人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出35

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・3月20日(土)晴れ
(前回から続く)(注1)
「朝の会が始まる前に二揃え分の洗濯物をコイン・ランドリーにかけておいたので、ちょうど終ったところだった(注2)。先週は乾燥機を使ったがランドリー代200円に乾燥機代200円は高い。せっかく持ってきた角ハンガーなので屋上に干しに行き、ドアを開けて踏み出したとたんにひっくり返る。ブロックで階段が作ってあるのだが、位置も段差も普通の歩幅ではなく、思い切り前のめりに倒れて洗濯物をばらまいてしまう。この病院は…と怒りを鎮めながら洗濯物を干すとちょうど角ハンガーに納まったが(見渡してみると出入口から遠くに女物、近くに男物と分かれているのに気づく(注3)。自然に女性は女性の近く、男は男の近くに干すのだろう)二足ある靴下のうち一枚が見つからない。慌てて洗濯機に戻るが見つからない。洗い忘れかもしれないと、自室のロッカーの衣類入れを探しても見つからない」

「もう一度ランドリーに戻ると、松葉杖のKiさんが洗濯機を使おうとしていたのでもしやと思い、あの、この中に忘れ物ありませんでしたか?ああ、ありましたよ。黒い靴下片方。私の部屋に置いてあります。Kiさんは一旦洗濯機が空か確認して片方だけの靴下を見つけ、自分の部屋に保管してから自分の洗濯を始めるところだったのだろう。さっき見た時なかったのはちょうどKiさんが持ち去った、失礼、保管してくれた、その間だったのだ。どうせなら洗濯機の横にでも置いていてくれれば、大概の人ならそうだろうと思うが、盗難や紛失を想定すればKiさんの方が親切で適切な判断だ。心からお礼を申し上げて、今度は足元に用心して靴下片っぽ干しに行く」

「さてと、Yくんは外来受付(会計)から第二病棟に伝票を持ってきて、第三病棟に処方薬を取りに動いているから見送るタイミングもつかめないし、『不道徳教育』の続きでも読むか、ととりあえず一服して喫煙室を出ると」(注4)
(次回に続く)

(注1)前回は朝会までで一回を費やしてしまった。
(注2)黒いタートル三枚と黒いスリムジーンズ三本。いつも同じ服装なのはキャラ作りの基本だ。
(注3)プロレタリア作家窪川稲子の小説に、オルグの非合法集会で、ヒロインが女物の靴の隣に自分の靴を脱ぐ描写があったのを思い出した。
(注4)この終り方はないだろう、と自分でも思う。