人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

復刻・市島三千雄全詩集(2)

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●無題(燈台も…)

燈台も気象台も人々を超越しているから
そして二人共長く離れて砂丘にある
赤い旗は象形文字的であるし船に見せている
漁師は同化(な)れているから無意識である
砂丘は広大で赤い旗が動くばっかりで気象台は西洋館であるし
浜は、ペンキで明るさが一層良くなる
浜は旗で、防波堤より寂しくなるのである
遠くから見ているそして下りて上るのである
焼場の黄いろい煙が風になって来るのであるし郭と港が連鎖して赤い報告機は何もならない
砂よけ塀が長城となるし
砂丘が月の脈で
昼となると廃物となるのである
鴎は砂丘が嫌いで他に何も居無いで浜丘は風が有る
雲はいつも港に来てしまうのである
雲は空の半面に席を置くのであるし防波堤が一里も出る
皆んな突堤に出てしまう突堤にかたまっている小さくやっと見える
気象台の旗は無用なのである晴天であると実に動くのである
砂丘が変化無しにつづいている
トロンコの線路が町のはじにある
駄菓子屋が気象台の麓にやっとある旗は浜を寂しくするし草の音を生かすのである砂丘は眩しい程光らないのである気象台は遠くにある。
(「新年」1926年8月)

●無題(誰の為に…)

誰の為に生れて来た少女
秋風に點が進んで遠く行きに追って行く
皆んながこのことを話してくれない
客観の中に入って咲いた薄紅
生きている乙女のうなじ
気分の中に実りが、にすかしてグラウンドのトラックが、なぜ乙女は口を窄める
或る時は高楼街道路を見下ろせば片隅に歩んでいる乙女
一面に向って石を敷く都市進行計画
上から郊外付近を写した写真
こんな物質は見えない
なぜ陽は照らない、覗きこむ奥底の道路に疎らの我が家があるとは
僕は泣きつつも飛び出したし
地球の晴れ晴れしているのを知っているのに
赤い切れの乙女がいい
此の時土台の傾いた家の一族のひっそり
土の文明に対するをどうしよう
僕は歩んでいくだろうに力める
秋風と緑野の猟地の異国
あの乙女とは何だろう
僕は断定が好き
箱を積み上げた無意識から生じた
おさまりかえっている都会
僕は都会と何とも思っていない
底にあるのが何であろうば
動けないものなんか
(「新年」1926年11月)