人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(80・最終回)

 仔犬を飼っていいよ、とお父さんが言いました。えっ、本当にいいの!とライラは椅子から立ち上がりました。本当だよ、お母さんに訊いてごらん。ライラはすぐに台所に行こうとしましたが、ちょうどお母さんがお料理を運んできたところでした。お母さん、ねえとライラが言いかけると、お母さんはお父さんとライラの会話が聞こえていたらしく、いいわよ、と答えてにっこりしました。
 仔犬を飼ってもいいかどうかは、ライラには小学生になる前からの願いごとでした。幼稚園に通っていた時も仔犬を飼っている同級生がいて、ライラはうらやましくて仕方がありませんでした。その仔犬は道ばたに箱に入れられて捨てられていたのを、男の子に拾われてきたのです。はじめは家の中でうんちをする、お母さんのお気に入りドレスを食いちぎるなどかなりお行儀が悪い仔犬だったそうですが、ライラたちが知る頃には気弱ながらもかなり利口な仔犬になっていました。その頃には仔犬の方が男の子に苦労していたようですが、それでも飼い主の男の子は誰よりも大好きな様子で、お休みの日にライラが公園で男の子たちを見かけることがあると、仔犬はとても嬉しそうにボールを追いかけたりしていました。
 またこの仔犬はしっかり者で、散歩に連れて行ってもらえないとひとりで散歩に行ったり、エサをもらえないと商店街で一芸を披露して通行人に食べ物をもらったり、男の子やお母さんの代わりにおもちゃを片づけたり、洗濯物を取込んでくれたり、オクラの水やりをサボった男の子の代わりに水やりや虫や雨を防いだり陽の当たる場所に出したりして見事に育て上げたり、男の子の代わりにお使いに行ってちゃんとお買い物をしてきたり、お家の赤ちゃんのお世話をするなど人間なみの行動力がありました。また捨て犬や病気の捨て猫の面倒を見たり、猫が死んだ時は怒りのあまり元飼い主に吠えかかったり、自分とそっくりな犬を亡くした病弱な女性を慰めるという優しさも持ちあわせていて、自分をいじめたのら犬やのら猫とも仲良くなれました。
 その一面その仔犬は、かわいいメス犬を見つけるとナンパをしたり鼻の下を伸ばしたり、勝手に一人で散歩に出かけたり、家じゅうが慌てている時でも外でのんびり昼寝をするなど、マイペースな一面もありました。
 ……飼えるかい?うん、もう名前も決めてあるの、とライラは言いました。でもまだ誰にも言わないの。だれにも。
 おしまい。