人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

二十世紀の十大小説(3)

まず、篠田一士「二十世紀の十大小説」をおさらいしよう。

プルースト失われた時を求めて」仏1913-27
ボルヘス「伝奇集」アルゼンチン1941,44
カフカ「城」チェコ1924,26
茅盾「子夜」中1933
ドス・パソス「U.S.A.」1938(30,32,36)
フォークナー「アブサロム、アブサロム!」米1936
ガルシア=マルケス百年の孤独」コロンビア1967
ジョイスユリシーズアイルランド1922
ムジール「特性のない男」オーストリア1931,33,43
島崎藤村「夜明け前」日1932,35

前回筆者は半数は入れ替えたい、と具体的な作品を挙げた。篠田リストで動かないのは、「失われた時を求めて」と「ユリシーズ」、「城」「特性のない男」だろう。フォークナーは「響きと怒り」と「八月の光」という傑作もあるので迷うところだ。
「U.S.A.」にも同等の資格があるが、実験性以外の内実に乏しいきらいがある。ボルヘスマルケスは篠田氏自身が日本への紹介者なので、ベストテン入りするほどの作家ではないと感じる。茅盾と藤村は中国・日本からの選出、という批評家としての義務感を感じないではいられない。ロシア小説が選ばれていない、またトーマス・マンが選外なのも疑問がある。

モームのベストテンは読みやすさ・面白さの点では、「嵐が丘」「白鯨」以外はほぼ穏当なものだった。ロシア小説二冊の「戦争と平和」と「カラマーゾフの兄弟」は大長編だし、19世紀の小説はだいたい上下巻くらいの長さがあるが、物語性に富むので長さにも必然性がある。
モームのリストでこぼれているのは独ロマン派と仏自然主義、また両者の狭間で落ちているのは19世紀末~20世紀初頭の大作家、トマス・ハーディやヘンリー・ジェイムス、ジョセフ・コンラッドだろう。モーム選と篠田選の時代区分では、「テス」も「鳩の翼」も、「ロード・ジム」もこぼれてしまうのだ。

さらに篠田リストではモラリストの小説家が意図的に外されている、との印象が否めない。E.M.フォスターやオルダス・ハックスリ、D.H.ロレンスらがそうだ。「インドへの道」も「ガザに盲いて」も、「息子と恋人」も選外になる。
ヘッセやジイド、ロマン・ロランはともかく、トーマス・マンまでモラリストの作家としたら大変な損失だろう。