人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・改(6)

 ムーミン谷の人びとにはいわゆる思考力はなく、思考と見られるものの実態はバクスター効果に極めて近似していました。バクスター効果(Backster effect)とはアメリカ合衆国の技術者クリーヴ・バクスターが1966年から行なっていた実験中に発見した現象で、植物にポリグラフ(嘘発見器)を接続すると思考のような反応が検出される現象を指します。
 嘘発見器研究所に勤めていたバクスターは、室内にあった観葉植物のスズランに嘘発見器をつなげば組織内の水分の動きを測定できるのではないかと思いつきました。測定の過程で、次はスズランを燃やして反応を測ろうとしたところ、バクスターが考えただけでまだ行動していないにもかかわらず、嘘発見器は強い反応を示したのです。ほかにも人物や動物の挙動に対する植物の反応を測定した結果バクスターの結論は、植物は他者の思考を読み取り、感情的に反応している、というものでした。
 1967年バクスター超心理学・超常現象研究団体である超心理学会の総会で研究結果を発表、翌1968年には超心理学財団の『国際超心理学雑誌』にも掲載され、その後もバクスターはサボテン、鶏卵、細菌などにも様々な実験を行い続け、同様の現象が現れたことを記録したのです。
 この研究結果は雑誌、テレビ、ラジオなどで興味本位に取り上げられました。アメリカ海軍ではバクスター効果を応用し、海草を訓練することで潜水士たちに危険を警告させる計画を立てました(ただし実現せず)。一部の心理学者からもバクスター効果は厳然とした事実とされ、強く支持されました。
 一方生物学、植物学を始め、主流の研究・教育機関からは神経組織のない植物に感情の伝達はあり得ない、と真摯に相手にはされませんでした。超心理学でもバクスターが最初に発表した超心理学会は1988年の報告書で、バクスター効果と超心理学との関連を明確に否定しました。この超心理学会や多数の心理学者は、バクスター効果の追試に成功した研究者は皆無と述べています。
 2007年のテレビ番組による検証では、バクスターと同じ嘘発見器では確かに同様の結果が得られました。しかし、より精密な脳波測定器では植物の反応はまったく見られなかったのです。このことからバクスター効果とは、アナログ機器である嘘発見器自体の持つ不安定さがもたらす現象、安定性の欠如による揺らぎによるものとも見られています。