人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・改(15)

 さて、今ムーミン谷のレストランには、いる人もいない人も含めて主要なムーミン谷住民ほぼ全員が顔を揃えていました。すなわち、
 ムーミンパパ、ムーミンママ、ムーミン/スノーク、フローレン/ヘムレンさん、ジャコウネズミ博士/ヘムル署長、スティンキー/ミムラ、ミイ、ミムラ族35兄弟姉妹/ミムラ族とスナフキンの母ミムラ夫人/スナフキンの父ヨクサル/冒険家ロッドユールとソースユール夫妻と息子スニフ/発明家フレドリクソン/3人の魔女トロール・トゥーティッキ、モラン、フィリフヨンカ/フィリフヨンカの叔母エンマ、女友だちガフサ/小言じじいグリムラルンさん/双子夫婦トフスランとビフスラン/谷のガキどもホムサたち/見えない少女ニンニ/迷い這い虫ティーティウー/群棲担子菌類ニョロニョロ/ご先祖様(暖炉の裏に住む老ムーミン)
 その他ここにいない人たちです。上に挙げた人たちでも必ずしも今レストランにいるわけではなく、たとえばムーミントロールのなれの果てとはいえもはやムーミンでもトロールでもないようなご先祖様をいかにして暖炉の裏から引っ張り出せるというのでしょうか。
 ご先祖様はムーミンをミイラにしたような身体に全身から長い毛を生やした姿をしていました。誰もその毛を触ってみた者はおらず、抜け毛らしいものも見当たりませんでしたが、山はりねずみのように毛を立てることができるのか、または静電気を帯びて膨らんでいるのか、毛の立った状態では亀の子だわしのように膨らんでいるので本体はしわくちゃに痩せ細ったわら人形というか、そのものずばりミイラ化したムーミンであることは先に教えられていなければ惑わされてしまうかもしれません。このような不気味な新種の、または未知のトロールがいるのかと腰がひけるだけです。では幽霊の正体見たり枯れ尾花でわかってしまえば何も言うことはないかというと、このご先祖様の存在ほどムーミン谷の人びとにとって頭の痛い懸案はありませんでした。
 つまり谷の誰もがこのご先祖様がいつから存在しているのか、ひょっとすると谷よりも古くから存在していたのかもわかりませんでした。この物体は知られた時にはすでに対話は不可能なほど老化していました。そしてもしもいつか将来、今いる谷の住民がすべて存在を失ってしまっても、ご先祖様だけは暖かな、または誰も火を灯すことのない暖炉の裏でじっとうずくまっているかもしれないのです。