その孤児の少年、というよりまだ幼児と児童のさかいめあたりの年頃ですが、とにかくその男の子は谷の住民の誰も知らない男に手を牽かれていました。もちろんその孤児を見るのも初めてでしたが、ひと目で親子ではないとわかるのは男はヒューマノイドトロール、男の子はムーミントロールの姿をしていたからです。そうだ、と男は言いました、この子は親のないトロールの子どもらしいんだ。
そんなの見ればわかる、とヘムル所長は言いました、私は警察だけではなく孤児院も経営しているからな(これは事実でした。ムーミン谷にはヘムル孤児院とフィリフヨンカ孤児院があり、ムーミンパパはフィリフヨンカ孤児院に引き取られることになります)。どーだ、おそれいったか。
おそれいりません、と謎の男、なぜなら私はここの土地の者ではないからだ。おそれいりましたか。
おそれいらん、とヘムル署長、私は警察も経営していると言ったろ(これも事実でした。ムーミン谷では警察は民営化されているのです)。お前さんがよそ者であってもムーミン谷にいる間は私には逆らえないのだ。どーだ、おそれいったか。
ほお、と謎の男は合点がいったように、ここはムーミン谷というのですか。ではこの子はムーミン谷固有の種族に違いない。それと私は逆らいはしないが、誰も私に指図できない。あなたはここの法律かもしれないが、私はいかなる土地にも属さず、同時にすべての土地への通行権を持つからだ。
ムーミン谷の極刑は断頭台なのだがな、と悔しまぎれにヘムル署長が唸りました、残念なことに寸止め仕様の断頭台しか使えん規則になっている。
しかしこれはどういうことだ、とジャコウネズミ博士がヘムレンさんに、ムーミンパパが生死不明で姿を消したばかりのうちに、どう見てもムーミン族の男の子が現れるとは。この年端では状況も理解できるまい。きみはどこから来たのかね?
ちびムーミンは男の陰にさっと隠れました。このお兄さんに連れて来てもらったんだね?うなずくちびムーミン。ヘムレンさんは謎の男に向き直ると、あなたはどこでこの子を見つけたのです?
私はこの家の前まで歩いてきて、と謎の男、何か騒動が起きているようだと戸口まで来たのです。そして玄関に一歩入った時、上着のすそを後ろから引っ張られた。それがこの子でした。ムーミンといいましたっけ?
そうです。それであなたのお名前は?
スナフキンです、と男は言いました。