人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ザ・スターリン The Starlin - Trash (ポリティカル, 1981)

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ザ・スターリン The Starlin - Trash (ポリティカル, 1981) Full Album : https://youtu.be/bCUt61MlHXg
Recorded at Mod-Studio (A1-A10) and recorded live at Hosei University, October 31, 1981(B1-B6,B9,B10), Kyoto Taku-Taku(燦燦), November 7, 1981(B7,B8)
Released by Political Records MIG-2505L, December 24, 1981
Produced by The Stalin
全作詞: 遠藤みちろう・全作曲: THE STALIN
(Side A; STUDIO)
1. 解剖室 - 2:01
2. 冷蔵庫 - 1:34
3. TRASH - 1:11
4. 天上ペニス - 1:42
5. 革命的日常 - 3:15
6. 主義者(イスト) - 1:18
7. インテリゲンチャー - 1:18
8. バキューム - 2:10
9. BIRD - 1:03
10. 溺愛 - 4:59
(Side B; LIVE)
1. メシ喰わせろ! - 3:38
2. ハエ - 1:43
3. ハードコア - 1:35
4. 猟奇ハンター - 1:48
5. 電動コケシ - 2:46
6. アーチスト - 3:59
7. 豚に真珠 - 1:32
8. GASS - 1:03
9. サル - 0:35
10. 撲殺 - 3:33
[ ザ・スターリン The Stalin ]
ミチロウ - ボーカル
タム - ギター
晋太郎 - ベース
乾 純 - ドラムス

公式にはLPでもCDでも再発売されていないので海賊盤業者の目玉商品になっている。ザ・スターリンは後に定冠詞抜きのスターリン名義で再結成されたが、バンドとしてのザ・スターリンはこの自主制作盤『Trash』と、徳間音楽工業・徳間ジャパン/クライマックスレコードからメジャー・デビューしての『STOP JAP』1982.7(オリコン3位)、『虫』1983.2のアルバム3作、また『Trash』に先立つシングル・ソノシート「電動コケシ/肉」1980.9、EP『スターリニズム』1981.4に尽きていて、その後は遠藤ミチロウソロ・プロジェクトとして何度となくスターリンの名義が再利用されているにすぎない印象が少なくとも『Trash』『STOP JAP』『虫』を発表当時聴いたリスナーの共通認識にはあるだろう。ザ・スターリンはメンバー間の強い共感から生まれた、実に引き締まった魅力のある、小気味良いロックンロール・バンドだった。ソノシートは200円で発売され、当時少なかった日本のロックを取り上げる雑誌には遠藤氏の熱い一文とともに紹介された。
今聴くと『Trash』のファスト・チューンは冒頭の「解剖室」がモロそれのようにレッド・ツェッペリンの「Communication Breakdown」が透けて見える。だがすぐに気づく人はまずいないくらい強烈な日本語ロックとしてのインパクトがあって、マイナス点にはなっていないだろう。ソノシートも明らかに当時もっとも進んだ日本のパンク・バンドだったフリクションの作風に倣ったものだが、ヴォーカルとバンド・サウンドの関係性の相違でフリクションとはまったく異なるストレートな訴求力を持ったものになっている。それがザ・スターリンのオリジナリティで、『虫』まで一貫して追求されたこのバンド独自のコンセプトになった。

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ザ・スターリン - 電動コケシ/肉 (ポリティカル/Flexidisc MIG2501, 1980) : https://youtu.be/yuFP0LLiJ_E

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ザ・スターリン - スターリニズム/2nd EP (ポリティカル/EP MIG2504, 1980) Full EP : https://youtu.be/AsXdkLGSvyE
A1. 豚に真珠 - 1:40
A2. サル - 0:45
A3. コルホーズの玉ネギ畑 - 2:26
B1. 猟奇ハンター - 2:13
B2. アーチスト - 3:10

ザ・スターリンの2作目になったEP『スターリニズム』も7インチ・33.1/3回転のミニアルバムで500円、という廉価盤だったが、後に「電動コケシ/肉」とのカップリングで12インチ・ミニアルバム化された時にリミックスされたのも当然というか、ピッチが遅くミックスも失敗した作品で、あまり音楽的才能はないのかな、と先行き不安になるようなものだった。しかしザ・スターリンの音楽ジャーナリズムの話題は大きくなり、ステージで全裸になる、蓄肉の臓物をぶちまける、女性客にフェラチオさせる、などもっぱらスキャンダラスなステージングで音楽誌の枠を越えてスポーツ新聞、週刊誌などにも興味本位の記事がたびたび載るようになった。同時期やはり凄惨なステージで話題を呼んでいたバンドに暗黒大陸じゃがたらがいたが、ザ・スターリンじゃがたらよりも明快だったとひとまず言える。
そして満を持して発表されたのがソノシート、EPに続いて自主レーベル・ポリティカルから発売された初のフルアルバム『Trash』で、当初1000枚限定とアナウンスされたが事前の評判から2000枚と改めて発売された。今回調べて、記録の上では1981年12月24日だったのか、と意外な感に打たれた。記憶では『Trash』が出回り始めたのは1982年1月中旬以降で、今はない下北沢の輸入・中古レコード店で(当時はインディー・レーベルのレコードはそうした店でしか取り扱っていなかった)購入したのもその頃になる。確かまだ出ていないと言われて(こういうのは予定日より遅れますから、と説明された)、予約取り置きしてもらって買ったから、クリスマスイヴの発売日に遅れたらインディーズなら年を越すのが普通の出荷・入荷状況だろう。当時の流通網ならインディーズは手売り納品だったはずだろうし、通販やジャーナリズム用の献呈品だけでも2000枚のうち相当枚数になったと思われる。
(Original Political "Trash" LP B/W Picture Liner Cover)

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 ソノシートはなかなかだがやはり2曲では物足りず、EPはサウンド・プロダクション面で貧弱だったから、いよいよアルバムとなればこれまでの不満点は改善されているだろう、と何となく期待していた。話題が盛り上がっているところだしおそらくバンド側も意欲が高まっているだろう。白黒印刷のジャケットもいかにもアンダーグラウンド・シーンのバンドらしくコストを抑えた安さは感じさせず、パリパリの新作で2000円という廉価盤なのもアンチ・コマーシャルなバンドらしかったしA面がスタジオ録音10曲、B面がライヴ録音10曲というのも聴く前からおお、と思った。当時まだザ・スターリンのライヴには出向いたことがなかったが、音楽誌の記事には「30分もあれば20曲は演るバンド」と書かれていたので、レコードでもそういう勢いなら面白い。
アルバムは期待以上の出来だった。スタジオ録音10曲でA面、ライヴ録音10曲でB面に分けたのもアルバム2枚組に相当するような満腹感があった。さすがに30分で20曲ではなく両面で45分弱はあったが(正確には42分54秒)、各面で起承転結があり曲の流れが良く、メドレーのように一気に聴けてしまう。当時は気づかなかったがザ・スターリンパンク・ロックでもサイケデリック色の強い面があって、サイケといってもいろいろありダウナーな方向性のサイケデリック色だが、A10の「溺愛」やB1「メシ喰わせろ!」ではそのサイケ色が成功している。EP『スターリニズム』でうまくいかなかったのはその辺りだった。「撲殺」のようにタイトルだけが歌詞のような曲は後の『虫』につながっていく。だがメジャー移籍しての『STOP JAP』でフィーチャリング・チューンになったのはA6を改題した風刺的な「ロマンチスト」で、残念ながら『STOP JAP』は『Trash』よりも古びやすい面が目立つアルバムになった。それでもキャッチーな面を強調した制作が奏功したか12万5千枚、アルバム・チャート3位は当時のポピュラー音楽状況では驚くべき成功で、積極的にスキャンダラスな反体制パンク・バンドのイメージで売り出した地道な活動が結果的には爆発的な反響を呼んだことになる。
(Original Political "Trash" LP Lylic Sheet & Side A Label)

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 所属レコード会社でも担当者以外のほとんどのスタッフから白眼視される、一旦完成させたアルバムがレコード倫理委員会によって規制がかかって全曲を改訂再録音しなければならなくなるなど『STOP JAP』は大変な障壁を乗り越えて完成させ、セールス実績で十分に報われたアルバムだったが、音楽誌の評価はそれまでのザ・スターリンのレコードと比較したものも、比較とは別にパンク・ロックのアルバムとしてもユニークな楽曲(歌詞)に反して平凡なサウンドを指摘するものが多かった。ゲリラ的に作られた『Trash』の迫力に較べるとEP『スターリニズム』に後退して作られたアルバムのように感じられた。今聴くとこのキャッチーさもありだなと思えるが、1982年には『STOP JAP』のサウンドは物足りなかった。
バンド自身もその点は早く気づき、次作『虫』では思い切りアッパーな面も、底なしにダウナーな面でも『Trash』からさらに大胆でダイナミックなサウンドに成功する。アルバム・チャートは最高位2位まで上がり、今回は音楽誌でも正当に高い評価が並んだ。年間の日本のロックのベスト・アルバムに上げる音楽ジャーナリストも多かったが、レコーディング中からメンバーの交替が相次いで、発売後のライヴでは固定メンバーは遠藤ミチロウひとりになっていた。それでも遠藤氏のソロ・プロジェクトと違うのはソノシート「電動コケシ/肉」から『虫』まではオリジナルなザ・スターリンのコンセプトが一貫していたからだろう。最高傑作と言える『虫』が実質的にザ・スターリン最後の作品になり、再びインディー・レーベルに戻って『Fish Inn』1984.11、そして徳間ジャパンから解散ライヴを収めた『For Never』1985.5の2作があるが、『Fish Inn』は再録音曲を含み臨時メンバーで制作されたアルバム、『For Never』は解散記念アルバムで、『Fish Inn』からは遠藤ミチロウのソロ活動開始と平行して制作されている。オリジナルのザ・スターリンでは『Trash』と『虫』が突出しているが、アーティストの創造力が時代的状況とかみ合って最高の成果を生んだ好例でもある。一度もそれが起こらないアーティストの方が遥かに多いと思えば、ザ・スターリンが長く記憶されている存在なのも順当なことだろう。