Stan Kenton(1912-1979,piano,Big Band Leader)。
このジャズ連載はどのアーティストでも各種の文献を照合して正確を期しているが、ケントンくらい文献によってデータがまちまちな例はなかった。永年の権利関係の移動もあってかデータの混乱がひどい。楽団員の出入りや録音年・発売年に明らかな矛盾や単純なミスがあり、手持ちのCDの記載データすら当てにならないのだ。大所帯の大会社はこれだから困る。
「コンテンポラリー・コンセプト」55と「キューバン・ファイア!」56の前後関係ははっきりしているが、同一メンバーの'Kenton In Hi-Fi'56(画像1)の位置がはっきりしない。次の'Back To Balboa'57?(画像2)ではメンバー・チェンジとダンス・バンド宣言があり'The Stage Door Swing'58(画像3)に続くから、ようやく混乱はなくなる。
「イン・ハイ・ファイ」はステレオ録音技術の開発による要望から再録音した楽団のベスト・アルバムで、ステレオ録音技術は後のデジタル録音に匹敵する大事件だった。楽団は絶好調で特にアルトのチャーリー・マリアーノがたっぷり聴ける。後年チャールズ・ミンガスの大作「黒い聖者と罪ある女」63で主役を張った理由がわかる。
このアルバムは新録ベストとしてはいいが、'Lover'以外オリジナル曲ばかりなのでこれまでのスタンダード集も併せて聴く必要はある。もっともこの先のケントン楽団は再びスタンダード中心になるのだが。
ライヴ盤「バック・トゥ・バルボア」はまたもバンドを再編しケントン自身が購入したダンス会場での収録で、ダンス・バンドとして原点に戻る宣言をしたアルバムだが(ツアー生活から地元に専念したかったという動機もあるだろう)、集客は散々で半年で閉店、負債20万ドルの失敗に終る。アルバムの出来はいいだけに観客の嗜好の変化を痛感する。
「ステージ・ドア~」は再びメンバーを再編、編曲にピート・ルゴロを呼び戻し、マリアーノも呼び戻すと共にジャック・シェルドン(トランペット)、ジミー・ネッパー(トロンボーン)、リッチー・カミューカ(テナーサックス)らフロント陣も増強した。借金があっても意地があった。この強気なのか軟派なのかわからないジャケットがエレガントなケントンらしい。