人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

スカイ・サクソン・ブルース・バンド Sky Saxon Blues Band - シーディ・ブルース A Full Spoon of Seedy Blues (GNP Crescendo, 1967)

スカイ・サクソン・ブルース・バンド Sky Saxon Blues Band - ア・フル・スプーン・オブ・シーディ・ブルース A Full Spoon of Seedy Blues (GNP Crescendo, 1967) Full Album : https://youtu.be/_4JOGQTiPQM

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Recorded at Various Studios, August 12 to October 14, 1966
Released by GNP Crescendo Records GNPS 2040, November 1967
Produced by Marcus Tybalt (Sky Saxon, The Seeds)
All tracks written by Sky Saxon, except where noted.
(Side One)
A1. Pretty Girl (Luther Johnson) - 1:58
A2. Moth and the Flame - 3:47
A3. I'll Help You (Carry Your Money to the Bank) - 3:27
A4. Cry Wolf - 6:04
A5. Plain Spoken (Muddy Waters) - 2:52
(Side Two)
B1. The Gardener - 4:57
B2. One More Time Blues (Luther Johnson) - 2:25
B3. Creepin' About - 2:43
B4. Buzzin' Around - 3:43
[ Sky Saxon Blues Band ]
Sky Saxon - lead vocals, bass guitar, harmonica
Daryl Hooper - organ, piano
Jan Savage - lead guitar, gong, backing vocals
Rick Andridge - drums, backing vocals
with Additional Musicians
Harvey Sharpe - bass guitar
Luther Johnson - guitar
Mark Arnold - guitar
George "Harmonica" Smith - harmonica
James Wells Gordon - saxophone

(Original GNP Crescendo "A Full Spoon of Seedy Blues" LP Sticker Sealed Front Cover, Liner Cover & Side One Label)

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 発表は4作目、前作『フューチャー』'67.8からわずか3か月後に発売された本作は実はデビュー作『ザ・シーズ』'66.4('65年4月~'66年1月録音)、第2作『ア・ウェブ・オブ・サウンド』'66.10('66年7月5日~29日録音)に次いで着手され('66年8月12日~10月14日録音)、第2作発売時にはマスターテープが完成していましたが、ライナーノーツを寄せたシカゴ・ブルースのボス、マディ・ウォーターズ(1913-1983)のバンドのメンバーをゲストに迎えてウォーターズのギタリスト、ルーサー・ジョンソンの書き下ろし2曲とウォーターズの既成曲のカヴァー1曲を含み、スカイ・サクソン自作オリジナル曲も合わせ全9曲すべてモダン・ブルースという、ザ・シーズにあっては異色の内容のため発売が延期され「スカイ・サクソン・ブルース・バンド」名義で発売されたものです。第3作『フューチャー』'67.8('66年11月3日~'67年6月6日)'66年末~'67年初頭が第2作から10か月後の発売でしたから順当には'67年2月~3月頃に発売される予定で制作されたはずですが、ザ・シーズはこの頃ようやく知名度が高まり、デビュー作収録曲「プッシン・トゥ・ハード」36位('67年2月・初発売'65年11月/再発売'66年10月)、「恋しい君よ(独り占めしたいのに)」41位('67年3月・初発売'65年6月/再発売'66年5月)、第2作からの「ミスター・ファーマー」86位('67年3月・初発売'66年9月/再発売'67年2月)と、どれもしつこく再発売プロモーションしてシングルが小ヒットにこぎ着けたばかりでした。第2作はチャートインを逃しましたが全米132位まで上がったデビュー作ともども地道にロングセラーをつづけており、新世代のサイケデリックなヒッピー・バンドのイメージをさらに鮮明に打ち出したのが第3作『フューチャー』でしたから、同作が全米87位と好成績を収めたことや、サイケデリック=フラワー・ムーヴメントの反動でルーツ・ロック指向のバンドが現れ始めていたことで、本作もやっと(しかしスカイ・サクソン・ブルース・バンド名義で)リリースされる運びになったわけです。
 マディ・ウォーターズはライナーノーツで「アメリカは第二のローリング・ストーンズを生んだと確信する」とザ・シーズを讃え、プロデューサーのマーカス・ティボルト(実はスカイ・サクソン自身の変名)は「本作のサクソンのオリジナル・ブルースの作曲は力強く、ヴォーカルはジョー・ウィリアムズやマディ・ウォーターズ、ジョー・ターナーにも肉薄する」と自画自賛しています。しかし本作で聴かれる演奏はシカゴ派のモダン・ブルースというよりもロカビリー時代の初期白人ロックン・ローラーに近いので、イギリスのローリング・ストーンズミック・ジャガー(1943-)やアニマルズのエリック・バードン(1941-)より本場アメリカ生まれ育ちだけあって古い感覚をそのまま引きずっている。スカイ・サクソン(1937-2009)は1948年生まれとサバを読みデビューしましたが、遅れてデビューしただけで世代的には初期の白人ロックン・ローラーに属するのです。エルヴィス・プレスリー(1935-1977)、カール・パーキンス(1932-1998)、ジェリー・リー・ルイス(1935-)、ロイ・オービソン(1936-1988)、ジーン・ヴィンセント(1935-1971)、バディ・ホリー(1936-1959)、エディ・コクラン(1938-1960)、ディオン(&・ザ・ベルモンツ、1939-)、ジョニー・バーネット(1934-1964)、リッキー・ネルソン(1940-)、デル・シャノン(1934-1990)、ワンダ・ジャクソン(1937-)と'50年代半ばからすでにヒットを飛ばしていた白人ロックン・ローラーを見渡してもスカイ・サクソンがいかに遅れてデビューしたか、また初期の白人ロックはティーンエイジャーによるティーンエイジャー向けの音楽だったかが痛感されます。

 本作は「The Seeds」とステッカーが貼られたジャケットも存在しますが、先行シングルもシングル・カット曲も含まれず、GNPクレッシェンド・レコーズ自体がファン向けのコレクターズ・アイテムと割り切って発売した形跡があります。'91年のキング・レコードからの伊藤秀世氏監修の日本盤リリースでも本作は外され、1996年の英デーモン・レコーズ盤GNPクレッシェンド時代のザ・シーズのCD3枚組ボックス・セット、2001年の英エドセル・レコーズのザ・シーズ全集3枚のうちの『Future / A Full Spoon of Seedy Blues』に収められた他は英ビッグ・ビート・レコーズの拡張版CDリマスター盤『ア・ウェブ・オブ・サウンド』にモノラル・マスターが収録された他は、日本盤がインディーズのハヤブサ・ランディングから2010年に発売されたのが唯一の単品CD化となっています。ザ・シーズのオリジナル曲は正味「プッシン・トゥ・ハード」「恋しい君よ(独り占めしたいのに)」「ミスター・ファーマー」の3パターンくらいしかなく、オリジナル・アルバムは全部そうなのですが、唯一本作だけがブルースのコード進行の曲で占められているのでいつものザ・シーズ節が相変わらずのスカイ・サクソンのヴォーカルと同じリフしか弾かないキーボード、手数の少ないメトロノーム的なドラムスくらいにしか感じられない。ギターやサックス、ブルースハープマディ・ウォーターズのバンドからゲスト参加しているので、ザ・シーズ名物の指のまわらない千鳥足ギターやサイケなだけのスライド・ギターが聴けない。いつものザ・シーズ節もワンパターンの曲想だからこそ活きるのですが、ザ・シーズのワンパターンは他のバンドにはちょっと聴けない、実はザ・シーズだけの魅力だったのが逆にわかる。ブルース・フォームの楽曲をやり、それだけでアルバムを作るとスカイ・サクソンのセンスは'50年代のティーンエイジ・ロックの次元に先祖帰りしてしまうのです。
 ザ・シーズ結成以前にスカイ・サクソンは本名のリッチー・マーシュ名義で'62年~'63年にソロ・シングルが数枚あり、それらはフランスのエヴァ・レーベルからザ・シーズ名義でザ・シーズ末期のMGMからのシングル2枚・自主制作シングル1枚のAB面とともにコンピレーション盤『Bad Part of Town』'82にまとめられましたが、ザ・シーズ以前のリッチー・マーシュ名義のソロ・シングルはモロに'50年代ロック衰退後・ビートルズ登場以前のティーンエイジ・ポップスそのものでした。ジェファーソン・エアプレインのマーティ・ベイリン(1942-2018)にも同時期に似たようなソロ・シングルがあるのを思えば、ビートルズストーンズ登場によって起こったバンド指向が音楽性ともどもどれだけ多くの変化をアメリカのロック・ミュージシャンたちにおよぼしたかがわかります。アメリカのロック研究家マーク・ノーブルスによるとビートルズが全米ブレイクした1964年からプロとアマチュアのバンドに明確に区分がついた1968年までにアメリカ合衆国に何らかの活動実績を残したバンドは18万組以上にも上がるそうで、それを思えばザ・シーズでさえも18万組以上のロック・バンド中のトップクラスということはできる。またセンスが古かろうと勘違いだろうとザ・シーズほど天衣無縫にサイケデリックなラヴ&ピース天国、セックス・ドラッグ&ロックン・ロール賛歌で一貫していたバンドはないので、本作は白人ブルースのアルバムとしては最低ですが、スカイ・サクソンがやればこういう中途半端な変なアルバム、'50年代ロカビリーのセンスのまま'60年代モダン・ブルースをやって真剣なのに冗談みたいなアルバムになってしまったのもヒッピーかぶれの30男らしい天然の底抜けさがあります。しかも大御所マディ・ウォーターズのお墨つきとあっては、マディ様も何と度量の広い、リップサーヴィスに惜しみないお方ではないでしょうか。