人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(12)

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ムーミンパパはさりげなくムーミン、その実は偽ムーミンを迎えましたが、ついつい息子のために椅子を引いてしまうという卑屈な行為をしてしまい、自分から屈辱感を招いてしまいました。ムーミン谷の慣習ではムーミン谷のムーミン族は家長または世帯主の逝去を待たずに、長子誕生と同時に家長の座を親から子へと譲るのです。もっともあまりに幼い頃は実質的には後見人の権威がありますが、一人前の口をきくようになれば法は家長の味方です。ムーミンは同期にコウノトリが運んできた子供たちの中でも知能の発達はひときわトロい児童でしたが、ムーミンパパはおそらく自分でも知らずに、ムーミンとは違う偽ムーミンの狡猾なオーラを感知してしまったのでしょう。
畜生、私なんか孤児院の前に捨てられてたんだぞ!
そのひと言でスノークとフローレン兄妹もぎょっとムーミンパパを見つめ、ヘムレンさんとジャコウネズミ博士もムーミンパパを分析的に見つめ、双子で夫婦のトフスランとビフスランもミッチーとよしりんのように見つめ、ヘムル署長とスティンキーも犯罪の気配にわくわくしながら見つめ、ミムラとミイも35人の兄弟姉妹集団で見つめ、孤高を誇るスナフキンでさえもうニョロニョロの消えたテーブルでびくびくしながら顔を伏せました。もちろん、ここにいない人もです。
あらパパ、どうしたというんです?とムーミンママがにこやかに、テーブルの裏では持参した凶器のフライパンの柄を再び握りしめてたしなめました。先のムーミンパパの台詞はムーミン生誕以来ことあるごとにパパがぼやいてきた愚痴だったからです。
それがどうした、とはつまりこういうことです。コウノトリが飛来してくるシーズンは決まっており、ムーミン族の発情期も決まっているから、同数のムーミン族の臨月の家庭に同数のコウノトリが飛来するのが自然の摂理ですが、たとえば思いもよらぬ不幸でその条件が失われるとベビームーミンの届け先がなくなるので、やむを得ず孤児院の門前に置いてくるコウノトリもいる。孤児院も捨て子入れのダンボールを用意し、一週間くらいは引き取り手が現れるように、
ムーミン差し上げ枡
の札を添えておく。でも臨月のムーミン家庭はどこも赤ん坊を受け取っているので無駄なのです。この傷ましくもどうしようもない生い立ちがムーミンパパをエキセントリックなムーミンに育て上げました。