人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

「アイスクリームの皇帝」その他

今朝(7月7日)は二度寝して6時半に起きたので、てっきり宵の口かと思い駅前まで買い物に出てしまった。どの店も閉まっている。ものみの塔のおばさんに「計画停電ですか?」と訊いて、「まだ朝早いですから」と返され苦笑した。それどころか昼頃まで今日は8日の金曜日だと思い込んでいた。ちがう。七夕だ。

妻二タ夜あらず二タ夜の天の川(中村草多男)

そうじゃなくて、ぼくはアメリカの詩人、ウォレス・スティーヴンズ(1879-1955)を紹介したくてこの一文に向かったのだった。1922年7月発表「アイスクリームの皇帝」を訳出する。

大きな葉巻を巻く男を呼びなさい、
筋肉質な者を、そして命じよ
厨房のカップに淫らな練乳を泡立てよ、と。
女中たちは着古したままの服装で
うろうろさせよ、そして小姓には
先月の新聞で包んだ花を持たせよ。
見えるものすべてに終りをもたらせ。
唯一の皇帝はアイスクリームの皇帝だ。

ガラスのつまみが三つ足りない
安物の化粧台から、かつて彼女がクジャク
刺繍をし、自分の顔を覆いもした
古布を取り去れ。
彼女がつま先を立てれば、それは
寒さと沈黙の印だ。
ランプを光るがままに任せよ。
唯一の皇帝はアイスクリームの皇帝だ。

…カッコいい(笑)。とても90年前の詩とは思えない。次々訳の判らない命令を下し、不吉な予言めいたフレーズの後で「唯一の皇帝は~」と落とす。
ティーヴンズの詩史的位置はエズラ・パウンドを提唱者とするモダニズムの前衛詩人というところで、T.S.エリオット、W.C.ウィリアムズ、ハート・クレインと肩を並べる。「~皇帝」と同時期のウィリアムズの詩を訳出する。代表作と名高い「赤い手押し車」。

とても
頑丈な

赤い
手押し車

雨に濡れて
光る

そばに白い
ニワトリ

…比較したのがまずかった。ウィリアムズの勝ちではないか(笑)。収録詩集のタイトルはどちらもいい。スティーヴンズが『ハーモニウム』('Harmonium'1922年・44歳)、ウィリアムズが『春とすべて』('Spring And All'1923年・39歳)。訳してみた感想は、どっちも面白かったけど。