人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - Oblique Parallax (Journey Stars Beyond) (Saturn, 1982)

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Sun Ra - Oblique Parallax (Journey Stars Beyond) (Saturn, 1982): http://www.youtube.com/playlist?list=PLne6kMpLGb4iC6zJS1zTPxXLnGrKmJJvV
Recorded live at unknown location, possibly December 1980. Possibly A3 recorded live at Jazz Center Detroit, December 26-31, 1980. The middle section of Side B has a cameo appearance by the Arkestra, Jazz Center Detroit, July 28, 1981
Released by El Saturn Records Saturn IX SR 72881, 1982
All composed and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Oblique Parallax - 2:34
A2. Vista Omniverse - 4:43
A3. Celestial Realms - 4:50
(Side B)
B1. Journey Stars Beyond - 13:13
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - organ and synthesizer
Vincent Chancey - french horn (Track A3, Side B only)
Eric "Samarai Celestial" Walker - drums (Track A3, Side B only)
Tony Bethel - trombone (Side B only)
Tyrone Hill - trombone (Side B only)
Marshall Allen - alto saxophone (Side B only)
John Gilmore - tenor saxophone (Side B only)
Danny Ray Thompson - baritone saxophone (Side B only)
Eloe Omoe - bass clarinet (Side B only)
Hayes Burnett - bass (Side B only)

 AB面合わせて全編25分20秒の短いライヴ・アルバム。ですが本作もサン・ラの怪物性を余すことなく伝える傑作です。例によってアルバム・ジャケットは一定しておらず、文末にまとめて異版を載せました。アルバムの性格としてはサン・ラのオルガンとシンセサイザーを完全に主役にしたアルバムです。少なくとも3回のライヴから抜粋編集されたものと推定され、A1とA2はサン・ラのソロ・インプロヴィゼーションです。A3はフレンチホルンとドラムスが加わってB面全面を占める「Journey Stars Beyond」の前奏をなす曲、そしてB面「Journey Stars Beyond」では2トロンボーン、3サックス、1クラリネット、ベースが加わり、8分目からは再びサン・ラのソロ・インプロヴィゼーションがアルバムの最後まで続きます。A1, A2はソロによるメドレーなのでこれを(1)とすると、トリオ演奏のA3は(2)、B面の大曲は10人編成の前半8分を(3)、ソロになる後半5分を(4)と見なせます。この4パートのうち(2)は以前ご紹介した『Beyond the Purple Star Zone』と同じ1980年12月末のデトロイト・ジャズ・センターの連続公演からの抜粋と推定され、(3)は1981年7月28日に再び行われたデトロイト・ジャズ・センター公演からのもの、とされています。出処不明なのはサン・ラのソロ・インプロヴィゼーション(1)と(4)で、同日か別公演かはわかりません。アルバム発表が1982年のため(2)と(3)のどちらに近い時期か特定できませんが、1980年のスクワッド・シアター公演やデトロイト・ジャズ・センター公演と近い演奏なのでおそらく1980年12月の、デトロイト公演(12月26日~1981年1月1日、1日2回公演)直前と推定されています。つまり本作はライヴ音源を元に作品性を重視して編集されており、単純なライヴ・アルバムではないということです。
 このアルバムはAB面全編で1曲と見なしてもいいもので、合計収録時間が短いのもそのためでしょう。ただしLP片面に収めるには長いので、AB面に分割されて発表されたものと思われます。サン・ラのソロ・インプロヴィゼーションに始まってトリオ、テンテットと編成が拡大し、再びサン・ラのソロ・インプロヴィゼーションで締めくくられる構成です。これはアーケストラ1969年発表の傑作『Atlantis』のB面全面を占めるタイトル曲「Atlantis」(1967年録音)の構成に似ており、エンディングの大爆発まで似ています。ただし「Atlantis」はスタジオ録音ですし、サン・ラもシンセサイザー使用前でした。今回のB面は凄まじいことになっています。A面1, 2のソロ・インプロヴィゼーションではシークエンサー機能を使って比較的整然としたシンセサイザーとオルガンの同時ソロを披露していますが、B面ラストの5分間のシンセサイザーとオルガンは完全な爆音ノイズ・ミュージックです。シンセサイザーとオルガンのみによるものではなくアンプのフィードバック・ノイズまで計算したプレイで、ジミ・ヘンドリックスリッチー・ブラックモアのギター・クラッシュ以上のノイズの洪水をシンセサイザーとオルガンから引き出しています。キーボード奏者でこれに近い演奏を披露していたのは往年のキース・エマーソンとマリアン・ヴァルガ(コレギウム・ムジカム)くらいで、キースもジミのギター・フィードバックにキーボードで肉迫しようとしたプレイでしたが、ジミもキースもリッチーもその発想はショーマンシップによるものでした(チェコのヴァルガはやや違いますが)。音楽的な意図によるフィードバック・ノイズはキング・クリムゾン1972年のライヴ・アルバム『Earthbound』のエンディング曲にありましたが、サン・ラの本作もこの爆音は完全に音楽的な必然に基づいたものです。ミキサー卓、またはスタジオ・ミキシング段階のフィードバック加工かもしれませんが、少なくとも3公演からの入念な編集による本作は爆音で終わるノイズ組曲として見事な作品性を備えたアルバムになりました。これもジャズです。しかもこのアルバム・ジャケットです。いったいサン・ラは売る気があったのでしょうか?

(Various Alternate El Saturn "Oblique Parallax" LP Handmade Drawing Front Covers & Labels)

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