人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2016年12月26日~30日・ファミリー向けハリウッド冒険映画

 前回は1930年代のフランス映画、その前は1920年代のフランス映画(サイレント時代)でさらにその前はジャン・ルノワールと、フランス映画ばかり続けて観てくるとさすがにフランス人俳優の顔にも飽きてきました。順序が逆で30年代→20年代ルノワールと観たら感想も違ったかもしれませんが、30年代フランス映画の煮詰まり感というとスタイル優先のあまり表現に枷をはめたような不毛さというか、趣味の洗練を追求して隘路に入ってしまった芸術至上主義を感じずにはいられないものでした。ジャン・グレミヨンの『不思議なヴィクトル氏』1938のような例外も思いつきますが、主流となったのは審美的作風の「詩的リアリズム」派の映画でしょう。しかしそれはそれで、世の中にはどんな映画があってもおかしくないわけです。苦手な映画を観ることで感覚が養われることだってあります。忍耐力とか。
 ですがせっかくの年末ですので、クリスマス過ぎからの5日間は小学生から年輩者まで楽しめるファミリー向け冒険映画を観ることにしました。似たような映画ばかりなのでDVDのパッケージを見て思い出しながら感想文を書きましたが、似たようなというのは似ているようで違うということでもあり、それを上手く言えたか自信はありませんが、この一文が多少なりともご参考になれば幸いです。では、よいお年を。


12月26日(月)

マイケル・カーティス&ウィリアム・キーリー『ロビンフッドの冒険』(アメリカ'38)*102mins, Technicolor
エロール・フリン主演。イングランド王アーサー不在時に国王代行で専制政治を行い民衆を苦しめたのみならず帰国するアーサー王暗殺を企てた弟王ジョンに抵抗しても戦う義賊貴族のロビン・フッドの活躍を鮮やかなテクニカラーで描き、外国映画輸入禁止直前の日本でも大ヒット作になったのも納得の面白さ。本作のフリンを始めとしてとにかく生身の体技がすごい。泥だらけ、ずぶ濡れ、落馬は序の口で現代映画のCGやワイヤー・アクションを軽くしのぐ超絶アクションをウンカのようなエキストラまで揃ってキメる。さぞやケガ人続出だったろう。ロビン・フッドってもっと少年かと思っていたらそこそこ青年だったのか。監督カーティスは『カサブランカ』の人でもあるが、本領はこっちだろう。ヒロインのオリヴィア・デ・ハヴィランドも魅力的だが、とにかくフリンがかっこいい。シリアスにならず基本がいつもニヤけているのも明るくて気分が晴れる。

ルーベン・マムーリアン快傑ゾロ』(アメリカ'40)*94mins, B/W
タイロン・パワー主演。ヒロインはリンダ・ダーネル。スペイン軍に従事した青年が兵役を終えてロサンゼルス市長の父の実家に帰国すると、平和主義者の父は市長を辞職させられ現市長は横暴な専制市政で市民を苦しめていた。青年は表向き軟弱なふりを装い、夜な夜な覆面の義賊ゾロに扮して圧政者に抵抗し、市民に供出させた年貢を取り返していく。『ロビンフッド~』と同じベイジル・ラズボーンが敵の軍人ボスで剣の達人として出てくる。アクションは『ロビンフッド~』より少なめで敵の暴君市長を追い詰めていくドラマはその分ていねい。活劇映画はカラーで観たいが本作はゾロの活躍シーンはほとんど夜間なので、白黒にしたのも必然性があり効果が出ている。カーティスにせよマムーリアンにせよドイツ出身映画監督がイギリス種の活劇映画を撮るのもハリウッドらしくて面白い。というか西部劇ではいつも南軍が英雄視されるように、植民地国イギリス人の正義はアメリカ的視点からは描きづらいのだろう。


12月27日(火)

ルドヴィッヒ・ベルガー、マイケル・パウエル&ティム・フェーラン『バグダッドの盗賊』(イギリス'40)*106mins, Technicolor
・今回は本作のみイギリス作品になる。監督が3人もいるが製作総指揮のアレクサンダー・コルダの作品と言うべきか。子供~ファミリー向けファンタジー映画の題材で大人向きの映画を作った感じが強い。インド人少年俳優サブーの抜群の体技(垂直なロープ一本を足の指で挟んで昇る体力!)、この後『カサブランカ』のドイツ軍将校を遺作に亡くなるコンラート・ファイト(『カリガリ博士』の眠り男)の存在感など、ファンタジーの中にもしっかりした手ごたえがある。謎めいた冒頭から前半は回想形式、後半からは解決編になる構成も効果的で、アラビアン・ナイトからのいくつものエピソード(魔法のランプ、空飛ぶじゅうたんなど)を上手く連結し、ふと気がつくと前半の伏線が効率的に回収されていく後半のテンポもさりげなく練り込まれている。子供の題材を使った大人の映画、というのはそうした優れた頭脳プレーゆえで、本作は当時最高の特殊撮影技術でも有名だが特殊撮影に依存してはいないのが潔い。

ジョン・ロウリンズ『アラビアン・ナイト』(アメリカ'42)*86mins, Technicolor
・マリア・モンテスの一人舞台というか、ヒーローが線の細いジョン・ホールではどうしてもそうなる。艶っぽい面を強調したアラビアンナイト・リミックスの趣き。ロウリンズはコメディ畑の人らしく、今回観た活劇映画の中では最下位。何より長編映画を貫く太い芯がなくてエピソードの羅列を無理に辻褄合わせして所々矛盾が生じているし、映画の見所に焦点が合わないのは活劇映画としては本末転倒。唯一取り柄といえば、アラビアンナイトものは欧米人にとってイスラム世界の価値観の源泉になっているのが無理してムードを出そうとしている本作からでもよくわかる。しかし外国映画を観ると西部劇ですら貴婦人は何かと手の甲を舐められて大変だが、イスラム圏でもそうとは思えないのでハリウッド時代劇のお約束なのだろう。ちなみに製作はユニバーサルなのもどこかチープな印象があって申し訳ない。


12月28日(水)

アーサー・ルービン『アリババと四十人の盗賊』(アメリカ'44)*87mins, Technicolor
・いやいや同じユニバーサルでマリア・モンテス&ジョン・ホール主演でも、サイレント時代からの手練れルービン(シュトロハイムの『グリード』1923のディレクターズ・カット480分を130分に編集した実績もある)が手がけると、無駄のないきびきびしたアリババ物語に仕上がる。ただルービンはトーキー版『オペラの怪人』でもそうだったがカラー映像の色彩設計が意図的なのか無頓着なのかやたらと派手で、テクニカラー実用化5年目あたりでこの強烈な色彩は派手にやるほどサービスと心得ているきらいがある。アラビアンナイトものとしてはアリババのエピソードを忠実に映画化していて他のアラビアンナイトもののような大胆なアレンジをしていないのが本作の場合成功した。スケールは小さいがよくまとまっており、モンテスの美貌もホールの優男なりの二枚目ぶりも『アラビアン・ナイト』とは別人のように魅力的。色彩はともかく、ルービンの手腕を見直す一作。

リチャード・ウォーレス『船乗りシンドバッドの冒険』(アメリカ'46)*117mins, Technicolor
・シンドバッドのダグラス・フェアバンクスJr.も悪くはなく体技など相当のものだし中世イスラム圏の人は食生活や生活スタイルからもスリム体型だったろうが、ヒロインが光輝くモーリン・オハラテクニカラー映画だから男はかすむ。2時間近いぞ大丈夫かと最初は心配するが、ロード・ムーヴィーとは言わずともあの手この手で舞台を変えて見せ場てんこ盛りの展開なので飽きがこないでスルスル観られる。アラビアンナイトものというよりシンドバッドとヒロインの関係が『ロビンフッド~』から持ってきたようなものなのでエキゾチックな味は薄いし、モーリン・オハラにアラブ系美女を演じさせた時点でエキゾチシズムは放棄しているが、中世アラブでも近世イングランドでも、はたまた西部劇でもいいような衣装だけアラブの無国籍時代活劇とすれば映画ならではの虚構が出現する。そこにケチをつけていては冒険映画のみならずハリウッド映画は観られない。


12月29日(木)

ジョージ・シドニー『三銃士』(アメリカ'48)*126mins, Technicolor
・三銃士の話は欧米人なら観る前から知っている訳で、本作は2時間越えの大作なのに説明を飛ばして話の飛躍も多いが観客はついていけるのが前提になっている。つまり三銃士の話を知らないとついていけなくなる展開で、知らない観客には詰め込みすぎに見えるのが難点。監督がシドニー、主役のダルタニアン役がジーン・ケリーだから歌のないミュージカルみたいなもので、ジーン・ケリーの体技がたぶん今回観た活劇映画でも一番すごい。家の屋根ほどの木の上から馬の背に飛び降りてそのまま手綱を握って馬が走るなど朝飯前で、敵の剣士と激しいフェシングさばきをしながら移動しつつステップを踏んで歩調に微塵の乱れもないなど超人的な体技を見せる。そこそこ豪華キャストで好演の三銃士も艶っぽさ十分なヒロインのラナ・ターナーもケリーの剣舞の前にはかすむ。いろいろ映画としてはバランスの悪さはあるが、観ている間は生まれ変わったらジーン・ケリーになりたい、と思わされるだけでも本作は圧巻。

バイロン・ハスキン『宝島』(アメリカ'50)*96mins, B/W
・ディズニー初の実写映画。今回観た作品中でも異色作で、冒険映画ではあっても活劇映画ではなく、主人公の少年の等身大の活躍ぶりを始め超人的な人物は出てこない。アクションも要所に絞られて地味だし演出やセットに大げさな誇張がない。あくまで少年目線でリアリティを重視して派手さがないが手応えはある作品になっている。残虐描写も原作より抑えているし、ディズニーが健全な教育的ファミリー映画(冒険を通した少年の成長物語)を徹底して目指したことがわかる。短めの尺にまとめたのも余分な遊びを入れなかったのと作品の密度のためで、ハリウッド映画としてはストイックですらある。たぶんガキの頃観ているはずだがまったく記憶にないし、立派なだけ記憶に残りづらい映画でもある。こういう映画はいったい何と言えばいいのか。純粋ファミリー映画?


12月30日(金)

コンプトン・ベネット&アンドリュー・マートン『キング・ソロモン』(アメリカ'50)*103mins, Technicolor
・有名なアフリカ探検小説のイギリス映画版('37年)に続く2度目の映画化で、これも上記『宝島』みたいなリアリズムで押しているが、大々的なアフリカ・ロケ映像のドキュメンタリー的迫力を狙ったもの。ロケ隊スタッフがあまりの苦労に帰国嘆願書を出したというほど猛獣の大群や現地人の部族がこれでもかというほど出てくる。物語は引退を考えているヴェテラン・ガイド(ファーリー・グレンジャー)に、富豪夫人(デボラ・カー)とその兄が、ソロモン王の秘宝伝説を信じて現地人も踏み込まない奥地へ探検して消息不明になった素人探検家の富豪の行方探しのガイドを依頼し散々な目に遭う、というもので、話はけっこう(かなり)偶然が多いものの映像のあまりのリアリティにぐいぐい観てしまう。シマウマの大群の暴走に襲われるシーンなど真剣に危険で不謹慎だが実際に映像で観せられると爆笑してしまう。全編そんなピンチの連続で、毎回偶然に助けられて話は無理矢理進む。俳優出演シーンまで全編ロケのわけないので撮影隊第2班のアフリカ映像と組み合わせてあるはずだが、まったく気づかせない。芸術映画などではまったくないが、これも映画のあるべき真っ当な姿という気がする。

リチャード・ソープ『円卓の騎士』(アメリカ'53)*116mins, Technicolor
アーサー王と騎士ランスロー、円卓の騎士たちの話はヴァリアントの多い伝説だが、この映画ではアーサー王(メル・ファーラー)と王妃(エヴァ・ガードナー)、そして騎士ランスロー(ロバート・テイラー)の三角関係説から話を膨らませている。活劇要素は必須だが騎士道ロマンス映画の側面がドラマの軸なので『ロビンフッド~』や『快傑ゾロ』のようなカラッとした勧善懲悪劇にはなっていない。ガードナーの王妃とテイラーの騎士はプラトニックということにはなっているがあまりに色気が濃厚で肉体関係があるとしか見えない。テイラーはけっこうアクションをこなしているがセンチな優男のイメージが強すぎるからスタントなんじゃないかと思えてきて違ったらごめんなさい。リチャード・ソープというと西部劇の代表作『復讐の谷』を思い出すがあれも既婚者の親友が妻と親友が出来ているんじゃないかと疑った挙げ句(実際プラトニック・ラヴ関係になっていて)殺し合いになる話だった。西部劇でもアーサー王伝説でも同じ話をやっている。女の手の甲を舐めるのが礼儀という民族の考えることはよくわからない。何だか最後の1本になってファミリー映画ではなくなってしまった観があるが、映画とは観なくてはわからないものだし、観た通りのものとは限らない場合すらある。