人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Hawkwind - Hawkwind (Liberty, 1970)

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Hawkwind?-?Hawkwind?(Liberty,?1970)?Full?Album?:?http://youtu.be/D5BEHD8VzIU
Recorded?at?Trident?Studios,?London,?March?and?April?1970.?Produced?with?Dick?Taylor.
Released?14?August,?1970,Liberty?LBS83348
(Side?A)
A1.?"Hurry?on?Sundown"?(Brock/Hawkwind)?4:50
A2.?"The?Reason?Is?"?(Brock/Hawkwind)?3:30
A3.?"Be?Yourself"?(Brock/Hawkwind)?8:09
A4.?"Paranoia-Part?1"?(Brock/Hawkwind)?1:04
(Side?B)
A1.?"Paranoia-Part?2"?(Brock/Hawkwind)?4:11
A2.?"Seeing?It?as?You?Really?Are"?(Brock/Hawkwind)?10:43
A3.?"Mirror?of?Illusion"?(Brock/Hawkwind)?7:08
[Personnel]
Dave?Brock?-?vocals,?guitar,?keyboards,?harmonica
Nik?Turner?-?saxophone,?flute,?vocals,?credited?as?Nick?Turner?on?the?original?release
Huw?Lloyd-Langton?-?guitar,?vocals?(original?album),?credited?as?Huw?Lloyd?on?the?original?release
John?A.?Harrison?-?bass?guitar,?vocals
Dik?Mik?(Michael?Davies)?-?Synthesizer,?credited?as?Dikmik?on?the?original?release
Terry?Ollis?-?drums

 処女作にすべてがあるとはよく言われるが、スコーピオンズの『ロンサム・クロウ』1972やUFOの初期2枚などは事実上別バンドというか、前身バンドと言うべきだろう。ホークウィンドはピンク・フロイドグレイトフル・デッドの中間にいるバンドだが(過去形ではない。今なお現役なのだから)、フロイドとデッドもその後の作風の始まりになったのはセカンド・アルバムからだった。フロイドの知性とデッドの繊細さを抜いてMC5由来の狂暴性を注入するとアモン・デュールIIになり、この2バンドからもホークウィンドは直接的な影響を受けている。MC5とアモン・デュールIIはデビュー作でいきなり30年は時代を先取りしたボーダーレス型ヘヴィ・ロックの大傑作をものしてしまったバンドだった。本人たちもよくわかっていなかったに違いない。
 ホークウィンドの場合、デビュー作の位置づけが多少ややこしくなる。ピンク・フロイドグレイトフル・デッドの影響を受けたサイケデリック・バンドはドイツに早くから現れ、イギリスではサイケデリック・ロックの装飾性が時代的スタイルとして取り入れられるばかりで、ポップ/サブカルチャーではあってもカウンター・カルチャーとしての積極性はなかった。フロイドですらデビュー作ではそこが曖昧だったのだが、ホークウィンドは最初からアウトローとしての覚悟が決まっていた。その意味ではこのデビュー作は十分な仕上がりなのだが、オリジナリティの確立ではまだフロイドやデッド、MC5やアモン・デュールIIの音楽からの借り物から完全に出ていない。

 ホークウィンドが作風を確立するのはベースがデイヴ・アンダーソンに代わった次作『宇宙の探求』1971で、早くもリードギターのロイド=ラントンが抜けてシンセサイザーのデル・デトマーが加わっており、第3作『ドレミファソラシド』1972でベースにレミー、ドラムスにサイモン・キングという最強ラインナップが揃い、伝説的ライヴ・アルバム『宇宙の祭典』1973が作られる。サンディ・パールマンによるブルー・オイスター・カルトのプロデュース(72年1月デビュー)はドアーズとブラック・サバスをモデルにしたものと言われるが、それよりもホークウィンドから範を取った部分が大きいのではないか。BOCは後発バンドだけに初期スタジオ盤三部作も4作目の集大成ライヴ・アルバムもホークウィンド以上によく練られ、完成度の高い作品だった。
 ヒュー・ロイド=ラントンは『宇宙の探求』から『絶体絶命』1975に至るホークウィンド黄金時代にはバンドから離れていたのだが、低迷期のホークウィンド起死回生の1作『ライヴ79』1980(UKチャート15位)で復帰して以降は1988年の『未知なる写本』(UK79位)までバンドを支え続けた。ロイド=ラントン在籍時の80年代のアルバムはほぼUKチャート20位台を記録しており、70年代のスペイシーなサウンドよりソリッドなギター・サウンドが80年代ホークウィンドの特徴だった。

 このデビュー・アルバムは一応40分近い収録時間があるのだが、聴き始めるとあっという間に終わってしまう印象がある。ヴォーカル曲らしいヴォーカル曲が冒頭の『ハリー・オン・サンダウン』と末尾の『ミラー・オブ・イリュージョン』の2曲しかなく、この2曲に挟まれた『ザ・リーズン・イズ』『ビー・ユアセルフ』『パラノイア・パート1』『パラノイア・パート2』『シーイング・イット・アズ・ユー・リアリー・アー』はすべてインスト曲か、ヴォーカル・パートが入ってもうめき声か曲名の連呼くらいしかない。『ザ・リーズン・イズ』も『ビー・ユアセルフ』につながる長い導入部と見れば併せて1曲で、『パラノイア』はLPのA面とB面にまたがっているからパート1と2に分かれているので実質1曲だがそれも次曲『シーイング・イット・アズ・ユー・リアリー・アー』とのメドレーになる。
 つまりこのアルバムは実質的にA面に『ハリー・オン・サンダウン』『ザ・リーズン・イズ~ビー・ユアセルフ』、B面に『パラノイア~シーイング・イット・アズ・ユー・リアリー・アー』『ミラー・オブ・イリュージョン』の4パートにしか分かれていない。実際に当時のラジオ用ライヴを聴くと(アルバム『The?Text?of?Festival』1983、2LP)、メドレーによる1曲扱いで『ザ・リーズン・イズ~ビー・ユアセルフ』と『パラノイア~シーイング・イット・アズ・ユー・リアリー・アー』が演奏されている。まるでプログレッシヴ・ロックのバンドみたいだが、ホークウィンドの場合は凝った組曲構成でも何でもない。『ザ・リーズン・イズ』も『パラノイア』もドローン(通奏低音)による長いイントロ用ジャムセッション曲で、デビュー・アルバムからの曲は第3作『ドレミファソラシド』発表後にはライヴ・レパートリーからは21世紀になるまで再演されることはなかったが、『パラノイア』は一応単独曲としても72年初頭まで演奏されている。

 つまりこのデビュー・アルバムでヴォーカル曲と言えるのは冒頭の『ハリー・オン・サンダウン』と末尾の『ミラー・オブ・イリュージョン』だけ(どちらも名曲だが)なので、収録曲全曲がリーダーのデイヴ・ブロックを中心としたメンバー全員の共作なのだが、要するにデビュー当時のホークウィンドにはブラック・サバスならジーザー・バトラーのような作詞に長けたメンバーがいなかった。
 グレイトフル・デッドのように専属作詞家をブレインにかかえる方法もあるが、ホークウィンドは美術家のバーニー・バブルスやSF作家のマイケル・ムアコック、詩人のロバート・カルヴァートやダンサーのステーシアらとともにバンドのイメージを煮詰め、SFとオカルトをバンドの2本柱に作詞のテーマを絞り込んだ。その上、ライヴ・パフォーマンスではムアコックやカルヴァートによるポエトリー・リーディングを曲の導入部に組み込むようになり、70年代後期にはカルヴァートは正式メンバーとしてリード・ヴォーカルを担当するまでになる。
 セカンド・アルバム以降も大半の曲はブロック、またはターナー自身が自作曲に作詞しているが、それはデビュー作発表後にホークウィンドが前述のようなクリエイティヴな注目を集めたからで、『宇宙の探求』での急速なスタイル確立はアモン・デュールIIからアンダーソンが持ち込んだ刺激もあったが、バンド自身に潜在的に潜んでいた可能性だった。『シーイング・イット・アズ・ユー・リアリー・アー』などは『宇宙の祭典』までにホークウィンドが発展させたアイディアをすでに内包させており、この曲はロイド=ラントンのリード・ギターが冴えた曲でもある。ただしロイド=ラントンの本領はバンド復帰後の『ライヴ79』1980や『ライヴ・クロニクル』1986などのライヴ・パフォーマンスにあるだろう。ブリティッシュ・ロックの名ギタリストにロイド=ラントンの名が上がることはまずないがホークウィンドのイメージからは想像できないテクニカルで理知的なソロイストであり、知る人ぞ知る名手と言える。だがそれゆえにニック・ターナー在籍時のホークウィンドからはデビュー作1枚きりで離れたのだろう。
 また、このファースト・アルバムは元プリティ・シングスのギタリスト、ディック・テイラーがプロデューサーに転向して手がけた第1作でもあった。テイラーのプロデュース手腕が優秀だったのは別人によるデモ・テープと比較するとよくわかる。

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 (?"Hawkwind"?Remaster?CD?Liner?Sleeve?)
 現在このファースト・アルバムを聴くには、ご紹介したオリジナル・アルバムのリンクだけではなく、ボーナス・トラックを増補したリマスター盤をお勧めしたい。ホークウィンド正式デビュー前のデモ録音が聴け、とりわけピンク・フロイドのカヴァー『シンバライン』(日本でも人気があり、四人囃子やだるま食堂のカヴァーがある)と、ホークウィンドらしからぬ未発表曲『キッス・オブ・ザ・ヴェルヴェット・ホウィップ』が面白い。
*Bonus?tracks?on?1996?Remasters?CD
add.1.?"Bring?It?On?Home"?(Willie?Dixon)?3:18
add.2.?"Hurry?on?Sundown"?(Hawkwind?Zoo?demo)?(Brock)?5:06
add.3.?"Kiss?of?the?Velvet?Whip"?[aka?"Sweet?Mistress?of?Pain"]?(Brock)?5:28
add.4.?"Cymbaline"?(Roger?Waters)?4:04
*"Bring?It?On?Home"?was?recorded?pre-Hawkwind?by?Dave?Brock.
*The?other?bonus?tracks?were?recorded?by?Hawkwind?Zoo?at?Abbey?Road?Studios?1969,?produced?with?Don?Poole.