人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

病棟スケッチ(1)

内山さん(仮名)は小柄な女性で身長145?もなかっただろうか、物静かで大概部屋に引っ込んでいたのでルームメートと何歳なんだろう、とても病気には見えないね、と話していたものだ。「小学生なんじゃないかな」と三井さん(仮名)。「まさか。小学生だったら小児病棟でしょう」とぼく。
ある晩彼女はナースステーションの前で体育座りでしくしく泣いていた。三井さんに話すと「ほら、やっぱり小学生だよ」
1か月ほどの入院で彼女は退院した。三井さんも退院した。三井さんは自殺未遂で助かって鬱から吹っ切れた好例だった。「これからは無理しないでいくよ。欲張りもしないし、あきらめもしない」
三井さんの退院から数日後、内山さんは再入院になった。挨拶くらいは交わしていたので彼女から話かけてきた。「戻ってきちゃいました…三井さんは?」「無事に退院されましたよ。内山さんも大変でしたね」「ええ、大丈夫だと思ったんですけど…」明らかにぼくに打ち明けたそうだったので「廊下も何ですから、場所を移しましょうか」と大食堂の片隅に座った。
「私は38歳で5歳の男の子がいるんですけど」と彼女はいきなり切り出してきた。「そうですか。可愛い盛りでしょう」とぼくはにっこりして内心の動揺を隠した。ぼくが当事不倫関係にあり、これを機に清算しようと思っていた女性と同い年だったからだ。38歳にはとても見えない童顔だが、間近で相対してみると肌は年齢相応なのが判る。
「幼稚園に行っています」と内山さんは言った。「その頃からなんです、幻覚や妄想が始まったのは」「診断名は何ですか」「統合失調症です。入院はこれが初めてです」「落ち着いてらっしゃるように見えますけど」彼女は笑って「最初はひどかったみたいです。気がついたら隔離室で、ナースさんのブレスレット見て「それ私のよ!返してよ!」って掴みかかったり」
「子供を幼稚園にやるようになってからパートに出るようになりました。いい職場でとても楽しかった。その頃から幻覚や妄想が始まりました」「どんな?」「2階に人がいる気配がする、ドアの一部に塗り替えた跡がある…旦那も妹も「そんなことないよ」っていうんですが…結局パート疲れだろうってことで半年前に辞めました」
「今回の入院のきっかけは?」「はい」彼女は笑って、「パジャマで元のパート先に出勤してしまいました」乖離性障害?