人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・誡(48)

 ちびムーミンはうなづきました。一堂はいっせいにざわめきましたが、それでは問いに対する何の答えにもなっていないのに気づくのには一瞬もかかりませんでした。しかも気づいてみれば最初から、何を訊かれてもこのムーミン族の子どもはうなづく以外の応答をしていないではありませんか。たとえ首を横に振ろうが同じことで、要するに何を尋ねられても質問の内容を正しく理解できているとは限らず、この子どもからの返答からは具体的な出来事は何ひとつ引き出せないように思えました。結局まったく万事休すです。
 では結局ムーミンパパはどうにかなってしまったのでしょうか?まあ無事とは思えないしな、というのが全員一致の見解でした。いつからわれわれは同じところばかりをグルグル回っているのだ、と全員が顔を見合わせましたが、誰も突破口となる先鋭にはなりようもありません。所詮われわれはムーミン谷の民にすぎん、と誰もが痛感しました。ムーミン谷を超えて普遍性に到達するだけの想像力など持ちあわせようもないのです。
 少し脱線して気分転換しよう、とヘムレンさんが言いました、話した者勝ちのフリートークと行こうじゃないか。いいですね、とスノーク、では私が。実は先日外国製の野球映画を観る機会がありまして。劇映画ですから当然俳優が野球選手の役をやっています。脇役は野球の心得のある大部屋俳優から選べばいいですが、さすがに主役はスター俳優を持ってきた。そこで問題だったのが、この主役のスター俳優が「小さいころから乗馬をたしなみ、狩猟、フライ・フィッシング、スキーを生涯を通じての趣味とし、大学時代には美術を専攻してスポーツとはおよそ無縁の生活を送った」と文献に書いてある。要するに野球選手役を演じるのは苦労したとのことですが、幼少時から乗馬、狩猟、フライ・フィッシング、スキーを生涯の趣味としたのが「スポーツとはおよそ無縁」と言えるのでしょうか?
 たぶんその外国では乗馬や狩猟はスポーツとはされていないのだろうな、とジャコウネズミ博士。その点ムーミン谷では下手に乗馬やらウサギ狩りをすると馬でもウサギでもなくてトロールだったりするから話は早い。土台われわれほど種族混交トロール社会が進んでしまうと、公平かつ一定の基準を備えた競技など考えられないではないか。
 ウサギ狩りでなくてもクレイ射撃とかもありますよ。
 殺人現場かもしれない場所で不謹慎ではないかね。