人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

二十世紀の十大小説(4)サンプル編

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長い間、私は早く寝床に就き、時には蝋燭を消すとすぐに寝入り、眠るんだなと考える隙すらなかったが、三十分ほどで眠らなければと思いながら目が覚め、まだ手にしているつもりの本を置いて明かりを消そうとするのは、眠りながらもそれまで読んでいた本のことを考えていたのだが、その考えはやや変質しており、私自身が書物の中にいるような気がして、目が覚めてからもしばらくその感覚が続き、それは理性を乱しはしないとはいえ鱗のように目蓋をふさぎ、蝋燭がもう消えていることにすら気づかないのだった。
(「失われた時を求めてマルセル・プルースト)
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Kの到着は深夜だった。村は深い雪に沈んでいた。城山は全く見えず、霧と闇に包まれていた。城の目印になる灯火すらなかった。Kは長い間、国道から村に通じる木橋の上で虚空を見上げていた。
やがて宿屋を探しに出た。宿屋はまだ開いていた。空きは一部屋もないが、宿主は深夜の客に驚き、酒場でよければ藁布団で泊めてあげよう、と言った。Kに異存はなかった。
ところが、うとうとしているとすぐに起された。都会的な服装の、俳優にでも向きそうな青年が宿主と立っていた。青年はKに丁寧に詫びて、城の執事の息子だと名乗り、
「この村は城の所領です。この村の居住者や宿泊者は城に居住し、宿泊するも同然で、伯爵樣の許可証が必要です。ですがあなたはそれをお持ちでないか、提示なさらない」
「私は伯爵樣に呼ばれてきた測量師です」
(「城」フランツ・カフカ)
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大西洋上には低気圧があった。それは東に移動しながらロシアを覆う高気圧へと進んでいたが、これに遮られて北方に転じる兆しはなかった。等温線と等暑線がその責を果していた。気象上の現象は秩序正しく、天体上の運行は天文年鑑と一致していた。古風ながら、これを一言で言うならば、一九一三年八月のある晴れた日だった。
(「特性のない男」ローベルト・ムジール)
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そうよだってあさのしょくじをたまごをふたつつけてベッドのなかでたべたいなんてかれがいったことはホテルにいたころからずっといっぺんだってなかったことなんだものあのころかれはびょうにんみたいなこえをだしてひきこもってるみたいなふりをしてていしゅかんぱくであのばばあにずいぶんとりいっているつもりだったのにあのばばあ…
(「ユリシーズジェイムズ・ジョイス)