今までカッパたちはアリス(とウサギが呼んでいました)たちには追われて命を狙われ、ロリーナ(という名前は知りませんでしたが)には危機一髪を助けられてきましたが、この2人と同時に出くわしたのは初めてで、そこでようやく3匹もふたりが姉妹らしいと気づいたのでした。世の中に似ていない姉妹は掃いて捨てるほどいますし、他人の空似の可能性もあればアリスとロリーナも容貌だけでは決め手には欠けるでしょう。しかしウサギをぶら下げ現れたアリスとキッと睨みを交わしたロリーナの間には、姉妹とするに十分な容貌の近似以上に近親者以外には働かないような根の深い桎梏が横たわっているように見えました。女は怖いわ、とサルはささやきました、きれいな顔して本性は何考えてるんだかわからんもんなあ。
サルにはそのつもりはありませんでしたが、サルのボヤきは毒グモことドジソン先生の耳にも入ってしまったようでした。ドジソン先生はニヤリと笑うと、君たちだって学んでこなかったわけじゃああるまい、と見透かしたようなことを言いました。
どういうことですか、とカッパ。
イヌはもともと口数は決して少なくはないのですが、何か言おうとすると口達者なカッパやサルに先に言われてしまうのでこの場もさっきからモヤモヤしていましたが、アリスとロリーナ、カッパとサルとドジソン先生が同時ににらみあいの沈黙に踏み込んだ一瞬に一言、客車中に響き渡る声で、
助けて!
と叫びました。
アホやな、助けを呼んだってこの客車にはこの人たちしかおらんのやで、とサル、どうにもならん。カッパもうなずきました。
イヌはかまわず、もう一度、
助けてください!
と言いました。だから、とサル、誰に言っとるんや?僕たちを助けてくれる人は、もうおねえちゃんだって助けてくれんのやで。僕らは逃げ続けるしかないと決まったようなもんや。なあ?とサルは顔を上げると、
最初からこういうことだったんですか?おねえさんたちの一方が追う、一方が逃がす。僕たちはそういうゲームの駒みたいなものだったんでしょう?僕たちが動いていることで何かしらお金も動いているのに違いない。どういう種類のお金かはわからないけれど、どういうゲームなのかは何となくわかる。つまり僕たちが死んだら上がり、そういう種類のえげつないゲームと違いますか?
助けて!とイヌ。
ああバレてた?とウサギがアリスの手から、ひょいと降りました。