人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Can - Landed (EMI-Electro Horzu/Virgin, 1975)

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Can - Landed (EMI-Electro Horzu/Virgin, 1975) Full Album
Recorded February-April 1975 at Inner Space Studio
Released; Horzu 1C 062-29600/Virgin V 2041, September 1975
All songs written and composed by Can except the lyrics for "Full Moon on the Highway" and "Half Past One" written by Can and Peter Gilmour.
(Side 1)
1. Full Moon on the Highway : https://youtu.be/4_6co9_sw9o - 3:32
2. Half Past One : https://youtu.be/D5buQT7b_Jc - 4:39
3. Hunters and Collectors : https://youtu.be/uyNt8TPF7I8 - 4:19
4. Vernal Equinox : https://youtu.be/0Hx_Cv5NveA - 8:48
(Side 2)
1. Red Hot Indians : https://youtu.be/HfBTV3ZFFyY - 5:38
2. Unfinished : https://youtu.be/9QchRNthUTo - 13:21
[ Personnel ]
Holger Czukay - bass, vocals on "Full Moon on the Highway"
Michael Karoli - guitar, violin, lead vocals
Jaki Liebezeit - drums, percussion, winds
Irmin Schmidt - keyboards, Alpha 77, vocals on "Full Moon on the Highway"
and
Olaf Kubler - tenor saxophone on "Red Hot Indians"

 せっかく主要発掘録音まで含めてカンのアルバムを追ってきたのだから最後までやることにする。春先にもホークウィンドの初期10年のアルバム(デビュー作『Hawkwind』1970から『Levitation』1980まで)を、やはり主要発掘音源を含めて2か月くらいかけてご紹介した。ホークウィンドの続きもやりたいのだが、なにしろ膨大な音源がある上にホークウィンドは近作でも作品のレヴェルが下がらないからどのアルバムも落とせない。しかもオフィシャル・ブートレッグまでやたらと多い。カンの残りのオリジナル・アルバムは、
・Landed (1975)
・Flow Motion (1976)
・Saw Delight (1977)
・Out of Reach (1978)
・Can (Inner Space) (1979)
・Rite Time (1989)
 の6作きりで、ライヴ音源もまとまったものがあるがダモ鈴木在籍時のようなハプニング性は控えめになったので(それでもライヴ音源の方がカン本来の大胆さが発揮されているとは思うが、専任リード・ヴォーカル不在の焦点の甘さは否めない)、スタジオ録音盤だけで後期カンの音楽を判断してもいいだろう。上記のうち『Landed』から始まった後期カンは『Can (Inner Space)』で解散し、『Rite Time』で1枚きりの再結成アルバムを初代ヴォーカルのマルコム・ムーニーを迎えて制作した。これが見事なくらい完全にエレ・ポップのロック・アルバムで、『Landed』から『Can (Inner Space)』までの試行錯誤にあった後期カンのどのアルバムよりすっきりした仕上がりの佳作になったのは皮肉なことだった。
? (Original Virgin "Landed" LP Front Cover & Side 1 Label)

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 という印象があるので、『Landed』(邦題は『闇の舞踏会』)からの後期カンを取り上げるのは今回ひととおり聴き返すまであまり気が進まなかった。カンのリスナーは、UA時代のアンダーグラウンドの人気バンドだったカンから聴いていたコアなファンを除くと、イギリスのヴァージン・レーベルに移籍して本格的に国際進出した『Landed』以降にアルバムを手にした人がほとんどだと思われる。だがヴァージンというのはどこかうさんくさく古臭いイメージがあって、結局最初に買ったカンはカンがヴァージンからハーヴェストに移籍した時フランス原盤で出たUA時代(1969-1974)の2LPベスト盤だった。UA時代は『Opener』1976というベスト盤も先に出ていて、『Ege Bamyasi』1972,『Future Days』1973,『Soon Over Babaluma』1974の3枚からの選曲だったが、どちらも中古盤で同じ値段なら1枚物より2枚組を選ぶ。発売されたばかりなのに中古盤がごっそり出ていたのが、今でも基本的ベスト盤としてCD化(収録時間の制限上A2.B4がカット)されているこの2枚組、UA時代の『Monster Movie』1969,『Soundtracks』1970,『Tago Mago』1971に先の3作を加えた全6作から精選(ただし『Monster Movie』優遇、『Future Days』冷遇)されたセルロイド・レーベル(最初から廉価盤で、デッドストックが短期間で投げ売りになったのかもしれない)のこれが、最初に買ったカンのアルバムになる。

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Cannibalism (Celluloid, 1978)
A1. Father Cannot Yell - 7:05
A2. Soul Dessert - 3:46
A3. Soup - 3:03
A4. Mother Sky - 6:41
B1. She Brings The Rain - 4:07
B2. Mushroom - 4:31
B3. One More Night - 5:37
B4. Spray - 2:55
B5. Outside My Door - 4:11
C1. Chain Reaction - 5:38
C2 Halleluwah - 5:39
C3. Aumgn - 7:18
C4. Dizzy Dizzy - 3:30
D1. Yoo Doo Right - 20:20
 全4曲の『Monster Movie』から3曲も選んでいる。A2,B3を加えると在籍期間1年のマルコム・ムーニー時代だけで2枚のうち1枚分になる。次に買ったのは81年の一斉再発で輸入盤が出ていた『Soundtracks』で、『Cannibalism』のA2,B3がダブるなあと思ったが裏ジャケットのうさんくささと激安中古価格で買った。これと『Cannibalism』をくり返し聴いてカンのアルバムには捨て曲なし、ドアーズやヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ジャックス、ある意味レッド・ツェッペリン級のバンドなのがわかった。『Cannibalism』のクレジットで収録曲の初出アルバムは把握した。ところが輸入盤店や中古盤店をまわってもヴァージン移籍後時代のアルバムしかない。『Soundtracks』がこれほどのアルバムなら『Cannibalism』収録のUA時代のアルバムはどれも悪かろうはずはない。
? (Original United Artists "Soundtracks" LP Liner Cover)

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 ヴァージン移籍後のアルバムに手を出しても良かったのだが、その直後にUA時代のアルバムを店頭で発見してもお金がなければ泣く泣く諦めるしかない。ところでUA時代のカンには『Cannibalism』には選曲されていないアルバムが1枚あるのを知った。『Limited Edition』1974というアウトテイク集で、これは2枚組に増補されてヴァージンから『Unlimited Edition』1976として新装再発されたらしい。すると、やはり発売直後なのに中古盤でバッタ値(これももともと廉価盤だったのか)でヴァージン時代のベスト盤を見つけた。裏ジャケットに初出アルバムのクレジットが曲ごとに明記してあり、ヴァージン時代のオリジナル作3作から均等に選ばれているのはこの際オマケと考えて、『Unlimited Edition』から『Limited Edition』収録分がA3,A5,B1,B5と4曲も収録されている。しかもA5,B1はマルコムのヴォーカル曲とあって、12インチ・シングルでも買うような気分(中古価格もそのくらいだった)で買った。実はこのアルバム、ヴァージン時代のベスト盤としても良くできている。これで聴くとヴァージン時代のカンもなかなかじゃないか、と上手い選曲と配置がされている。

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InCANdence (Virgin, 1981)
A1. I Want More - 3:29
A2. Full Moon on the Highway - 3:29
A3. Gomorrah - 5:43
A4. Hunters and Collectors - 4:18
A5. The Empress and the Ukraine King - 4:42
B1. Mother Upduff - 4:29
B2. Call Me - 5:45
B3. Half Past One - 4:36
B4. Laugh Till You Cry...Live Till You Die - 6:36
B5. E.F.S. No.36 - 1:55
*
 中古盤店で何回か見かけたが、先に『Ege Bamyasi』1972(A3B1B2B3)、次に『Soon Over Babaluma』1974(A1,A4)を順次買っていたために、『Future Days』1973(A2,B4)収録の2曲を買うより『Future Days』をじっくり探そう、と結局後々、全部集め終わってから買ったのがこのUA時代後半3枚からのベスト盤。これも選曲・配置が素晴らしい。『Future Days』からはB面の大作「Bel Air」は無理だがこの2曲でアルバムの精髄はわかるし、『Babaluma』からはこの2曲が文句なしにマルコムやダモの不在を4人でこなしきったベスト・トラックだろう。名曲満載の『Bamyasi』からは「One More Night」未収録が残念だが、収録の4曲も名曲ばかりだし「One More~」は『Cannibalism』で聴ける。UA時代のヒット曲「Spoon」は重複しているが、「Dizzy Dizzy」は『Cannibalism』では短縮版で、発売はこちらの方が早いが『Cannibalism』には収録しきれなかったUA時代後半の名曲を補うようなベスト盤になっている(または後発の『Cannibalism』の方が重複を避けたのかもしれない)。『InCANdence』と『Opener』はどちらも丁寧な編集とアートワークだから、ストレートなCDリイシューされてもいいコンピレーション・アルバムだろう。

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Opener (Sunset Records, 1976)
A1. Dizzy Dizzy 5:40
A2. Moonshake 3:02
A3. Sing Swan Song 4:18
A4. Come Sta, La Luna 5:44
B1. Spoon 3:03
B2. I'm So Green 3:03
B3. Vitamin C 3:34
B4. Future Days 9:34
*
?   (Original EMI-Electro Horzu "Landed" LP Liner Cover)

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 この『Landed』はいきなりストレートなハード・ドライヴィングなロック曲で、A面ではギターの音色やフレージングがそれまでのカンのアシッド色を払底して英米ロック的な豪放でもあり、大味でもあるようなものに変わった。B面ではエスニックな1曲目、2曲目ではいかにもジャーマン・ロック然(クラウトロックと言うべきか)で初期タンジェリン・ドリームのようなインダストリアル・ロックをやっているが、75年のタンジェリンといえば移籍第1作『Phaedra』がUK: #15のヒットでヴァージンのトップ・アーティストとなり、続く『Rubycon』1975はさらにUK: #10で1974全米ツアーも成功させており、その時のライヴが『Ricochet』1975になった。レーベルからの要求か、本人たちの意図かわからないが、B2はタンジェリンのドイツ時代の『Zeit』1972や『Atem』1973を連想させる無調・リズムレスのインプロヴィゼーションで、ピンク・フロイドの「A Soucerful of Secrets」1968から発展したものだ。それ自体は悪くはないがカンの方法論ではこれまでは素材レヴェルだったものだろう。
 原因はどうもヴァージン移籍に伴ってバンド所有スタジオの2トラック・レコーダーを16トラック・レコーダーに新調したことにあるらしい。2トラック録音では断片的な録音を選択・編集しながらダビングを重ね、最終形に仕上げるのに凝りに凝った手間がかかった。16トラックあれば録りっぱなしでダビングしていってミキシングだけで事は済む。B2は冒頭に日本語の女性ヴォイスが入る45分のフルレンス・ヴァージョンがアウトテイク集『Outtake Edition』で聴けるが、マルコムやダモ在籍中のセッションはヴォイス・パフォーマンスをしていない時でもヴォーカリストの存在がセッションのテンションを高めていたのが想像される。彼らはいつ割り込んでくるか予測がつかなかったのだ。もっとも16トラック・レコーダーならヴォーカルだけ後から除去もできる。
     (Original Virgin "Landed" LP Liner Cover)

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 このアルバムの新境地といえば、マルコムやダモでは出せなかったカンの流儀のポップな変態ロックを思い切って打ち出したことだろう。ミヒャエルのヴォーカルは専任リード・ヴォーカリストではないだけに、声量をカヴァーするためマイクを舐めるようなぬめぬめした唱法で、後のポスト・パンク/ニューウェイヴのバンド・ヴォーカリストの唱法を思わせるところがある。A2ではミヒャエルのヴァイオリンもメランコリックな曲調を盛り上げており、またA3ではイルミンのキーボードも後のエレクトリック・ポップを思わせるような派手なプレイで前面に出ている。ギターとキーボードがここまで前に出たアルバムは以前のカンにはなく、このアルバムで地味になったわけではないが初期~中期のカンはドラムスとベースだけのインタープレイも多く、ここぞという時だけキーボードが鳴り、ギターもガチャガチャとリズムを刻むか、さもなくばフィードバックさせた白玉を延々鳴らしているかで、いわゆるギターソロ的にフィーチャーされることはほとんどなかった。そのドラムスとベースだけで空間を演出する手法が、パブリック・イメージ・リミテッドやジョイ・ディヴィジョン、JAPANらポスト・パンクのバンドの手法を先取りしており、実際に影響があったとされている。
 だからカンの再評価はUA時代のアルバムに集中しており、現役ミュージシャンも批評家もヴァージン移籍後の後期カンの業績に言及することはめったにないのかだが、変態ポップのA3と、A3をアップテンポにしたインスト・ヴァージョンのA4の茶化したようなキーボードと暴走しすぎのギターソロを聴くと、これはこれでカンの本音のように聴こえてくる。クラウトロックのバンドはかなり密な交流があり、B1でテナーを吹いているオラフ・カブラーはアモン・デュールIIのプロデューサーだが、グル・グルの1998年の3CD『30 Jahre Live』(2014年には『45 Years Live』も出た)には多数のゲストにダモ鈴木とミヒャエル・カローリも参加しており、ダモとミヒャエル参加曲は「Can Guru」名義で(グル・グル1972年のアルバム『Kan Guru』にかけている)脳天気なヘヴィ・サイケ・ジャムをかましており、脳天気でヘヴィとは普通両立しないがグル・グルのリーダー、マニ・ノイマイヤーのドラムスはそうなってしまう。マニさんはカンのヤキよりもジャズ・ドラマー時代の業績は大きいくらい凄腕ドラマーなのだが、超絶テクを極めて笑えるヘヴィ・サイケになってしまった。ライヴ録音なのに全曲フェイド・アウトで終わるいい加減な編集もすごい。たぶん収拾がつかないグダグダになってどの曲も終わっているので、フェイド・アウトするしかないのだ。たぶん『Landed』からのカンはグル・グルに近い感覚のバンドになっていた。そこが前作『Babaluma』とは違う。しかしグル・グルの域に踏み込むには、カンは音楽にはまだシリアスだった。グル・グルの1975年作品は『Mani und seine Freunde(マニと友人たち)』で、ついにオリジナル・メンバーはマニさんだけになって、いよいよ本格的なマニさんの独壇場が始まった頃だった。