人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

復刻・市島三千雄全詩集(4)

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新潟商業中退後、家業の洋品店を経営したが、その後上京。1925年2月萩原朔太郎の推薦で入選。新潟の詩友と同人誌「新年」を創刊。1926年8月以後は同誌への発表が中心となる。これが知られる市島の全履歴になる。

『痩せていて悪知恵がある』

痩せている
其の上悪知恵があって
母はいつも泣く
上等なペンと時計を買ってくれた

試験の點を言われてのち、一時間の課業をつぶして
先祖代々の履歴をぬいて、母をぬいて先生にしかられて

其の意気を持って其の意気を持って
此の暴風(あれ)た堤を横にくたばれ
貧弱に痩せてくたばれ。
(補遺・「日本詩人」1925年2月)

●無題(私生子は…)

私生子は真白ろけで下品でない
弱虫であるから性欲が無い腰が細くて着物は袋なのである
私生子は何時とは知らず自分の話を知ってしまうのである
偉いから泣かないそして自分ばっかり思っている。母には一度も言わないのである
母が啜って泣いたし着物に樟脳の香いがしたから私生子は黙ってしまうのである
そして母と子の間が瑞々しくて母は少しも訓えない
私生子は蟲のようなのである
夜時々眠られない目がさえてしまう自分の存在がわかってやっとのことで寝てしまうし
沈黙で私生子に視られたから系統の話は大嫌いなのである
結婚することが出来なかったから私生子は移転するそして行衛知れずになってしまう
母が気が利いて居たけれど相手にされぬよな気持がしたし
私生子は田舎が駄目であった
何処へ行ってしまうかわからないそして家が残ってしまうのである
何時もぼんやりとしてしまうし金を貯蓄する勇気が脱けて苦学する体力が欠けている
私生子は永久的であったから母がいつも黙っている親類が無かったし世間の人は金の送られる場所が不明(わから)ないのである
一軒家の様でもあるし赤ん坊の為家が暴らされる事が無い閑(ひっそり)して歌声がない
私生子はどうしても都が故郷なのである
子供が大きくなると引っ越してしまうしどうなるかわからない
幽霊の様で手紙もよこさない
移転した跡は清潔なのである
皆んなはこのことを知っていないのである
私生子はしっかりして物事に周章てないのである
敷地は湿って居ないのである
(「新年」1926年12月)