スタン・ゲッツ・フィーチャリング・アストラッド・ジルベルト - コルコヴァード Stan Getz Quartet Featuring Astrud Gilberto - Corcovado (Quiet Nights of Quiet Stars) (Antonio Carlos Jobim, Gene Lees) (Verve, 1964) : https://youtu.be/HEbe3OJsdak - 2:51
Recorded live at Carnegie Hall, New York City, October 9, 1964
Released by Mercury/Verve Records as the album "Getz Au Go Go", Verve
V6-8600, Mid December 1964
[ Stan Getz Quartet Featuring Astrud Gilberto ]
Stan Getz - tenor saxophone, Astrud Gilberto - vocals, Gary Burton - vibes, Chuck Israels - bass, Joe Hunt - drums, Kenny Burrell - additional guitar
このライヴ・アルバム『ゲッツ・オウ・ゴー・ゴー』は素晴らしい名盤でヴァーヴ時代に6作あるスタン・ゲッツのボサ・ノヴァ・アルバム中もっともチャーミングなアルバムですが、全10曲中アストラッド・ジルベルトのヴォーカルをフィーチャーした6曲はゲッツ・カルテットのライヴ音源を編集してアストラッドのヴォーカルをスタジオでオーヴァーダビングしたと判明しており、4曲で加わるケニー・バレルのギターも同様になるそうです。しかもこのアントニオ・カルロス・ジョビンによるボサ・ノヴァ・スタンダード(アストラッドの夫ジョアン・ジルベルトが'60年のアルバムで初演)は明らかにピアノもダビングされており、ノンクレジットですから誰が弾いているのか不明で、そもそもインストルメンタルのカルテットのライヴ音源にヴォーカルをダビングした時点で全体が原型をとどめないほどカットやテープ編集によって再構成されているとおぼしく、特殊な成り立ちですがライヴというのはあまり考えずに聴いた方がいいでしょう。
スタン・ゲッツはボサ・ノヴァをクール・ジャズのポルトガル系ブラジル白人ジャズマンによる再解釈と考えており、ゲッツは'50年代にはスウェーデン人の夫人を迎えてスウェーデン民謡のジャズ化なども行っていましたからルーツにクール・ジャズがあるボサ・ノヴァをクール・ジャズの立役者だった自分が取り上げるのは自然な流れと考えていました。アントニオ・カルロス・ジョビンもクール・ジャズやウェスト・コースト・ジャズの白人主導型ジャズに影響を受けたミュージシャンでしたからゲッツがボサ・ノヴァ・アルバムを出して世界的にボサ・ノヴァが注目されていたのを喜び、ゲッツのボサ・ノヴァ・アルバム4作目『ゲッツ/ジルベルト』'64はジョビンとジョアン・ジルベルトをアメリカに招いてジョビンを音楽監督に三者がコラボレーションする企画でした。しかしポルトガル貴族出身のギタリストで歌手のジルベルトはゲッツを「ユダヤ人ジャズマン」と軽蔑しており、英語がしゃべれるジョビンの通訳で初顔合わせのあいさつをした時ジルベルトは「糞ったれ」とゲッツに悪態をつき、ジョビンは大変困ったそうです。しかしアルバム『ゲッツ/ジルベルト』はビートルズのアルバムに阻まれるもジャズのアルバムでは異例の全米アルバム・チャート2位になり、夫について来た夫人のアストラッドにもジョアンが歌うポルトガル語詞に続いて英語詞の部分を歌わせた「イパネマの娘」はアストラッドが歌うパートを中心にした編集ヴァージョンがシングル化され全米チャート5位になり、アストラッドは離婚してアメリカに残留し人気歌手になりました。この「コルコヴァード」はブラジルの山の名前ですが英語詞では「Quiet Nights of Quiet Stars」と改題された歌詞がつき、全米チャート92位、アダルト・チャート18位に登りました。これも立派にジャズのスタンダードになった'60年代ヒット曲です。黒人バップ系からは見逃されがちですが、こうした曲があるからこそジャズの世界の裾野が広がっているので、珠玉の名曲としてふと思い浮かんでくるような1曲です。