人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

坂本遼自選小詩集(昭35年)2

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『時雨』(二回分載)

圭よ たっしゃか。
よんべ あぜをあるいとったらほたるがいっぴきおった。
わしはてのひらをはわした。
おみいはねぶかをちみきってきて あなのなかへほたるをはいこました。
ねぶかのなかのあおいひをみて神戸のおっさんや というとったど。
お前が夏こんなことをしておったのをおもいだしてわしはむねが一ぱいになった。
*
圭よ わしはおみいにはようようあいそうがついてしもうた。
よんべ ねやのなかで なんやごそごそするとおもうてじっと目をつぶってかんがえとったらねしょうべんをしとるのや。
わしのきもののすそをそろそろひきだしてじぶんのせなかにあてて ぬれたふとんのうえにはしりをあてて しらんふりをしてねてしまうのや。
じぶんのからだのぬくみで朝までにかわかしてしまおうとおもうとるねや。
九つかそこらで こないひねくれてどうなるど
おまえはえんもゆかりもないこんな子をあずかってきてなんでとしのよったわしにくろうさすのど。
この子についてのくろうは一つや二つではないのやど。
*
うれしいことには女の先生にとまってもらうことになった。
としは十九や。
よんべ おそうまでいろいろはなしした
いっしょにねてもろうた。
とけいが一じをうったときに
「一じがぽーんとなった」
とわしはねごとをいうたそうや。
けさ そういうて先生はわらいこけてやった。
もうきりの葉がおちてもうてさびしいとおもうとるのににぎやかになってうれしいことや。花がさいたようや。
*
柿をうってしもうた。うらのしらかべのほうをみるとさびしうなった。
先生はかきをおくってあげなさいといわれるが おまえにはぜにのほうがよいやろとおもうからぜにをおくる。
米がのうなった。それで早稲を一たんかった。なりがわるうてしょうがない。
先生が肩をひねってくれてやった。
わしがたんぼへでているあいだ めしごしらえをしてくれてやった。
こんなよい人はない
おまえといっしょにしたらどれほどよいやろかとおもう。
*
あしたしばいがある
ながいあいだあおぞらつづきであったのやからあしたもひよりであればよいがなあ とだれもいうておる

(次回後半分掲載)