人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ボブ・ディラン『おれはさびしくなるよ』

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 ボブ・ディラン(1941-)には話題に上がらないが胸に迫る佳曲がいくつもある。'You're Gonna Make Me Lonesome When You Go'(アルバム「血の轍」'Blood On The Tracks'1974収録・写真上)もそのひとつで、ベン・ワットに新鮮なカヴァーがある(1982年・写真下)。
 「血の轍」はディラン自身の離婚を歌った私小説的作品と言われる。この曲はこんな歌い出しで始まる。'I've seen love go by my door...'

『おれはさびしくなるよ』(散文訳)

愛する人が戸口をすぎるのが見えた。こんなに近くに感じたことはない。こんなにたやすくのんびりしたことはない。正しくなければ間違いつづきで、ずっと時間を無駄にしてた。きみが行くならおれはさびしくなるよ。

空高い竜の雲。いつも下からどやされるような、軽率な愛しか知らなかったおれ。だがこんどはもっと正確に的を射たようだ。きみが行くならおれはさびしくなるよ。

きみの顔にかかる紫のクローバー、アン王女のレース、深紅の髪。きみが知らないならおれは泣く。おれはなにを考えていたんだろう。きみの多すぎる愛がおれを甘やかしたのか。きみが行くならおれはさびしくなるよ。

丘の花々は咲き乱れ、こおろぎは歌で語りあう。青い川は気だるく流れている。きみとなら時間もわからずいつまでだっていられたはずなのに。

状況は悲惨に終り、関係も悪化の一途。おれの過去はまるでヴェルレーヌランボーだった。だが今度とはまるで比較しようもない。きみが行くならおれはさびしくなるよ。

きみに置き去りにされたらおれはどうするんだろう。おれはいったいなにをしゃべるんだろう、うまくなったひとり言で。

ホノルル、サンフランシスコ、アシュタビュラ。きみを探しに行くだろう。きみはおれから離れていくんだね。空高くきみをおれは見るだろう、深い芝生や愛する人たちのなかに。きみが行くならおれはさびしくなるよ。
 (前記アルバムより)

 長い(5番・サビ2回)ので散文訳にしたが、渋い内容には良かったと思う。言葉遊びは直訳した。ヴェルレーヌランボーへの言及に一瞬同性愛の歌かとギョッとする(歌い出しもherではなくlove)が、わざと深読みさせる手口だろう。実に大人の別れの歌だと感じる。