人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記70

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・3月25日(木)雨
(前回から続く)
「Uzさんの残したカレーは平らげたくせに、豆腐の中華あえサラダは食べないとはKくんの偏食にもあきれたものだ。りんごジュースとの交換を求めてこないだけまだしもか、と思いきやトレイを下げて部屋に戻りがけのAtさんが佐伯さんはい、とりんごジュースをトンと置いていく。Uzさんの前にはYzさんからもらった分、こちらにはAtさんからの分とりんごジュースが2本ずつ、あまりにKくんが憐れな表情なので、1本あげるよ。おおサンキュー、と珍しくKくんが礼を言う(注1)。関東とはいえ病院食にはそれほど癖はない。山口生まれの大阪育ちで弁解できる偏食ではない」

「水曜朝は全体会だが、木曜昼食後は環境整備(特別清掃。この病院はやたらとこの手の隠語が多い)であわただしい。普段の掃き掃除だけではなくモップかけや各自寝室、デイルーム、図書館・面会室・脱衣場やランドリー室まで人の手が触れる部分(ベッドの柵とかドアノブとか)をトイレ掃除並みに消毒液を染み込ませた脱脂綿で拭う。患者にここまでやらせる精神病棟は初めてだが、この病院でもそこまでさせるのはアルコール科病棟だけのようだ。名目上では、リハビリテーションの一環ということになっている(注2)」

「掃除が終るとすぐに午後の学習プログラムで、今日の勉強会はグループ・ミーティング。一服してトイレを済ますとギリギリだ。新人(Mtさん、Msさん、車椅子で第三病棟から院内通院のKwさん)が加わったのでAグループからBグループへとFさん・Mさんが昇進。終了後部屋に戻り午前中までの日記をつけていると、昨日に続いてAtさんがまたヤクルトの5本パックから1本くれる。それからまたレーズン入りスティックパン、今日は2本。お礼を言いながら、昼食のりんごジュースといいおやつのおすそ分けといい、おれ何かしたかな、と思う(注3)」(続く)

(注1)Uzさんの呆れ顔が可笑しかった。彼女自身はいただきものなので仕方なく渋々りんごジュース2本を飲んでいた。
(注2)第二病棟でも一般精神科患者は清掃義務免除が建前だったが、アルコール科患者と相部屋では掃除を拒否できようがない。Kくんも文句を言いながらやっていた。
(注3)学習発表の手伝いをすることになったAtさんは2年後の2012年8月11日逝去・享年58歳だった。