人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記73

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・3月25日(木)雨
(前回から続く)
「夕食の主食は辛くないかに蒲麻婆だったが、副菜のじゃがいもと人参の含め煮とほうれん草と千切り人参のおひたしはKくんが食べない。彼は少しでも人参が入っていると食べない(好物のカレーの場合は除けて食べる)ので、彼の分までおいしくいただく。HAには困らされるが13か14品目のアレルゲンは気の毒に思う(三度の食事がいつも山菜うどん、なんていう食生活の患者は彼女の他に知らない)が、彼は二回結婚して離婚しているし、奥さんの連れ子とはいえ子持ちだったこともある。好き嫌いが矯正されるだけの人生経験があったはずだ。それができなかったから離婚したのだ、と思うとようやく少しは赦してあげよう、という気になる。ここの病院食も献立は多彩だし(量は控え目だが)とてもおいしい。偏食ならば不満もあるだろうが、仕方ないことだ」

「だが、彼の完食のアリバイ係をしてあげる見返りが本来彼が摂るべきおかずで(よくこれだけ偏食に育ったものだ。初入院の彼はよく「カルチャー・ショックだぜ」と口にするが、彼がアイデンティティとして事あるごとに強調する『大阪大学工学部博士課程終了』がここでは何の意味もないことで、そうした自負がゆらぎつつあるのが鬱状態にある時にはよくわかる。それはそれとして…)偏食の対象が病院食に出るたび彼にはダイエットになり(毎日コンビニで好物のコッペパンを買い食いしているのだが、彼が完食できる病院食の日でも日課のおやつなのだからそこまで責任は負えない)時には彼はまったくおかずに手をつけずふりかけだけで平らげるので、佐伯くん頼むよ。本人どうしの利益と合意に基づく取引、というとウォルター・ブロック『不道徳教育』の無政府資本主義の定義の孫引きだが、これを当り前のことのように続けていいものか疑問に思えてくる」

「夕食後は、一服する間もあるかないかで7時~8時のAA聴講会。入浴前にYnさんがさーて、今夜は楽しい楽しいお楽しみもありますよ(Atさんはニコニコ)、そうですね、待ち遠しいですねえ。Ynさんはなかなか真面目にシニカルな人だ。内輪の人だけの喫煙室ではどうせここ出たら飲むけどな」とMさんやFさんよりよほど肝がすわっている。たまたま見るとYnさんはミックス食、脱衣場で見ると骨と皮のような体。たぶん胃がないのだ」(続く)