人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記201

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(人名はすべて仮名です)
・4月25日(月)晴れ
「降谷さんはわれわれのテーブルから注目されていると気づくと俄然行動がエスカレートしてきたようだった。つまりこちらのテーブルの様子にも関心を持ったようで、昨夜も突然会話に割り込んできて謎の発言を残して去って行ったが、今朝もそうだ。滝口さんが、入院生活と家庭では違う、落差があるんですよ、家では私はママだけど、ここでは滝口杏子なんです、と言うと向こうのテーブルからすかさず、私もママよ。そうでしたね。パピヨンのミミちゃん!という具合でわけがわからない」

「朝食後も突然歌う踊る、ホワイトボードに何か書いては納得して消す、わけがわからない。たまたま朝の会まで部屋に戻っていた滝口さんが見損ねたのを残念がる。勝浦くんと清水くんが言ってた第一病棟の田中くんて、こういう感じだったんじゃないか?うむ、佐伯くん良く覚えているな。だから勝浦くんはあの人は本当に躁鬱かと疑っているんだな。佐伯くんは本当のところ、どう思う?うん、おれの知っている躁鬱であんな病状の人は見たことはないな」

「やはりあの女(羽田有紗)と同じか?おれたちは医者じゃないんだから、他人の病気を忖度するもんじゃないよ。羽田みたいに不快でもないしな、と勝浦くん。これには少し苦笑した。降谷さんと同じ奇行を羽田有紗がしたら、勝浦くんは不愉快きわまりないと羽田にケンカを売りに行くだろうからだ。羽田も降谷さんも演技型パーソナリティ障害はありそうだよな、と勝浦くん。実は新書新刊の『パーソナリティ障害』は元々勝浦くんに外出の買い物ついでに本屋であったら買ってきて、と頼んだのだが、勝浦くんが気に入ってしまい彼の本になってしまったのだ。だろうね、現れ方はだいぶ違うが。とにかくおれや佐伯くんが躁鬱なのはいいが、あの女が同じ躁鬱とは思えん」

「午前中にアルコール科は酒歴発表(と聴講)のプログラムがあったが、降谷さんは一般精神科で、わざわざ朝の会の後うちのテーブルに、これから出かけて四時に戻る、と報告しにくる。梅崎さんがラブホ?と訊きかけたのでみんな慌てて、行ってらっしゃーい、とごまかす。家に服取りに行くの、とごく普通のことを言うので、かえって肩すかしをくらう。ともあれ急にこのテーブル組に親近感を抱いたらしいのは確かだ」
(続く)