人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#9.『エピストロフィー』

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手書き譜ではなく千一(いわゆるスタンダード曲集を指すジャズマン用語)で済ませたが、マイルス作曲の『ソー・ホワット』の発想元は、セロニアス・モンクケニー・クラークが1941年頃共作したという『エピストロフィー』なのではないか、と演奏経験から感じる。従来は『ソー・ホワット』はジョージ・ラッセルギル・エヴァンスらの白人理論派ジャズマンからマイルス・デイヴィスがアイディアを拝借したものとされて、モード奏法による作曲という点では確かにそうだろう。だが、ブルースには通常の七音階とは違う五音階があり(ペンタトニック・スケールと呼ばれる)これは世界各地の民謡音階とも共通して、長調のコードにも、短調のコードにも使用できるばかりか、ドミナント・モーションのどのコードにも同一のペンタトニック・スケールで対応できる、という魔法のような万能音階だ。これはロックのギターソロでも頻繁に使われるし、民謡系演歌(北島三郎の「はるばる来たぜ函館~」というのはペンタトニック・スケールそのもの)もほとんどこの五音階でできている。

これは、ブルース色の濃いジャズマンのアドリブでも頻繁に使われるし、むしろジャズの本流は五音階に長調短調を折衷したものとも言えるのだが、モダン・ジャズというのは、頻繁な代理コードによるコード・チェンジと、コード・チェンジごとに目まぐるしく変わるスケールという、極めて難易度の高いアイディアから始まった。メロディアスというよりは極端にメカニカルで、下手をすればただの音階練習になってしまうというリスクの強いこの手法の最高峰こそがチャーリー・パーカーであり、そのアドリブは通常の意味の情感とは別の次元で多彩で強烈な表現力を持っていた-おそらくジミ・ヘンドリクスだけが黒人音楽の歴史でパーカーに匹敵した。

パーカーの確立した音楽はビ・バップと呼ばれた。だがビ・バップはパーカーひとりが発明したものではなく、ディジー・ガレスピーやモンク、クラークらの、若手黒人ジャズマンたちのジャム・セッションから生まれたものだった。
『エピストロフィー』は、『ソー・ホワット』と同じくAA'BA32小節からなるが2つしかコードがない後者とは対照的に1小節ごとに2つのコード・チェンジがあり難易度自体が問われる。モンクのアルバム(画像2)でも大混乱に陥っている。次回で検討しよう。