人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ディラン『アイ・ウォント~』

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シンプルなタイトルだ。原題'I Want You'、アルバム「ブロンド・オン・ブロンド」'Blond On Blond'1966収録。一般にボブ・ディランのロック転向3部作(「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」1965・「追憶のハイウェイ61」同年)の追尾を飾るこの2枚組大作が60年代ディランのピークと目されている。無意識の自殺衝動が囁かれるほどに、このアルバム発表から2か月後ディランはバイク事故で1年半の療養生活をおくる。このロック3部作はますます一筋縄ではいかない作風になっていて、恋愛詩と寓意詩の区別がつかなくなっている。この詩はいったい何を歌っているのか?

『アイ・ウォント・ユー』
有罪の葬儀屋は嘆き、
孤独なオルガン弾きは泣き、
銀のサキソフォンはおれにきみを拒めと言う。
ひび割れた鐘と洗いざらしのホルンは
おれの顔に軽蔑を吹きつける
でもおれはそんなふうに
きみを失うために生まれてきたんじゃない
きみがほしい、きみがほしい
きみがたまらなくほしい
ねえ、きみがほしい。

酔っぱらった政治家たちは踊っている、
母親たちがすすり泣く街の上で
そして救世主たちは眠りこんで
きみを待っている。
そしておれはやつらがおれが割れたコップから
おれが飲むのを邪魔して
きみのために門を
開けろと命令するのを待っている
きみがほしい、きみがほしい
きみがたまらなくほしい
ねえ、きみがほしい。

いまやおれの父親たちはみんな死んでしまった
本当の恋人もなしに。
だけどその娘たちはおれをこき下ろすんだ
おれがそのことを考えないからさ。

それじゃスペードの女王のところに帰って
おれの侍女と話でもしようか
彼女はおれがおそれもせずに彼女を
見つめるのを知っている
ここでは彼女に見えないものはないから
おれにはとても良くしてくれる
おれがどこに行きたいかも知っている
だけどそれは大したことじゃない
きみがほしい、きみがほしい
きみがたまらなくほしい
ねえ、きみがほしい。
(前記アルバムより)

形式上は歌詞3連・サビ1回で、曲によっては平気で10番以上ある歌詞を歌うディランとしてはポップスらしいポップスにしたのがわかる。でもこれってラブ・ソングなのか?