無二の評価を受けているのですが、モンクスもシャッグスも特に自分たちの音楽が突然変異的なものとは気づいていなかったと思われます。シャッグスのアルバムは音楽プロモーターの詐欺によってリリースされたもので、このプロモーターはシャッグス家にレコード売り出しを持ちかけ制作費を詐取し1,000枚をプレスして900枚を「流通網に乗せた」と称して破棄し、残り100枚は地元のダンスパーティーに出演していたシャッグスが手売りしたそうで、全米各地を巡業していたフランク・ザッパが'70年代半ばにたまたまシャッグスの評判(地元では1975年まで活動していました)とアルバムを聴いて「ビートルズ以上に偉大だ」と称揚したのが評価のきっかけになり、'82年にはRounder Recordsから『Philosophy~』の曲に'70年代の未発表録音を加えたアルバム『Shaggs' Own Thing』も出ました。『ブラック・モンク・タイム』を'79年に再発売したポリドールの担当者も慧眼ですが、モンクスにしろシャッグスにしろ発見されなければそのまま埋もれていた、同時代的な評価など皆無だったバンドです。ロック史な重要性もまったくない孤立したバンドです。が、むしろ時代的な評価基準では測れなかったような面で時代を超越していたからこそ半世紀以上を経てもモンクスやシャッグスの存在は伝説化しており、どちらもダンスパーティー御用達のライヴ・バンドで田舎の観客は喜んで踊っていたという証言もあります。シャッグスについてはまた改めてご紹介したいと思います。
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