人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新発見!ジョン・コルトレーン『至上の愛』ライヴ!

ジョン・コルトレーン - 至上の愛~ライヴ・イン・シアトル (Impulse!, 2021)
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ジョン・コルトレーン John Coltrane - 至上の愛~ライヴ・イン・シアトルA Love Supreme / Live In Seattle (Impulse!, 2021)
Recorded at The Penthouse, Seattle, US, October 2, 1965
Released by Impulse! Records / Universal Music Entertainment CD 00602438499977, October 22, 2021
Recorded by Joe Brazil
(Tracklist)
1. 至上の愛 パート1:承認 A Love Supreme, Pt. I - Acknowledgement - 21:59 : https://youtu.be/28FDmhoAV0M
2. インタールード1 Interlude 1 - 2:36
3. 至上の愛 パート2:決意 A Love Supreme, Pt. II - Resolution - 11:05
4. インタールード2 Interlude 2 - 6:26
5. 至上の愛 パート3:追求 A Love Supreme, Pt. III - Pursuance - 15:44
6. インタールード3 Interlude 3 - 6:38
7. インタールード4 Interlude 4 - 4:20
8. 至上の愛 パート4:賛美 A Love Supreme, Pt. IV - Psalm - 7:21 : https://youtu.be/CmDbJ8TrQe8
[ John Coltrane Septet ]
« The John Coltrane Quartet »
John Coltrane - tenor saxophone, percussion
Jimmy Garrison - double bass
Elvin Jones - drums
McCoy Tyner - piano
with
Carlos Ward - alto saxophone
Pharoah Sanders - tenor saxophone, percussion
Donald Garrett - double bass

(Original Impulse! "A Love Supreme / Live In Seattle" CD double Digipack Liner Cover, Inner Cover & CD Label)
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See also : https://ameblo.jp/fifth-of-july/entry-12581228921.html

 ジョン・コルトレーンのアルバム『至上の愛 (A Love Supreme)』(Impulse!, 1965.1)はインパルス!レコーズのプロデューサー、ボブ・シールの下、ニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオで1964年12月9日と10日のセッションで録音されています。オリジナル・アルバムには9日のコルトレーン・カルテットによるマスター・テイクのみが収録され、10日に録音さセクスセット(2テナー、2ベースの6人編成)のアーチー・シェップ(テナーサックス)とアート・デイヴィス(ベース)を迎えてパート1のみを演奏見直した10日録音分は没にされ、2002年のCD2枚組、2015年のCD3枚組の没テイク増補版まで未発表になりました。また『至上の愛』全4曲はカルテットによって1965年7月26日にフランスのアンティーブ・ジャズ祭で全曲演奏され(約48分)、フランスの国営放送がラジオ中継していたその時のライヴしかライヴ・テイクが残っておらず、その時以外に全4曲がバラでも通してでも演奏された記録も証言もなかったため、それが唯一の『至上の愛』ライヴ演奏だと推定されていました(長い間ハーフ・オフィシャルのインディー盤で出回っていたこのアンティーブ・ジャズ祭でのライヴも、2002年・2015年の増補版CDに公式収録されました)。ところが昨年、コルトレーン・カルテットが1965年10月の西海岸ツアー時に、コルトレーンの弟子格だったファロア・サンダース(テナーサックス)、現地で加わったカルロス・ワード(アルトサックス)、ドナルド・ギャレット(ベース)を含むセプテット(7人編成)でのライヴ演奏が、やはりこの西海岸ツアー時にコルトレーンと共演したミュージシャンのジョー・ブラジルによって、コルトレーンの許可のもと素人録音ながらクラブの天井からぶら下げた2本のマイクで録音されたテープが残っていたのが発見され、極力全貌を捉えた編集とリマスターによりCD化され、この2021年10月22日に全世界同時発売されました。YouTubeでは予約開始の8月26日に「至上の愛 パート4:賛美 (A Love Supreme, Pt. IV - Psalm)」が公開され、また発売日の10月22日には「至上の愛 パート1:承認 (A Love Supreme, Pt. I - Acknowledgement)」もYouTube上に公開されました。

 スタジオ盤『至上の愛』ではパート1が7分47秒、パート2が7分22秒(以上旧LPではA面)、パート3とパート4(旧LPではB面)はシームレスで17分53秒(のちのCD化でパート3は10分42秒、パート4は7分05秒と分割)、全編33分02秒だったのに対して、1965年7月26日のフランスのアンティーブ・ジャズ祭ではパート1が6分12秒、パート2が11分37秒、パート3が21分30秒、パート4が8分49秒と、全編で48分と、スタジオ盤の1.5倍あまりの長さになっています。今回の1965年10月2日のライヴでは曲間のインタールード(つなぎ)部分4箇所を含めると75分以上に上り、明確に曲として演奏された部分だとパート1が21分59秒、パート2が11分05秒、パート3が15分44秒、パート4が7分21秒と、コルトレーン以外のサンダース、ワードのソロを含むパート1とパート3の長尺演奏が目立ち、全編ではスタジオ盤の2倍の長さになっていますが、ほぼコルトレーン・カルテットのみで他のサックス奏者のソロはないパート2とパート4はスタジオ盤とあまり変わらない長さになっています。しかしインパルス!側が先に試聴用にアップしたパート4こそピアノ、ベース、ドラムスが控えめのためコルトレーンのテナーサックス演奏が比較的大きく聞こえて期待を抱かせますが、アルバム発売日にアップされたパート1は録音マイクのポジションのせいかピアノとドラムスは聴こえるもベースは途切れ途切れにしか聴こえず、コルトレーンのテナーサックスにいたってはヘッドホンでもしない限りほとんど聴こえません。

 筆者は昨日初めてこの発掘ライヴの発売を知ったので、YouTubeに上がっているパート1とパート4しかまだ聴いておらず、現在通販サイトに注文した商品の到着待ちですが、2010年代以降毎年のように公式発掘されている未発表スタジオ音源、新発見発掘ライヴ音源でも今回はあまりに音質(収録バランス)に難があり、今回の精査で1965年7月26日フランス、アンティーブ・ジャズ祭、1965年10月2日シアトル、ペントハウス出演以外『至上の愛』ライヴ演奏例はないとほぼ確定したようですから、ラジオ中継音源ほどではなくてもせめてもう少し良い録音はできなかったかと、臨場感すらあまり感じられないこのライヴは期待と実物の落差が大きすぎて、CDで聴いて聴き慣れるまで愛聴盤にはなりそうもない、なんとももどかしいアルバムになりそうです。アンティーブ盤の音質・ミックスバランスが演奏の気迫と臨場感を伝える名演だっただけに、また先行公開されたパート4で期待が持ててパート1を聴いたらピアノとドラムスのやる気のまったくない四つ打ちばかりが目立ち、しかもこの曲の肝心要なリフを弾くベースばかりか、コルトレーンのテナーまで聴こえないとあっては、CDが届いて聴いてますます落胆はしないかとしばらくシュリンク・シールドも封を切る気になれないような気がします。『至上の愛』を未聴の方は、まず引用記事の方からこの名盤をご試聴ください。名演ライヴのアンティーブ・ジャズ祭版もそちらに載せています。録音状態さえ良かったらこれも第三にして最後の『至上の愛』になっただろうかと、シアトル版発掘ライヴはその後です。