ウォレス・スティーヴンズ(1879-1955)はエズラ・パウンド、W・C・ウィリアムズと並び20世紀アメリカの三大ないしは五大詩人に数えられる。詩の発表は35歳と遅く、第一詩集「ハーモニウム」1923の刊行は44歳。定年まで保険会社に勤務。晩年10年間はほとんどの文学賞を受賞し、生前のうちに高い評価を得た。
ご紹介する一篇は作者の形而上的思索が具体的な素材とよく結びついた佳作。作者は「この作品は自己認識と現実を、秩序と歓びをもって理解することの必要性の一例」と自作解説している。「雪だるま」とは自己と現実の認識の一致をなし得た人間を象徴するのだろう。
全体が一文となる3行×5連の短詩だが、最終行から再び冒頭に回帰する構造になる。冒頭連原文は、
One must have a mind of winter
To regard the frost and the boughs
Of the pine-tree crusted with snow:,
最終連原文は、
For the listner,who Iisten in the snow,
And,nothing himself,beholds
Nothing that is not there and the nothing that is.
で、アメリカ19世紀の哲学者エマソンの「自然論」'Nature'1836の一節、'(エゴイズムが消えると、私の眼は透徹した、そして),I am nothing,I see all.'との類縁性を指摘されている。
『雪だるま』The Snow Man
人は冬の心を持たねばならない
雪で固まった松の木の
霜や枝を凝視するには、
そして長い間凍えねばならない
氷の糸が絡むネズの木や
ざらざらの樅の木を遠くから照す
一月の太陽に気づくには、また風の音や
ささやかな木の葉のざわめきを
少しもみじめに思わないためには、
それは同じ風が満ちる
大地の音
そして同じ裸の場所で吹いている
耳をすます人のために、雪だるまは耳をすます
無である彼は、じっと
そこにない無とそこにある無を見つめる。
(1921年作、詩集「ハーモニウム」1923より・拙訳)