人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Walter Wegmuller " TAROT "

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The Cosmic Jokers/Walter Wegmuller " TAROT "(Full-Album/West Germany,1972)
https://www.youtube.com/watch?v=uv1qh1YFWJc&feature=youtube_gdata_player
(A)0.Der Narr/1.Der Magier/2.Die Hohepriesterin/3.Die Herrscherin/4.Der Herrscher/5.Der Hohepriester
(B)1.Die Entscheidung/2.Der Wagen/3.Die Gerechtigkeit/4.Der Weise/5.Das Glucksrad/6.Die Kraft
(C)1.Die Prufung/2.Der Tod/3.Die Mussigkeit/4.Der Teufel/5.Die Zerstorung
(D)1.Die Sterne/2.Der Mond/3.Die Sonne/4.Das Gericht/5.Die Welt
Walter Wegmulker-Words,Narration & Vocal
& The Cosmic Jokers
Jerry Berkers-Bass,Acoustic Guitar,Vocal
Jurgen Dollase-Piano, Organ
Hartmut Enke-Bass
Manuel Gottsching-Electric Guitar
Harald Grosskopf-Drums
Klaus Schulze-Organ,Synthesizers
Walter Westrupp-Acoustic Guitar,Vocal
Produced by Rolf-Ulrich Kaiser
Engineerd by Dieter Dierks

この二枚組CDは元々LPでも二枚組だったもので、1970年から75年にかけて当時の西ドイツにオール(Ohr)、ピルツ(Pilz)、コズミッシュ(Kosmische)というアンダーグラウンド・ロックの専門インディーズ・レーベルがあった。いずれも主宰はロルフ・ウルリッヒ・カイザーという人で、録音エンジニアはディーダー・ダークスやコニー・プランクだった。後にダークスはメタル系の、プランクテクノ系の大プロデューサーになるが、彼らは世界最高水準のレコーディング・エンジニアの仕事をアンダーグラウンドのインディーズ・レーベルで培っていたことになる。
オールとピルツはともにアシッド・ロックのレーベルだったが、性格はやや異なりおおむねオールはヘヴィ・ロック、ピルツはアコースティック・ロックのバンドに分けられていた。両者を統合したのがコズミッシュで、複数のバンドからの選抜メンバーでザ・コズミック・ジョーカーズという臨時編成バンドが企画され、10枚近いアルバムが残されている。これはオールから71年にデビューしたアシュ・ラ・テンペルでは毎回のことで、アシュ・ラ・テンペルはギタリストのマニュエル・ゴッチング以外、アシュ・ラと改名してカイザーから独立するまで一作ごとにメンバーを変えている。コズミック・セッションの多くはゴッチングと、アシュ・ラ・テンペル出身のヘルムート・エンケ、元ドラマーのクラウス・シュルツェが参加している。

ヴァルター・ウェグミュラー『タロット』は数あるコズミック・ジョーカーズ作品でも最大のもので、まず二枚組はこれしかない。その上メンバーがアシュ・ラ・テンペルのオリジナル・メンバー三人(ゴッチング、エンケ、シュルツェ)にワレンシュタインのオリジナル・メンバーからも三人(ベーカーズ、ドラゼ、グロスコップ)、アシッド・フォーク・デュオのウィットザー&ウェストラップのウェストラップで、アルバム冒頭曲はジャーン!という感じでメンバー紹介から始まるが、わースゲー豪華と普通の人は誰も感動しない豪華メンバーなのが何というか、凄い。
さらに同年にティモシー・リアリーアシュ・ラ・テンペル名義で発売されたアシュ・ラ・テンペルの第三作『セヴン・アップ』と同様に、ウェグミュラーはミュージシャンではない。リアリーは当時国際的に知られたLSD服用の提唱者だったが、ウェグミュラーはスイスのヒッピー世代のタロット研究者で、このアルバムは参加ミュージシャンのブロマイドとウェグミュラーが五年をかけて制作したオリジナル・タロットカードが同梱されている(CDではブックレットとデジパックに印刷)。ウェグミュラーのタロットカードにレコードがついてくる、といった方がいいかもしれない。
だがこのアルバムは一作で当時のドイツのロックの作品傾向すべてを示していると言ってよく、二枚組アルバムに盛り込まれた曲はどれもセッションの即興性と完成度をともに備えた、聴き応えのある、繰り返し聴いて飽きないものになっている。メンバーやアルバムの性格も含めて、この時代のドイツのロックを代表する一作だろう。リーダーがミュージシャンではないのでなかなか手が出しにくいアルバムなのだが、アシュ・ラ・テンペルクラウス・シュルツェ、ワレンシュタイン、またカンやグル・グルファウストタンジェリン・ドリームら同時代のドイツのグループ、『狂気』以前のピンク・フロイド、ゴングやエルドンらフランスのアシッド・ロックを愛聴している方には文句なくお薦めできる。なんか日本全国で300人くらいしかいない気もするが。