人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(40)

 ……近隣の農夫の一人はかつてその宝を見た。その農夫は草の中に兎の脛骨の落ちているのを見つけた。取り上げてみると穴が空いている。その穴を覗いて見ると、地下に山積してある黄金が見えた。そこで、急いで家へ鋤を取りに帰ったが、また砦へ来てみると、今度はどうしてもさっきそれを見た場所を見つける事が出来なかった。
 ムーミンパパは黙りこみました。それで終わり?ん、そうだが。それじゃオチがないじゃん、と偽ムーミンは思いましたが、大人(スノークが大人と呼べればですが)の話に口を挟むとロクなことにならないのでここはおとなしく様子を見ることにしました。
 スノークは2回にまたがったムーミンパパの長広舌にだんだんぼんやりしてしまいましたが、偽ムーミンの明らかに不満げな表情からするとどうやら尻切れとんぼな話だったに違いない、くらいには見当をつけ、
・それは意味深ですな……
 と額に手をあてました。動物学的には前肢を、と言うべきですが、ムーミン谷の住民は多くは二足歩行しており、あるいは、二足歩行の事実をもって住民である資格を認知されており、どちらにしても彼らはトロールですから手でも前肢でもどうでもいいのです。とにかく「意味深ですな」というのはムーミン谷社会の知識階級では「それは興味深い」や「たいへん貴重なご意見」同様「だからどうした?」という意味でした。または「それが何だ?」でもかまいません。ムーミン谷のように高度な知的レヴェルに到達した社会では言葉は、
・文字通りの賛意表明、もあれば、
・適当な相づち、の場合もあり、
・まったくの反語、の場合もあるのです。これはその社会が不信と責任回避から成り立っていることを示すもので、デカダンスすら追い越した状態といえて、本質的に腐敗が人間性に浸透するとこうなるのですが、トロールには人間性はないので責められるいわれもないのです。
 なるほど、とライナスはヒントをつかんだように思いました。なあリラン、とライナスは立ち上がると、『ウィリアム・ウィルソン』は教科書で読んだよね。二人の男が殺し合い、じつは相手は自分自身だったって話さ。
 ライナス、何を言いたいんだい、とリランは驚いて着替える手が止まりました。訊くまでもないことにリランは全身を身構えました。
 つまりさ、とライナス、ぼくらかのどちらかが死ぬとこの世界はどうなるか、試してみる価値があるんじゃないかってことさ。
 第四章完。