人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(41)

 第五章。
 やれやれ待たされたよ、とチャーリー・ブラウンはため息をつきました、ようやく主役のぼくたちの出番だ。
 主役って?と、スヌーピーが歯をむき出します。これはスヌーピーが相手をせせら笑う時特有のジェスチャーでしたが、チャーリーはあえてそれには気づかないそぶりで、途中のままの話があるよね、と言いました。スヌーピーは黙って右前肢を差し出しました。チャーリーは黙って握手しました。するとスヌーピーは左前肢をその上に重ねました。チャーリーはつられて左手を乗せました。スヌーピーは引き抜いた右前肢を上に重ねました。チャーリーは仕方なく同じようにしました。スヌーピーは引き抜いた左前肢を上に重ねました。チャーリーは言葉を飲み込んでスヌーピーを真似ました。
 スヌーピーは右前肢を引き抜いてその上に重ねました。チャーリーは黙って同じようにしました。スヌーピーは左前肢を引き抜いてその上に重ねました。チャーリーは我慢して同じようにしました。スヌーピーは右前肢を引き抜いてその上に重ねました。チャーリーはむきになってスヌーピーを真似ました。スヌーピーは左前肢を引き抜いてその上に重ねました。チャーリーは仕方なくスヌーピーを真似ました。
 一瞬ふたりの目が合いました。チャーリーは何か言いかけようとしましたが、適切な言葉が見つかりません。
 スヌーピーはためらわず右前肢を重ねました。チャーリーは困惑してスヌーピーを真似ました。。スヌーピーは左前肢を引き抜いてその上に重ねました。チャーリーはやけになって同じようにしました。スヌーピーは右前肢を引き抜いてその上に重ねました。チャーリーは困憊して同じようにしました。スヌーピーは左後肢をぐいっととチャーリーの手の甲に乗せました。チャーリーはハッとして左手を重ねました。スヌーピーはよっこらしょと右後肢をその上に乗せ、チャーリーの両手に支えられて宙に立ちました。痛ててててっ、重い重い!
 チャーリーが手を離したのでスヌーピーはすかさずチャーリーの胸に飛び込むと、両前肢でチャーリーに抱きつきました。あまりに素早く強く抱きつかれたので、チャーリーは抵抗するすべもありませんでした。遠目からなら彼らの闘争は、人畜無害な少年とその愛犬の戯れのように見えたでしょう。ついでに、とこのふざけた犬は少年の頬を舐め、げー、という表情をしました。チャーリーの心は傷つきました。