・4月1日(木)晴れ
「昨日はなにしろ慌ただしく、日記も今朝書いた。新聞広告で見た最近のめぼしい新刊―レヴィ=ストロース『神話論理』(みすず書房)、岩波文庫『ゴンクールの日記』、筑摩書房『マラルメ全集』完(第一回配本が87年12月で、全五巻完結まで23年かかったのだ)と、そして!マルカム・ラウリー『火山の下』の新訳(白水社)。どれも学生時代から親しんできたものだ。ラウリーは大江健三郎『「雨の木」を聴く女たち』で知り旧版を読んだから82年・18歳の頃になる。87年のマラルメ全集も全集に先立ち一巻本の『マラルメ・詩と散文』を大学の生協で買い、全集刊行告知のチラシが挟みこんである。今でも帰ればすぐ読めるところに置いてある本だが、それからもう23年…音楽誌情報ではサンハウスのデビュー35周年記念ボックス、村八分の71年発掘ライヴ。退院したら買おう」
「午前中はDm先生の診察で薬の自己管理(就寝前薬以外)と自助グループへの参加推奨(15日・木曜の断酒会、同行者はMさんとYzさん)、心電図(Mさん・Atさんの三人)。MさんもDm先生が主治医で、28日退院が決まる。午後は毎週木曜恒例の環境整備とモップかけの大掃除をし、班分けしてグループワーク。予定通りに行けば今日はそういう日だ―朝食の席でKくんが、今日はエイプリル・フールだな。そうだね。このテーブルは散歩仲間なので全員のお膳が揃ってから、いただきます、と食べ始める。こうやって皆さんと朝食をとるのも今日が最後です、としんみりと切りだす。えっ?とTkさん。UzさんやKdさんはきょとんとしている。突然退院が決定しました、自分でも心の整理がついていない状態です。なにしろ昨日の今日ですから、入院の成果を退院後の生活に活かせるかどうか」
「何かあったんですか、どうして、なんで?と向かいの女性たちは騒然とし、Kくんまでが呆然としているので、エイプリル・フールですよ、まだ入院して一か月、退院は二か月先でしょう、こんなに早く出られるわけないじゃないですか。Kdさんは呆れ顔、Uzさんは怒り目、Tkさんは器の蓋を開けながら、だまされた自分が悔しい。佐伯くん、ブラック・ジョークったってキツすぎるぜ。すぐ明かしたじゃないか、それにエイプリル・フールって前振りしたのはきみだろ。おいおい、おれのせいかよ、とKくん」(続く)