人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ザ・シーズ The Seeds - ロウ・アンド・アライヴ Raw & Alive (GNP Crescendo, 1968)

ザ・シーズ The Seeds - ロウ・アンド・アライヴ~ザ・シーズ・イン・コンサート・アット・マーリンズ・ミュージック・ボックス Raw & Alive: The Seeds in Concert at Merlin's Music Box (GNP Crescendo, 1968) Full Album : https://youtu.be/x00NaD5Cjf0

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Recorded at Western Recorders Studio, Hollywood, California, April 1968
Released by GNP Crescendo Records GNPS 2043, May 1968
Produced by Marcus Tybalt (aka Sky Saxon, The Seeds), Neil Norman
(Side One)
A1. 開幕 Introduction by Humble Hive - 0:20
A2. ミスター・ファーマー Mr. Farmer (Sky Saxon) - 3:50
A3. ノー・エスケープ No Escape (Sky Saxon, Jimmy Lawrence, Jan Savage) - 2:25
A4. サティスファイ・ユー Satisfy You (Saxon, Savage) - 2:00
A5. ナイト・タイム・ガール Night Time Girl (Saxon) - 2:30
A6. アップ・イン・ハー・ルーム Up in Her Room (Sky Saxon, Daryl Hooper) - 9:45
(Side Two)
B1. ジプシーのドラム Gypsy Plays His Drums (Saxon, Hooper) - 4:30
B2. 恋しい君よ Can't Seem to Make You Mine (Saxon) - 2:30
B3. マンブル・アンド・ハンブル Mumble and Bumble (Saxon) - 2:25
B4. あなたの森 Forest Outside Your Door (Saxon) - 2:40
B5. 世界は恋でいっぱい 900 Million People Daily (All Making Love) (Saxon) - 4:50
B6. プッシン・トゥ・ハード Pushin' Too Hard (Saxon) - 2:40
[ The Seeds ]
Sky Saxon - lead vocals, bass guitar, harmonica
Daryl Hooper - organ, piano
Jan Savage - lead guitar, gong, backing vocals
Rick Andridge - drums, backing vocals
with Additional Musician
Harvey Sharpe - bass guitar

(Original GNP Crescendo "Raw & Alive" LP Liner Cover & Side One Label)

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 当時の西海岸の人気DJだったというハンブル・ハーヴェイによるバンド紹介のMCにつづいて、ものすごい歓声とともに荒々しい演奏が始まり、演奏中も歓声はギャーギャーと止まない狂熱の「ライヴ盤」……タイトルにも『ザ・シーズ・イン・コンサート』と名うってあるから当然そう思いますが、'70年代から批評家に歓声をかぶせた未発表テイクの擬似ライヴではないか、と疑われていたのが'90年代のCD復刻ではマスターテープの調査によりやはりスタジオ録音のテイクにファンの歓声をダビングしたものなのが判明しました。しかしそれは本作の価値を下げはしないので、ザ・シーズのメンバーの耳には本当にこれだけの観客の歓声が聞こえていたのではないか、と思われる白熱のスタジオ・ライヴです。ロックのライヴ・アルバムとしてはストーンズの『ガット・ライヴ・イフ・ユー・ウォント・イット』'66.11、ザ・タイガースの『ザ・タイガース・オン・ステージ』'67.11、ザ・キンクスの『ライヴ・アット・ケルヴィン・ホール』'68.1、オックスの『テル・ミー/オックス・オン・ステージNo.1』'69.3、ザ・テンプターズの『ザ・テンプターズ・オン・ステージ』'69.7、ザ・フーの『ライヴ・アット・リーズ』'70.5に並ぶものでしょう。
 全11曲中既発表曲は「ミスター・ファーマー」「ノー・エスケープ」「アップ・イン・ハー・ルーム」「恋しい君よ」「プッシン・トゥ・ハード」の5曲で、「サティスファイ・ユー」「ナイト・タイム・ガール」「ジプシーのドラム」「マンブル・アンド・ハンブル」「あなたの森」「世界は恋でいっぱい」の6曲が新曲。そして新曲6曲はザ・シーズ歴代の名曲のレベルを押し上げる名曲ぞろいと言えるものです。

 '67年8月発表の第3作『フューチャー』を峠にザ・シーズの人気は急速に凋落しました。アルバム未収録シングルの名曲「ザ・ウィンド・ブロウズ・ユア・ヘアー」はアルバム『フューチャー』を凝縮したようなザ・シーズの勝負球でしたがチャートインせず、第2作の直後に完成されていたスカイ・サクソン・ブルース・バンド名義のブルース・アルバム『ア・フル・スプーン・オブ・シーディ・ブルース』'67.11もチャートインを逃しました。バンドとGNPクレッシェンド・レコーズの間では『フューチャー』を継ぐサイケデリック路線のアルバムをもう1作かそれとも、という方向性の迷いがあり、『フューチャー』のセッションではほぼアルバム2枚組相当分の未発表曲が録音されています。とりあえず完成済みで未発表だったアルバム『シーディ・ブルース』が発表されたわけですが、当時の流行の推移は速く、'68年初頭にはザ・シーズの全米チャート入り規模のヒットは望めなくなりました。そこで、バンドは根強い地元のハリウッド近辺のファンのみに狙いを絞って、地元ではロングセラーをつづけてライヴのメイン・レパートリー曲を収録する第1作・第2作のガレージ・パンク路線に回帰したライヴ・アルバムの制作を思い立ちました。

 2014年発売のイギリスのビッグ・ビート・レコーズからの拡張版リマスターCD『ロウ・アンド・アライヴ』で初めて発表されましたが、ザ・シーズはまず'68年2月20日にファンを招いてGNPクレッシェンド社主のジーン・ノーマンのMCで14曲・1時間強のスタジオ・ライヴを収録しました。リマスターCDではディスク2にこの時の全曲が収められており、『ロウ・アンド・アライヴ』収録の11曲に加えて第2作からの「ア・フェイデッド・ピクチャー」、第3作からの「2本の指」「フォーリン」を演奏しています。観客入りライヴですから歓声は普通です。ザ・シーズはそのスタジオ・ライヴの出来に満足しなかったので、4月に今度は観客を入れずにスタジオ・ライヴを行い、それが本作のベーシック・トラックになりました。拡張版リマスターCDのディスク1には歓声をかぶせる前の10曲(「世界は恋でいっぱい」が未収録)、歓声をかぶせた完成版『ロウ・アンド・アライヴ』のリマスター音源を収録しています。
 問題になるのは「900 Million People Daily (All Making Love)」こと「世界は恋でいっぱい」ですが(原題「9億人の人々が毎日セックスしている」を「世界は恋でいっぱい」とはうまい邦題です)で、ザ・シーズ初のコンピレーション盤『Fallin' Off The Edge』'77の増補改訂再編集盤と言えるGNPクレッシェンド・レコーズからのコンピレーションCD『Travel with Your Mind』'93で初めて発表された完全版の同曲は10分20秒(冒頭40秒はスタジオ・トークなので実質9分40秒)あり、同曲はシングル・カットされた「サティスファイ・ユー」のB面では4分11秒でフェイドアウトしていますが、『ロウ・アンド・アライヴ』のアルバム・ヴァージョンでも4分50秒でフェイドアウトしており、後半5分はまるまるカットされています。実質9分40秒の全長版を聴くとこの曲は「アップ・イン・ハー・ルーム」以上に徹底した1コードのリフだけの曲ですが、前半はメジャーコード、後半はぐったりヘヴィにマイナーコードに変化するのがザ・シーズのアレンジ力の向上を示しており、第2作では14分半あった「アップ・イン・ハー・ルーム」も『ロウ・アンド・アライヴ』では9分50秒に短縮された替わりにテンポの速い、第2作での演奏より格段に躍動感の増した好演奏になっており、再演にとどまらない効果を上げているのには目をみはらせます。

 第1作・第2作の粗っぽいガレージ・サウンドもいいのですが、本作はスタジオ・ライヴ1発録りが余計な装飾を取り払い、また全体的に性急でファンキーなビート感が高まっているのが感じられます。テクニカルな意味での演奏力の向上というのとはちょっと違うのですが、黒人音楽とはまた異なる白人ロックならではの方向でリズム感が非常に柔軟になっている。それでもこなれた演奏でかたづかないのは楽曲の単純さ、アレンジ力が向上しても決して複雑にもテクニカルにもならない稚拙さを残しているからで、基本的な音楽性は変わらないのにサイケデリックな複雑な装飾性を採り入れた『フューチャー』ではなく『ロウ・アンド・アライヴ』の方向が第1作・第2作からザ・シーズが進展していくのにふさわしかったのが『フューチャー』には収録を見送られ本作にシンプルなスタジオ・ライヴ・アレンジで収録された「サティスファイ・ユー」「ジプシーのドラム」「世界は恋でいっぱい」などの出来から伝わってきます。しかしGNPクレッシェンド・レコーズからのザ・シーズのオリジナル・アルバムは本作が最後になり、ザ・シーズは以降'69年にGNPクレッシェンドからシングル2枚を発表してレーベルを離れ、サクソン以外のメンバーは総入れ替えでMGMから'70年にシングル2枚、またかろうじて'72年に自主制作シングル1枚を発表しますが、同年解散してしまいます。それらのアルバム未収録シングルも出来は良く、ラスト・オリジナル・アルバムの本作がザ・シーズの到達点であるとともに新たな出発点にもなり得ただけにオリジナル・メンバーのザ・シーズのアルバムがいったんここで終わりになったのは惜しまれますが、レッド・ツェッペリンピンク・フロイドザ・バンドやクロスビー・スティルス&ナッシュがのしてきた'70年代の到来にザ・シーズの活躍の余地はなかった、とも言えます。またオリジナル・アルバム5作でザ・シーズはひとまず全力を尽くしたと言えるので、2010年代にもなってオリジナル・アルバムの数倍の未発表音源がまとめられたのは50年近く埋もれていた時限爆弾のようなものです。