アンパンマンが修行僧のようにストイック、または受刑者のような日常生活を送っているのは、パン工場では当たり前のようになっている慣わしでした。しょくぱんまんやカレーパンマンでさえ夕食後にはのんびりし、週末は夜更かしを楽しみ、当然土日祝は休みをとっていたのに、正義超人の中でアンパンマンだけがアダルトサイトも覗かず、エロゲーもせずに精神統一で正義感を高めていたのです。ですがアンパンマン自身は富士山で言えばまだ3合目、観光バスだって普通に登るよりまだ下で、5合目を超えてようやく観光バスを超えます。頭が雲の上に出るのはまだまだなのです。
もちろんアンパンマンは飛行能力がありましたが、それはあとづけみたいなもので、バタコさんが縫ってくれたマントで空を飛べるようになる前からアンパンマンはマントをつけて空を飛んでいたのですが、バタコさんの飛行能力つき特製マントをつけるようになってからはアンパンマンは特製マントの力なしでは飛べなくなってしまいました。マントが破れると、このマントは損傷と同じ度合いで飛行能力も低下するのです。それなら何のしかけもないマントで飛んでた方が良かったろうに、とジャムおじさんですら思いましたが、そんなことをしたらバタコさんの針仕事で復讐をくらうのが恐ろしくて口にはしませんでした。
ジャムおじさんは何がバタコさんを怒らせたか、ズボンを履いたまま前ボタン(ジャムおじさんは肥満しているので、よく飛ぶのです)を縫い直してもらっていたら仮性包茎まで巾着綴じに縫い絞られてしまったつらい思い出があるのです。ひょっとしたらその前日にでも、疲れているからちょっと頼むよと指技でスッキリさせてもらった時に、噴射の勢いのせいで顔射どころか目潰しになってしまったのを恨まれていたのかもしれません。男女のことは本人たち同士でも公平な判断はつかないものですが、ジャムおじさんとバタコさんは男女関係というより労使関係ですから、これを一般の男女関係に置きかえるのは無理があります。
そこでアンパンマンの修行的生活ですが、そもそも富士山などという架空の山を喩え話に出したのが間違っていました。この世界中でいちばん高い山はトースター山を中心とするトースター山山脈で、その向こうにはどんな世界があるか誰も知りませんでした。
トースター山山脈の裏側はおさびし山山脈でした。そこにはあのムーミン谷が広がっていました。