ジ・エレクトロニック・ホール The Electronic Hole (Radish, 1970)
ジ・エレクトロニック・ホール The Electronic Hole (Radish, 1970) Full Album : https://youtu.be/NrZahUX_QTc
Released by Radish Records Radish A.S.0002, Orange County, California, January 1970 (Private Press, 200 Copy Only)
Recording Engendered by Joe Sidore
Produced & Composed by Phil Pearlman
(Side 1)
A1. The Golden Hill - 16:57 (Part 1-4)
(Side 2)
B1. Love Will Find A Way - 15:45 (Part 1-3)
[ The Electronic Hole ]
Phil Pearlman, Bill Younger, Rick Mandelbaum, Toni Sartorio, Wendell Keesee III
*
(Original Radish "The Electronic Hole" LP Liner Cover & Side 1 Label)
ほとんど事前の作曲・アレンジはなかったような印象を受ける長尺集団即興演奏の『ザ・ビート・オブ・ジ・アース』と較べると、本作はA面の4パート、B面の3パートがそれぞれ個別の曲名をつけて独立させてもいいのでは、というくらい楽曲単位が聴きやすく、キャッチーでポップなまとまりを持っています。曲想もアレンジのアイディアも楽曲ごとに明快な特徴があり、まるで曲になっていない即興演奏の前作とは一聴してまったく異なったアルバムに聴こえます。クレジット上ではフィル・パールマン以外メンバーも総入れ替えになっています。しかし『ザ・ビート・オブ・ジ・アース』正規盤リマスターCD再発時の録音エンジニアのジョー(ジム)・サイドアの証言で、本作は実際はフィル・パールマン一人の多重録音による完全ソロ・アルバムだったのが判明しました。電子音楽系実験音楽を別にすればロックのワンマン多重録音アルバムではポール・マッカートニーの『マッカートニー』'70.9が有名ですし、さらに早くスキップ・スペンスの伝説的アルバム『オール(Oar)』'69.5があり、日本でも早川義夫の『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』'69.11やかまやつひろしの『ムッシュー かまやつひろしの世界』'70.2がありました。早川義夫のアルバムはシンプルなフォークに近いとしても、パールマンの本作はかまやつひろしやスペンス、ポールと遜色ないほどの凝り方です。6年後の次作『リラティヴリィ・クリーン・リヴァース』では再び最小限のメンバーを迎えるとともにさらに洗練された楽曲指向に向かうのですが、実は本作からラーガ調のフレーズやファズギターを引くと次作のスタイルがすでに現れている。さらに本作では楽曲単位にすっきり整理されたアレンジ要素は前作の一見散漫な即興演奏のあちこちにちりばめられていて、たとえば前作の旧LPのA面(「Beat of the Earth (Side 1)」)末尾ではラーガ調ギターやウクレレなどがいっせいにバラバラな民謡調メロディを奏でますが、チャールズ・アイヴス風のこの手法はよく聴くと「おおスザンナ」の音列を組み換えたもので、クライマックスに向けて徐々に「おおスザンナ」ができあがっていくのが聴きとれる。同一セッションからの別テイク・アルバム『Our Standard Three Minute Tune』が編集されていることからもテープ編集やミックス時のダビングで作品化されているのは明らかで、散漫で馬鹿みたいな即興演奏ロックに聴こえるのは流して聴いているとまるで音楽的計算の見えない仕上がりにわざと仕上げてあったのがわかる。前作の場合はバンド形態だったので、'70年代のブライアン・イーノのポーツマス・シンフォニア(素人ばかりを集めてクラシック楽曲のぐだぐだのアルバム録音をする)のような構想が試せたのでしょう。本作はパールマン一人の多重録音だったので曲想やアレンジが楽曲単位でまとまる方向に向かったのだと思います。アンダーグラウンドなサイケデリック・ロックの多重録音アルバムとしてはスペンスの『オール』に匹敵する評価があっても良さそうな名作ですが、これに近い作風ならフランク・ザッパという巨匠が巨大なスケールでマザーズ時代のアルバムですでに一巡していて、自主制作盤LP限定200枚プレスでは注目されようもなかったでしょう。またジャケットの表裏を見ても本作はジ・エレクトロニック・ホールという新バンドのアルバムかザ・ビート・オブ・ジ・アースの第2作かまぎらわしいデザインになっていて、そこらへんの自主制作盤らしい道楽ぽさがプロフェッショナルに徹したザッパとの持ち味の違いでもあり、次作発表の1976年以来『ザ・ビート・オブ・ジ・アース』のマスターテープからの正規盤リマスターCD再発が実現した2016年になっても40年来関係者にすら消息不明という得体の知れなさがフィル・パールマンの神秘性をいや増しているとも言えそうです。

Released by Radish Records Radish A.S.0002, Orange County, California, January 1970 (Private Press, 200 Copy Only)
Recording Engendered by Joe Sidore
Produced & Composed by Phil Pearlman
(Side 1)
A1. The Golden Hill - 16:57 (Part 1-4)
(Side 2)
B1. Love Will Find A Way - 15:45 (Part 1-3)
[ The Electronic Hole ]
Phil Pearlman, Bill Younger, Rick Mandelbaum, Toni Sartorio, Wendell Keesee III
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(Original Radish "The Electronic Hole" LP Liner Cover & Side 1 Label)


ほとんど事前の作曲・アレンジはなかったような印象を受ける長尺集団即興演奏の『ザ・ビート・オブ・ジ・アース』と較べると、本作はA面の4パート、B面の3パートがそれぞれ個別の曲名をつけて独立させてもいいのでは、というくらい楽曲単位が聴きやすく、キャッチーでポップなまとまりを持っています。曲想もアレンジのアイディアも楽曲ごとに明快な特徴があり、まるで曲になっていない即興演奏の前作とは一聴してまったく異なったアルバムに聴こえます。クレジット上ではフィル・パールマン以外メンバーも総入れ替えになっています。しかし『ザ・ビート・オブ・ジ・アース』正規盤リマスターCD再発時の録音エンジニアのジョー(ジム)・サイドアの証言で、本作は実際はフィル・パールマン一人の多重録音による完全ソロ・アルバムだったのが判明しました。電子音楽系実験音楽を別にすればロックのワンマン多重録音アルバムではポール・マッカートニーの『マッカートニー』'70.9が有名ですし、さらに早くスキップ・スペンスの伝説的アルバム『オール(Oar)』'69.5があり、日本でも早川義夫の『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』'69.11やかまやつひろしの『ムッシュー かまやつひろしの世界』'70.2がありました。早川義夫のアルバムはシンプルなフォークに近いとしても、パールマンの本作はかまやつひろしやスペンス、ポールと遜色ないほどの凝り方です。6年後の次作『リラティヴリィ・クリーン・リヴァース』では再び最小限のメンバーを迎えるとともにさらに洗練された楽曲指向に向かうのですが、実は本作からラーガ調のフレーズやファズギターを引くと次作のスタイルがすでに現れている。さらに本作では楽曲単位にすっきり整理されたアレンジ要素は前作の一見散漫な即興演奏のあちこちにちりばめられていて、たとえば前作の旧LPのA面(「Beat of the Earth (Side 1)」)末尾ではラーガ調ギターやウクレレなどがいっせいにバラバラな民謡調メロディを奏でますが、チャールズ・アイヴス風のこの手法はよく聴くと「おおスザンナ」の音列を組み換えたもので、クライマックスに向けて徐々に「おおスザンナ」ができあがっていくのが聴きとれる。同一セッションからの別テイク・アルバム『Our Standard Three Minute Tune』が編集されていることからもテープ編集やミックス時のダビングで作品化されているのは明らかで、散漫で馬鹿みたいな即興演奏ロックに聴こえるのは流して聴いているとまるで音楽的計算の見えない仕上がりにわざと仕上げてあったのがわかる。前作の場合はバンド形態だったので、'70年代のブライアン・イーノのポーツマス・シンフォニア(素人ばかりを集めてクラシック楽曲のぐだぐだのアルバム録音をする)のような構想が試せたのでしょう。本作はパールマン一人の多重録音だったので曲想やアレンジが楽曲単位でまとまる方向に向かったのだと思います。アンダーグラウンドなサイケデリック・ロックの多重録音アルバムとしてはスペンスの『オール』に匹敵する評価があっても良さそうな名作ですが、これに近い作風ならフランク・ザッパという巨匠が巨大なスケールでマザーズ時代のアルバムですでに一巡していて、自主制作盤LP限定200枚プレスでは注目されようもなかったでしょう。またジャケットの表裏を見ても本作はジ・エレクトロニック・ホールという新バンドのアルバムかザ・ビート・オブ・ジ・アースの第2作かまぎらわしいデザインになっていて、そこらへんの自主制作盤らしい道楽ぽさがプロフェッショナルに徹したザッパとの持ち味の違いでもあり、次作発表の1976年以来『ザ・ビート・オブ・ジ・アース』のマスターテープからの正規盤リマスターCD再発が実現した2016年になっても40年来関係者にすら消息不明という得体の知れなさがフィル・パールマンの神秘性をいや増しているとも言えそうです。