人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記153

イメージ 1

・4月6日(火)晴れ
(前回から続く)
集団療法室に行くといつものメンバーが顔を揃えていた。例によって他に入院患者で外来ミーティングへの参加者はいない。だからこそ気分転換になるという気がする。この人たちもアルコール依存症とはいえ通院者で、外の空気を吸っている人たちだ。ソバージュ女性が、来たわね、と招くので空席を一つおいて彼女の隣に座った。いつも中央テーブル周りの全部の席の半数にも達しない出席者しかいないので、すぐ隣に座るのは親密すぎて見えるからだ。あと二人ほど来て定刻から五分程度まわったところで、外来ミーティングが始まった」

「まずは自己紹介と近況から時計まわりに述べていくのが恒例になっている。ソバージュ女性(渡辺さん)は退院57日目でもうすぐ二か月になるが、指や体の震えがおこるという。他にも断酒六か月目だが無気力でひきこもり気味という人がいる反面、ようやく春になって身も心も軽いという人もいた。入院患者の自己紹介は簡単で済む。入院中ですの一言でわかってもらえるからだ。つまり出席者は全員入院経験者だからだ。入院して一か月を過ぎたところです。これで通じる」

「今回のテーマを決めることになり、思い切って自分から提案してみる。実際、入院経験者で断酒中の人たちから聞いてみたいことでもあった。断酒によって心や体の状態はどう変化したか。司会の看護婦は手際がよかった。では今回のテーマは『(断酒について)自分と向きあう』」とします。もっと具体的に、提案したままの議題でやってもらいたかったが、やや抽象化したほうが話しやすいという考えなのだろう。断酒後も飲酒欲求が強くて苦しんでいる人もいれば、飲酒欲求をほとんど感じないという人もいた。今回もやはり渡辺さんの話がいちばん実感がこもっていた」

「会がはねて、彼女がテーブルにのせたラークの箱を手に取ったので顔を見あわせて、一服していきましょうか、となった。彼女自身話し相手を求めている様子がわかった。駐車場前の喫煙所のベンチは傾いていて座りづらい。煙草二本分をゆっくり喫いながら立ち話をした。渡辺さんは診察と第二デイケアの通院者で、そろそろこちらは病棟の、彼女はデイケアの昼食に戻らなければならない。立ち話で、これまでの外来ミーティングでは語らなかった以外のおおまかな病歴も教えてくれた」(続く)